474 近衛三騎士が地上に出てくるにあたっての話
「う、うーん......はッ!?」
さて、少し時を遡る。
エミーに一撃で倒され意識を失っていた風弓のビューンは、ペチペチと頬を叩かれる感触を受けてその瞳を開いた。
「目、覚めたかしら?」
「無事、みたいだな。体は動くか?」
するとその視界に映ったのは、心配そうに自分の顔を覗きこむ、雨杖のシトシトリンと陽剣のニッコールの姿であった。
ビューンと同じく、エミーによって流れ作業的に倒されてしまった二人である。
「先輩、団長......」
ビューンは体の具合を確かめながら、ゆっくりと上半身を起こし、深く息を吐いた。
どうやら、そこまで大きなケガはしていないらしい。
骨も無事だ。
しかし......腹のあたりをさすってみると、鎧のその部分だけ大穴が開いている。
胸にはめこまれているはずの、白き宝珠も失われている。
そしてどうやらそれは、シトシトリンとニッコールも同様であるようだ。
つまり......。
「先輩、団長......私たち、負けてしまったんですね......」
あの......正体不明の侵入者、エミーという呪い子の少女に。
この国の最精鋭であるはずの近衛三騎士は、惨敗を喫してしまった、と。
そういうことで、あるらしかった。
「「「............」」」
三人の間に、重苦しい沈黙が流れる。
「私は、一撃は食らわせてあげたんだけど、ね......歯が立たなかったわ」
その沈黙を破り、シトシトリンは苦笑しながらつぶやいた。
「私も、初手から全力の連撃を放ったが......全て、容易くいなされた。全く、恐るべき強さよ」
ニッコールも顎に手を当てながら、神妙な面持ちでそう語った。
............二人とも微妙に、活躍を盛っていた......。
「......私は、弓を引くことすら、かないませんでした」
ビューンは先輩二人の発言を聞いて、己の至らなさを恥じ、眉間に皺寄せ目をつぶり、深く息吐きうつむいた。
でも本当のことを言えば、先輩二人ともお前と大差ないぞ。
そう落ちこむんじゃないぞ。
「そ、そんなことより、ね!?」
「そうだ!落ちこんでいる場合ではないぞ、ビューン!あれを見よ!」
すっかり気落ちしてしまったビューンの様子に、シトシトリンとニッコールは慌てて本題を切り出した。
「え?」
彼らが指さす方向にあるのは、試練の間の壁に設置されたモニターだ。
そしてそのモニターには......謎のバケモノに追いかけられ逃げ回る、ネバーフォール天空王国民たちの姿が映し出されていた!
「な、なんですか、あいつら!?」
「わからぬ......しかし先ほど突然、街中に現れたらしい。このままでは、民が危険だ」
映像を見ながら、わなわなと震えるビューン。
その横で同じく映像を睨みつけながら、ニッコールは静かにそう語った。
「すぐ、助けに......あ、でも......!?」
急ぎ立ちあがり、近くに転がっていた彼の専用武器である魔弓『インフィニット』を手に掴んだビューンは、すぐに地上に向けて走り出そうとして......足を止めた。
何故なら......彼ら近衛三騎士は現在、王により試練の間の守護を命じられているからだ。
敗北したとはいえ......持ち場を離れて良いのか?
そもそも、王はどうなった?
自分は、どう行動すべきなのか?
迷いが、生じたのだ。
「............」
ニッコールはそんなビューンの様子をじっと見つめ、大きく頷いてから......突然大声を出した!
「天空王国騎士心得、その一ーーーッ!!」
ビューンとシトシトリンはその大声を受け、条件反射的に姿勢を正し、声をあわせて暗唱した!
「「我ら騎士は、王の剣にして民の盾ッ!!」」
「......ならばこそ、ここで民を見捨てるは、天空王国騎士の名折れよッ!!......違うか?」
「「団長......!!」」
渋い顔で微笑むニッコールに、ビューンとシトシトリンはキラキラとした眼差しを向けた!
「それにな、そもそも......」
そしてニッコールは、すぐに咳ばらいをして笑みを消すと、真剣な面持ちで二人に問いかけた。
「もはや我らは敗北した。侵入者が先に進んでいる以上、ここに待機し続ける意味は薄い。これ以上、追加で侵入者が現れるとも、思わん」
「それは、そうですね......」
「それと、王の身を案じてそちらに向かったとしても......そこにはあの、侵入者がいる。お前ら、あれに、勝てる気するか?」
「無理ですね」
「無理、ね」
「無理だろう?」
議論の余地なく、全会一致であった。
「それにあの少女も......まあ、悪人では、なかろうからな......つまり、我らが向かうべきは」
「「地上......!!」」
「そういうことだ!」
近衛三騎士たちは互いに目配せしあい頷きあうと、向かい合い己の武器を掲げあって、叫んだ!
「では......行くぞ!民を救うのだッ!!」
「「おおおーーーーーーッ!!」」
そうして彼らは、地上に向かって走り出した!
信念とか妥協とか......色んなものに、その背を押されながら!




