473 王の演説生配信
(凄い......凄いぞ!)
謎の光の直撃を受けたタカタカの思考は、まるで雲一つない青空のように澄みわたっていた。
一のアイデアを思いつけば、即座にそれが十まで膨らみ。
一つ疑問が生まれても、即座にその解答を閃いて、さらには一瞬のうちにその答えを発展させ応用までたどり着く。
この時の彼は、そのような状態にあった。
一言で言えば、冴えに冴えていた!
一体何故、ごく普通の少年であったタカタカが、そんな境地にたどり着けたのか?
超高速で思考を続けるタカタカは、この時......当然ながら、そんな疑問も抱いた。
が、しかし、今それを考えるのは無駄なことだと、その疑問を放り投げた。
何故なら。
(助けるんだ!オレが、天空王国の皆を......助けるんだ!)
この時の彼はその一心で行動しており、余計な疑問に思考を割くことを、良しとしなかったからだ。
「航路設定完了、方向転換、微速航行......開始!」
パチン、パチン、パチン!
制御装置のつまみやらボタンやらをテキパキと操作していくタカタカ。
その結果、これまでずっと定位置での静止状態を保っていた天空王国はゆっくりと、動き始めた!
ぐぐっ......。
「きゃっ!?」
その結果生じた振動によって、エアは小さくよろめいた。
「......あ、まずい、かも」
しかしタカタカはその様子には目もくれず、計器を睨みながら冷や汗を流していた。
「ま、まずいって、何が?」
タカタカの小さなつぶやきを聞き逃さなかったエアの質問に、タカタカは真剣な表情で振り返りながら答えた。
「このまま......このネバーフォールを浮上させ続けることは、不可能なんだ。エネルギータンクが、破壊されているからね。だからオレは、ここから一番近くの第一居住台地『ファーム・ワン』の広大な農地への不時着を目指して、進路を設定したんだ。でも......」
「でも?」
「高度が少し......足りないんだ」
そう言いながら、タカタカは前方のモニターを見あげた。
そこにはネバーフォールのこの先の航路がシミュレートされ、わかりやすく図示されていた。
『ファーム・ワン』はプリンのような形をした巨大な台地だが、現在進行形で少しずつ高度を落とし続けているネバーフォールは、このままでは少しだけ高さが足りないため台地上に不時着できず、その壁面に衝突してしまう!
「そんな......!」
「かと言って、他に適切な着陸地点も存在していない!一体、どうしたら......!」
タカタカは頭を抱えた。
せっかくの冴えわたる頭脳も、解の存在しない問いに対しては、無力!
むしろ様々に検討だけは重ねられるため、より絶望だけが深くなっていく......。
タカタカの視界が、涙でにじみ始めた。
しかし、その時だ!
「少し......どきたまえ」
そう言って......タカタカの軽い体を押しのけ、制御装置の前へと進み出た人物がいた。
「えっ!?」
タカタカは突然のことに目を丸くし、その人物の横顔を見あげた。
「!?」
そしてエアも、その人物の乱入に驚き、思わず息を止めた。
腰までサラサラと流れる美しい金髪と青いマントを翻し。
苦痛でその......エアに良く似た端正な顔を歪めつつ、よろめきながらやってきたその人物は。
「............」
思わず気圧され呆然とするタカタカとエアを尻目に、鬼気迫る表情でパチン、パチ、パチンと制御装置上のいくつかのボタンを弾き。
「ふうーーー............」
深く息を吐き、両手で顔の血の跡をぬぐってから。
パチン!
最後にもう一つ、ボタンを押した。
ピコン!
すると軽快な音と共に制御装置の一部のランプが点灯!
そして、装置上部から......ニュッとカメラが飛び出した。
「皆、聞こえるだろうか......見えているだろうか......?」
その人物は、無理やりに笑みを浮かべ、静かな......しかしそれでいて、良く通る声で。
......名乗りを行った!
「我が名は、セキラン・ネバーフォール......この国の、王である!」
◇ ◇ ◇
『我が名は、セキラン・ネバーフォール......この国の、王である!』
セキラン王の映像は、リアルタイムでネバーフォール天空王国全域に、配信されていた。
王国中に設置されているというモニターに、突然王の姿が浮かびあがったのだ。
一般国民も、反宰相派の活動家も、王宮の官吏も、警備兵も......空軍士官も、警備用飛空艇の乗組員たちも。
皆が驚き一旦声を潜め、王の言葉に耳を傾けた。
『皆も知っての通り、現在我が国は未曽有の危機に瀕している。古来より我が国を蝕んできた悍ましき邪悪の力により、我が国は空を飛ぶ力を失い、バケモノ共が地の底よりあふれ出した』
「ひッ!?」
「そんな......」
「この国......堕ちちゃうの!?」
あちこちで、小さな悲鳴があがる......!
『だが、案ずるな!』
しかし、そんな悲鳴を打ち消すように、セキラン王は力強く言葉を続ける!
『かの忌まわしき邪悪は、既に勇気ある少年......タカタカとその仲間たちによって、打ち滅ぼされたのだ!』
『えッ!?はッ!?』
王の横の方から、何やら小さな少年の声が入りこんだ。
だがしかし、今は緊急事態。
誰もその声に、注目する者はいなかった。
『これより我が国は、第一居住台地『ファーム・ワン』へと不時着する!そのためには、皆の協力が必要だ!飛空艇乗りは皆、王国外壁に牽引チェーンをかけ、少しでもこの国の高度を維持してくれ!』
「......聞いたか!?」
「要は、飛空艇でこの国を、吊りあげるってことですね!?」
「すぐに飛空艇の配置地点、割り出します!」
「全、飛空艇に告ぐ!全、飛空艇に告ぐ!こちら、ネバーフォール天空王国空軍司令室......!」
大穴が開いたままの空軍司令室にてこの放送を聞いた士官たちは、すぐに行動を開始した。
様々な機器が損傷している中、手計算で効率的な飛空艇配置計画を即座に立案し、それを警備用飛空艇に向けて伝達していく!
『騎士及び兵は、街中で暴れているバケモノの駆除を行え!私は皆の力、信じているぞ!』
『やあ、ボク、ネバッフォくん!入......』
「おらああああッ!なめんなバケモノおおッ!!」
「警備兵には、腐れゴミカスしかいないわけじゃねぇってこと、思い知らせてやらああああッ!!」
一方街中では、王の言葉により兵たちの闘志に火がつき、戦闘が激しさを増していた。
超古代魔導文明の遺物たるネバッフォくんも、決して無敵ではない。
勇猛に戦う兵たちの奮闘により......一体、また一体と、ネバッフォくんたちは機能を停止していく!
『......改めて言うが、この国は、堕ちる。その事実はもはや、覆すことはできない』
画面上のセキラン王は、ここで少し声を落とし、目を伏せた。
『だがッ!!』
しかしその澄みわたる青空のような瞳をかっと見開き、まっすぐに前を向いて!
セキラン王は、宣言した!
『民のある限り、ネバーフォールは不滅である!生き残るのだ......力をあわせて!我々は、ついに......ついにッ!自由を、手にしたのだからッ!!』
◇ ◇ ◇
セキラン王の演説は、その言葉を最後に終わった。
「ぐ、はッ......」
彼はすぐに録画を停止すると、ゲホゲホと咳きこみ、堪えていた血反吐を吐いた。
「だ、大丈夫ですか!?」
そしてセキラン王は駆け寄るタカタカのことをじろりと睨みつけ......。
「私は......王として、あれたか?」
静かにそう、問いかけた。
「は、はい!あなたは、王ですよ!?」
「ク、クク......」
質問の意図がわからず慌てるタカタカを見て、セキラン王は口角をあげ、にやりと笑った。
そして、一言。
「娘を......頼んだ」
そうつぶやいて意識を失い、その場に崩れ落ちた。
「陛下!」
イジョーキスが慌てて駆け寄り、その体を受け止める。
「お、お父様......!」
一足遅れ、青い顔でセキラン王に近づくエア。
イジョーキスはテキパキと脈拍をはかり、呼吸を確かめてから、セキラン王の口に懐から取り出したポーションを流しこむ。
そしてエアに向かって、微かに微笑んだ。
「大丈夫。気を失っているだけでございます」
エアはほっと息を吐き、力が抜けて、その場に座りこんだ。
「あ......高度の低下が......止まった!」
そんなエアとイジョーキスの耳に、タカタカの弾んだ声が飛びこんできた!
セキラン王の演説が功を奏し......迅速に動いた飛空艇によって、天空王国の吊りあげが開始されたのだ!
「これなら......急げば、間に合う!こう、こう、そして、こうすれば......皆、助かるよ......!」
パチン、パチパチ、パチン!
もの凄いスピードで制御装置を操作し続けるタカタカ!
ぐん、という振動と共にネバーフォールはその移動速度を増し、着陸予定地である居住台地に向けて、進み始めた!
......だが。
ああ、だが、しかし!
ビイインッ!!
ビイインッ!!
ビイインッ!!
次の瞬間、制御室内に、再度けたたましい警戒音が鳴り響いた!
「えッ!?」
「一体何!?」
タカタカとエアが驚き、慌ててモニターを見あげると、そこには王宮前の噴水広場の様子を映し出した監視カメラの映像が、大画面でポップアップしていた。
「嘘......でしょ!?」
その映像を見て、エアは思わず言葉を失った。
何故なら、そこに映し出されていたのは......。
地面に開いた穴からから次々に這い出てくる、数百体を越える新たなネバッフォくんたちの、姿であったからだ!
しかも良く見ると、そのネバッフォくんたちの表情は......これまで街中で暴れていた個体とは、明らかに異なる。
目をむき、歯を食いしばり......怒りに満ちた表情をしているのだ!
エアたちは知る由もないが、これらは“暴徒鎮圧用ネバッフォくん”。
一定数のノーマルネバッフォくんが倒されることによって出現する......戦闘用機体なのだ!
『『『『『鎮圧するよ!鎮圧するよ!鎮圧するよ!』』』』』
暴徒鎮圧用ネバッフォくんたちは威圧的に叫びながら、ズシンズシンと足を踏み鳴らし......市街地に向かって進軍を開始した!
「ど、どうすれば良いの!?」
唐突な展開に、思わずモニター前で呆然と立ち竦むエア......!
ノーマルネバッフォくんですら数人一組で何とか倒せている現状に、この追加戦力を加えられては......居住台地への不時着まで、民の命を守りきることができない!
だがしかし、エアの表情が絶望に染まった......次の瞬間だった!
ザンッ!!!
そんな凄まじい轟音を鳴らしながら......突然飛来した横薙ぎの“光の斬撃”が最前列の暴徒鎮圧用ネバッフォくん数十体に直撃し、それらを真っ二つに斬り裂いた!
ボンッ!!
ボボンッ!!
ボオオンッ!!
真っ二つになったネバッフォくんたちは、爆発を起こして粉々に砕け散った。
そしてモニター上には、その爆風でマントをなびかせる、三人の人物の後姿が映し出されている!
「あ......あの方々は!」
何やら少し、壊れているが......その三人が着こむ煌びやかな鎧に......エアは見覚えがあった!
いや、ネバーフォール天空王国民であれば、誰しもが彼らのことを知っているはずだ!
この三人は!
無辜の民へと牙をむく、古代のバケモノへと立ち向かう、この三人は!
この国の、最強の騎士たち!
英雄の中の、英雄!
その名も!
......近衛三騎士である!!




