472 ご都合主義の光によるてこ入れ
「う、動かす!?オレが、ネバーフォールを!?」
「そうよ!本当は......私が、やりたかった......でも、無理なの!私には、わからないの!でもタカタカなら......できるんじゃない!?」
エアの必死の懇願を受けて、タカタカは顔を青く染めながらもネバーフォールの制御装置を見つめた。
確かに。
確かにどうやら、基本的なボタンの配置等は、普段彼が操縦している子鼠号と似通っている部分も、多い。
しかし。
「む、無理だよ......」
「タカタカ!?」
タカタカは思わず、弱音を吐いた。
そもそも、例え制御装置の様式が全く同じものであったとしても、その機体の形状や重量によって、当然ながらその操作感覚は大きく異なるものだ。
「オ、オレは、所詮は、小型貨物輸送船の、ただのパイロットに過ぎないんだよ!?」
それなのに、突然、天空王国の操縦をしろ!?
それは、さすがに、難しい。
ましてや、その操縦に、天空王国上の全ての人々の命が、かかっているのだ。
タカタカの臆病な側面が表に現れ、尻ごみをしてしまうのも、致し方ないことであった。
「違う!あなたは、ただのパイロットじゃない!」
しかし震えるタカタカに対して、エアは叫んだ。
「あなたは、勇敢な、パイロットなの!だってあなたは、私をここまで、助けに来てくれた!」
「エア......」
「お願い、タカタカ......私たちの国を、救って!」
タカタカをまっすぐに見つめる澄みわたる青空の如き色合いの瞳には......彼への信頼が、こめられていた。
タカタカは普段は少し頼りないが......やる時には、やる男なのだ。
エアはそれを、これまでのつきあいから、良く知っていた。
もしかしたら......タカタカ本人よりも。
(でも......怖い......!)
しかしタカタカの足はガタガタと震え......制御装置への一歩が、踏み出せない。
勇気が......足りないのだ。
何故か。
それは。
......ある意味では、エミーのせいである。
“本来想定されていた流れ”においてタカタカは、現在へと至る前に、様々な戦いを経験しているはずであった。
天空王国空軍と戦い。
近衛三騎士とも戦い。
最後には、セキラン王と戦っていたはずだった。
そして、数々の戦いを経て、タカタカの精神は。
英雄のそれと認められるほど、鍛えあげられるはずであった。
しかしながら......蓋を開けてみると、どうだ。
それらの強敵を倒したのは......誰か?
エミーだ。
全くの赤の他人であるはずの、何一つとしてそれぞれの敵に因縁を持たないエミーが、ことごとく敵を倒しつくしてしまったのだ!
故にこそ、タカタカたちはこの制御室まで特に消耗もなくたどり着くことができたが。
故にこそ、タカタカの精神は成長しきっておらず......この最終局面で、その双肩にかかる重圧に耐えきれず、怯えに屈してしまったのだ!
(やるんだ......オレが、やるんだ......!)
そう、自分が、やらなくてはならない。
タカタカは、それを理解している。
だから、行動に移りたいと、思っている。
しかし......足が、動かない!
ああ、彼は、勇気ある十歳の少年だ!
しかし、未だ英雄に至らぬ、勇気ある十歳の少年に過ぎないのだ!
どうか......どうか彼のことを、責めないでいただきたい!
......それと、もう一つ付け加えておくが。
そもそも“本来想定されていた流れ”においては。
天空王国が墜落するなんて展開......用意されてはいなかった。
だから、まあ。
彼が尻ごみするのも、仕方がないと、思うのだ。
◇ ◇ ◇
「............」
さて、そんなタカタカたちの様子を、少し離れた位置から無表情に見つめていたのが、エミーだ。
<なんだか、大変なことになりましたね>
ちっとも大変と思っていない口調で、呑気にオマケ様がささやく。
天空王国が墜落しようが、おそらく“エミーは”死なない。
凄く丈夫だからだ。
ならば、現在の天空王国の状況は、オマケ様にとっては深刻な問題ではない。
知らない人間がいくら死のうと、彼女はそこまで気にしないのだ。
「............」
が、エミーはそうではない。
実は彼女は彼女なりに、責任を感じていた。
ちょっとチカチカがうるさかったからつい殴り壊してしまった、あのインテリア......今思えば、あれがアトモとかいう二次元キャラクターの本体であり、それを壊してしまったからこそ、天空王国が墜落するだのなんだのと、皆が慌てている。
彼女は、ちゃんとそれに気づけるくらいの知性も、持ちあわせているんだ。
暴力一辺倒のバケモノではないんだぞ。
「............」
とは言え、どうしたものか。
エミーは腕を組み、首を傾げた。
“天空王国を、壊せ”と言われたら、話は簡単だ。
いくらでも、やりようは思いつく。
しかし、“天空王国の人々を、救え”と言われれば、途端に難易度は跳ねあがる。
なるほど、人々を救うヒーローというのは、難儀なものだ。
そしてそうあろうとする意志は、だからこそ尊いものだ。
解決策をちっとも思いつかないので、思考が脱線し始めたエミーは、そんなことを思った。
しかし、その時だった。
“解決策”はタカタカたちが考えつくでもなく。
エミーが考えつくでもなく。
......空の上から......唐突に、降って来たのだ。
◇ ◇ ◇
それは、大鷲の姿を象った、黄金色の光の塊だった。
その光の塊は、エセレム大霧海の上空に浮かぶ、天空王国ネバーフォール......の、さらに遥か高みから。
まっすぐ......まっすぐ、一直線に、降って来た。
そしてネバーフォール王宮の屋根、その下に何層も続く迷宮の天井を、何故だか何の抵抗もなくするりとすり抜け。
制御室内で震える、タカタカ少年の体に......直撃したのだ!
バシュウウウウンッ!!
「うわあああああーーーーーーッ!?」
その瞬間!
凄まじい轟音と共に制御室内がタカタカを中心として黄金に光り輝き、タカタカはその衝撃に驚き叫び声をあげた!
「タカタカ!?大丈夫!?」
幸い、その発光はすぐにおさまった。
腕でひさしを作っていたエアは、呆然と立ちすくむタカタカに声をかける。
「あ......あ......」
タカタカはプルプルと震え、小さく声を漏らしてから......ぎこちなくエアの方を振り向き、そして。
......突然、エアのことを思いきり、抱きしめた!
「えッ!?」
エアは好きな相手からの初めてのハグに、思わず顔を赤らめ硬直した。
そんなエアの両肩を掴みながら、タカタカは......先程までの怯えた表情がすっかり消え失せた、自身に満ち溢れた笑顔でエアのことを見つめ。
「エア......信じてくれて、ありがとう!オレ......やってみるよ!この国の皆を......絶対に、死なせやしない!」
力強くそう、宣言した!
そしてその小さな体から強い気配を放ちながら、ネバーフォールの制御装置と向かいあい......猛烈な勢いで、操作を開始したのだ!
その姿を、エアはぼうっと呆けた顔で見つめていた。
また、イジョーキスは、タカタカの突然の変わりように困惑の表情を隠しきれない。
「............」
そして、エミーはいつも通り、無表情。
無表情では、あるが。
もし彼女の表情筋が、もう少し働き者であったならば。
彼女はきっとこの時......盛大にしかめ面を作っていたことだろう。
何故なら、突然天井をすり抜けて、タカタカと融合した謎の光の正体。
突然タカタカが、強者の気配を放ち始めた理由。
そのどちらにも、エミーは心当たりがあったからだ。
つまり、あの光は......“神気”だ。
つまり、タカタカは......“主人公”だ。
「............」
気配を消して。
そろり、そろりと足を動かし。
エミーは少しずつ......タカタカたちから、距離をとり始めた。




