467 ぶち壊せ、アトモ・スフィア!
『......よくも、よくもよくもやってくれましたね......侵入者!』
内壁のモニターいっぱいに、巨大な女性の姿が映し出される。
雲のような白い髪を肩まで伸ばし空のように青いドレスを着て、背中から計4対の透明なトンボの翅のようなものを生やした、妖艶なスタイルの女性の姿だ。
それと同時に......制御室内のスピーカーから電子音声が響き始めた!
『私ノ、天空王国ヲ、私ヲ、私ヲ私ヲ、好き勝手ニ壊して......許せない......許せない許せない!!」
その電子音声は、静かな女性の声だった。
しかしながら、静かではあるが、怒りが。
煮えたぎるような怒りが、間違いなくその声にはこめられていた。
そしてまるでその怒りを表現するかのように、制御室中央に浮かぶそれまでは七色に輝いていた巨大な宝玉が、赤一色となり女性の言葉と同調して明滅する!
「あ、あのっ!そのお姿......もしかして、あなた様は......この国を守護する大精霊、アトモ様では!?」
“この宝玉、なんかチカチカして気が散るなぁ”とかエミーが思っていると、彼女が抱きかかえていた少女エアが女性の映像に向かって、そんなことを言い始めた。
エアはもぞもぞと動くと自ら床の上に降り立ち、ふらつきながらも女性の映像と向かい合う。
『む......いかにも、いかにもいかにも。我ガ名ハ、アトモ。大精霊アトモ。贄ノ姫よ、オマエト話すのハ初めてですガ、オマエモ王族ならバ、聞いたことガあるでしょう?額ニ空色ノ宝玉輝く天上ノ美姫......それ、それそれこそガ、私デあるト!』
「えっと......」
『額に空色の宝玉輝く天上の美姫』......そう、己のことを言い表すアトモに対して、エアは言葉を濁した。
何故かと言えば、それは。
......アトモの顔が表示されているはずの、その場所に......ちょうどセキラン王がめりこんでおり......人型の穴やら周囲に広がるヒビやらのせいで、そこだけ映像が見えなくなっているからだ!
『ふむ、ふむふむ。オマエ、さては我ガ美貌ニ、心ヲ奪われましたか?ホホホ、その感性ニついてハ、褒めてさしあげましょう、ホホホ』
しかしアトモはその事実に気づかず、良いように解釈して鷹揚に笑った。
すると巨大宝玉の赤みは若干薄れ、その光は少しだけ黄色を帯び始める。
やはりこの宝玉、アトモの機嫌に応じてその光の色を変えるらしい。
エミーはその光を、若干うざったく感じ始めた。
「何を......何を、笑っているのですか!!」
すると突然、エアが怒鳴り始めた。
エミーはびっくりして、宝玉からエアへと視線を移す!
「今、この天空王国は未曽有の危機に晒されています!悪臣がのさばり、王は政に興味を失い、民は苦しんでいる!あなたは、この国を守護しているのでしょう!?何故、あなたは笑っているのですか!?何故、民を救おうとはしないのですか!?」
なんかベラベラと、色んなことをしゃべり始めたエア。
多分彼女は、日ごろから色々と思うことがあり、密かにその心の内に、鬱屈とした思いをためこんでいたのだろう。
それが、王族に伝わる伝説の存在と相対することで、あふれ出てしまったのだ。
『乾電池如きガ......生意気、生意気生意気ナ口ヲきく......』
そんなエアの言葉を受け、再び不機嫌になったアトモ。
きっとその表情は......怒りで歪んでいるのだろう。
セキラン王のせいで見えないけど。
宝玉の色は瞬く間に赤色に変わり、チカチカ、チカチカと小刻みに明滅を続ける。
実に、気が散る。
邪魔くさい。
エミーは宝玉を、じっと見つめた。
『この際です......乾電池、乾電池乾電池、オマエノ勘違いヲ正しましょう』
そんなエミーを放置して、アトモとエアの会話は続く。
「勘違い!?」
『そう、そうそう、勘違い......私ハこの天空王国ヲ、守護などしておりません......この天空王国こそガ、私なのです』
「は......?」
『わかりませんか?大切、大切大切なのハ、未来永劫、私ガこの空ヲ飛び続けること!人間など、私ヲ彩るアクセサリーニ過ぎない!』
「な、なんということを、仰るのですか......!?」
チカチカ、チカチカ、チカチカ!
そして会話がヒートアップしていくにつれ、宝玉の明滅の頻度もあがっていく!
『それなのニオマエたち王族ハ、いつノ頃からか『民ガ、民ガ』ト余計ナことヲ気ニし始めた!オマエたちハ私ノ“便利ナ”手駒ニ過ぎないト言うのに!随分ト思いあがり始めた!』
「............!!」
『故ニ私ハ、オマエたちニ立場ト言うものヲ、わからせてあげたノです。ホホホ、愛、愛愛する家族ヲ、強制的ニ生贄として、私ニ捧げさせることデ!』
「そんな!?」
『実ニ、実ニ実ニ、滑稽でしたよ!歴代ノ王たちハ、民ノ命ト天秤ニかけ、結局ハ娘ノ命ヲ奪うノです。オマエハ『生贄ヲ捧げないト、魔力ガ足りずこの天空王国ガ墜落する』トでも、トでもトでも、聞きましたか!?ホホホ、ホホホ!そんなわけガ、ない!“滅びの日”すら耐えきったこの私ガ!?生贄などという原始的ナ儀式ニ頼らねバ、堕ちるト!?ホホホ、ありえない!ホホホホホホ!!』
大精霊アトモはそう言って、哄笑した!
きっとその美しい顔は、エアを嘲り笑うことで、醜く歪んでいることだろう!
もともとの美しい顔も醜く歪んだ顔も、そもそも見えないんですけど!
チカチカ、チカチカ、チカチカ!
そして宝玉は、赤だったり黄色だったりオレンジだったりとその光を目まぐるしく変化させながら、激しく明滅する!
「そんな......そんな、そんな......私たちはずっと、こんな奴を、信仰して......!」
そんな宝玉の横で、今まで信じていたものに裏切られ......エアは呆然と涙を流しながら、力なくうなだれ、その場に両ひざをついた。
『さて......話ガそれましたガ......侵入者よ』
と、ここで。
エアが黙ってしまったので、ようやくアトモはエミーに視線を向けた。
多分......視線を向けた。
見えないけど。
エミーもちらりと、アトモの方に顔を向ける。
『オマエハ私ノ美しいカラダニ、傷ヲつけた。それハ、それハそれハ、断じて許しがたい』
チカッと、再び赤一色になった宝玉が明滅する!
『故ニ、罰ヲ与える』
チカチカッ!
チカチカッ!
またしても、宝玉の明滅が激しくなり始めた!
『後悔、後悔後悔せよ!己ノ愚かさヲッ!苦しみニ苛まれながら泣き喚き、そして......!!』
チカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカッ!!
チカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカッ!!
どんどん激しさを増すアトモの口調と、宝玉の明滅!
エミーは!
エミーは......ついに、ここで!!
「ああああああーーーッ!!このインテリア、鬱陶しいいいいいーーーーーーッ!!!」
チカチカとうるさい宙に浮かぶ宝玉を!
エミーはまったく知らないことだが!
実は大精霊アトモが宿っているとされる宝玉、アトモ・スフィアを!
彼女は全力で......ぶん殴った!!
バゴオオオオンッ!!
常識外れの膂力を突然叩きつけられたアトモ・スフィアは、体積にしてその半分ほどを吹き飛ばされ、そして!!
『ギャアアアアアアーーーーーーッ!?』
......制御室内に、大精霊アトモの絶叫が、響きわたった!!




