466 エア救出
さて、密入国呪い子と苦悩の天空王が不意の邂逅を果たしてから、数分。
想定外の事態に固まっていたセキラン王は、ようやく気づく。
(良く考えたらこの少女......迷宮を突破してこんな所まで侵入してくるとか......もしかしなくても、即座に排除すべき危険人物じゃないか!)
......いや、今さらかよ。
数分経たないとそれに気づかないあたりセキラン王も大分ぼんやりしているし、相手の出方を待って動かなかったエミーも相当律儀ではあるが、それはさておき。
この制御室は、天空王国ネバーフォールの中枢。
もし、室内の機器の一つでも破壊されてしまえば、天空王国の制御は失われ、墜落。
大勢の命が危機にさらされる。
故意こそ、この部屋に入室できるのは、王族のみ。
得体の知れぬ者の存在を、許しておいて良い場所ではないのだ!
(そうだ......ここは物事を、シンプルに考えねば)
タンッ!
軽快な音を鳴らして床を強く踏み込み跳ねとんだセキラン王は、翼の力で再び宙に浮かび始める。
そして謎の少女を見おろしながら、覚悟と冷たい敵意を含めながら、言葉を発した。
「侵入者は......排除する!誰だか知らぬが......悪く思うな!」
そして魔法発動のため、それまでは抑えていた種族由来の膨大な魔力を、開放する!
「!!」
ゴウッ!!
セキラン王から放たれる魔力が周囲に風を巻き起こし、エミーの髪を揺らした。
エミーはそれを受け、少し腰を落とし、拳を構える。
ブシュウッ!!
音を立て、鎧の隙間から靄が噴き出る。
「「............」」
それまでのグダグダとして空気はすっかり吹き飛ばされ、今この場にあるのは一触即発の沈黙。
......激しい戦いが、始まる。
その予感に、一度ブルリと体を武者震いさせてから......セキラン王は、先手をうった!
「『星の鎖よ、その力を増し、縛れ!【グラビティフィールド】!』」
「!?」
セキラン王が素早く詠唱を終えたその次の瞬間、エミーは己の体が急に重量を増したように感じ、バランスを崩して思わず片膝をついた。
そう......セキラン王が放ったのは、ネバーフォール王家に伝わる魔法、【グラビティフィールド】!
周囲一帯の重力を操作し、敵を一気に圧死させてしまう、恐るべき上級重力魔法だ!
......しかし!
「............」
エミーは、健在である。
その瞳に闘志を燃やし、じっとセキラン王のことを睨みつけている。
彼女は魔法の影響でうまく立てないらしく、片膝をついた状態でうずくまっているが......常人のように潰れて死ぬような様子は、見受けられない!
「......これで死なぬのか......恐るべき少女よ」
必殺の魔法が、なんか足止め程度にしか、効いていない。
この謎の少女の異常な耐久性に冷や汗を流しながらも、セキラン王は右手を天に向けて掲げた。
次の一手をうつためだ。
「『聖なる光よ、この手に集い......」
詠唱が進むにつれ、セキラン王の掲げた右手のひらに、白く輝く光が集まり始める!
今セキラン王が唱えている魔法は、【ホーリーランス】!
聖なる光で槍を形作り、それを投げ放ち邪悪な敵を貫く!
一点集中型の、超高威力上級魔法である!
天使族の恵まれた魔力を用いて放たれる上級魔法は、例えエミーであってもそれを食らえば致命傷は免れない。
しかしエミーは、【グラビティフィールド】の効果で、その場から動けない。
......絶対絶命の、危機!
「......邪悪を貫く槍となれ!【ホーリーランス】!』」
詠唱が完成した時、セキラン王の右手には、白く輝く美しい槍が顕現していた。
人の背丈程の大きさのあるそれを、セキラン王はブンと振り回してから、エミーに対して構えた。
(許せ、少女よ......さらば)
そして祈りの為に、一時目をつぶった。
時間にして、2、3秒だ。
(......いくぞ!!)
そうしてから、カッと目を見開き、聖なる槍を投げ放とうとしたその瞬間!
セキラン王の、視界いっぱいに広がった光景!
それは!
悍ましくどす黒い、トゲトゲとした巨大な拳が......。
己に向かって飛んでくる......そんな、光景だった!
◇ ◇ ◇
セキラン王は、強い。
天使族由来の、膨大な魔力と飛行能力。
王家に伝わる、強力な上級魔法。
それらを存分に駆使すれば、エミーすらも滅ぼせるほど、強い。
......が、しかし。
結局のところ、セキラン王は、王であった。
兵士でも、騎士でもない。
戦闘を生業にしているわけでは、ないのだ。
故に、判断に誤りが生まれる。
戦闘中に祈るなどという、隙を生み出す。
そしてエミーは。
日々戦い続ける、この少女は。
......その隙を、決して見逃さない!
食らいついて、絶対に離さない!!
「らあああああッ!!」
エミーは一声吠えたかと思うと、瞬時にその肩から巨大な【黒腕】を形成!
うずくまった姿勢のまま間髪入れずにそれを......隙をさらす空中のセキラン王に向けて、射出した!
ビュゴオオッ!!
【黒腕】は風をきり、重力の鎖など何ら無視してまっすぐに飛び、そして!
「へッ!?」
セキラン王の......その体を!
思いきり......殴り飛ばした!
「オゴアアアアアーーーーーーッ!?」
セキラン王は絶叫しながら血反吐をまき散らし、まっすぐ後方へと吹き飛ばされていく!
そしてその先に垂れさがっていた......漏斗型のガラス管に、衝突!
ガシャアンッ!!
それを盛大に破壊しながらも、セキラン王の勢いはまだ止まらない!
セキラン王はそのまま、まっすぐに飛び続け......。
メギョンッ!!
そんな音を鳴らしながら、大空の風景を投影し続ける天井の一角に、めりこんだのだった!
「......!!」
そして一方のエミーであるが。
セキラン王が意識を失ったためか、彼女を拘束する重力魔法の効果がなくなったことを確かめるやいなや、全力で走り始めた!
何故なら、割れたガラス管から、仄かに輝く液体と共に、そこに漂っていた少女が落下してきたからだ!
「らあああああッ!!」
エミーはヘッドスライディングの様に頭から少女に向かって飛びかかるも、若干遅い!
間に合わない!
このままでは、あの少女は頭から床に激突してしまう!
エミーであれば、床に頭部が埋まりジタバタする程度で済むが、常人であれば間違いなく即死だ!
「あああッ!!」
そこでエミーは、さらに肩から【黒触手】を伸ばした!
まるで早送りされた植物の蔦の成長記録のような挙動で、【黒触手】は少女に巻きついた。
そして優しく、その体を壊してしまわないよう、静かに。
少女の体を受け止めて、床まであと少しというギリギリのタイミングで、空中に静止させた。
「あべべべべべべッ!?」
......少女の救出に集中するあまり、エミーは顔面から床に着地。
ずりずりとその美貌を、数メートル程床にこすりつけることになってしまったが。
良いのだ、少女を救えたのだから。
エミーは、ほら、丈夫だし。
◇ ◇ ◇
エア・ネバーフォールは、ガラス管の中で漂いながら。
じっと待っていた。
自我がとろけてしまいそうな、優しいまどろみに包まれながら。
じっと、じっと、待っていた。
初めてできた、大切な友達......タカタカのことを。
信じて、待っていた。
タカタカが自分のことを......救い出してくれることを。
「............ん......」
そしてエアは、頬に触れる冷たい空気を感じ、その意識をゆっくりと覚醒させた。
次いで感じたのは、膝の裏と背中に触れる、硬く細い感触。
誰かに、横抱きにされているのだ。
その誰かの腕の細さは、決して大人のものではない。
つまり。
「タカタカッ!?」
エアは思わず頬を染め、その大きな瞳をパッと開いた!
すると、彼女の視界いっぱいに映し出された人物......。
それは!
なんか......見たこともない......。
不吉な気配のする......黒髪黒目の、少女だった......。
「............」
エアは、浮かべた笑顔をそのままに固め、まじまじと黒髪黒目の少女のことを見つめた。
そして、言った。
「............誰?」
......と!!
対する黒髪黒目の少女、エミーは!
エアのことを抱きかかえたまま......堂々とした姿勢で!
こう、言い放った!
「いや、お前が誰だよ!!」
そして両者の間に、沈黙の時間が流れる。
またしても、グダグダとしたやりとりが、繰り返される。
しかし、そう思われた......次の瞬間!
ビイインッ!!
ビイインッ!!
ビイインッ!!
けたたましい警戒音が制御室内に鳴り響き、澄みわたる青空を映し出していた内壁が、赤い、夕日の風景に変化!
そしてそれを背景に、巨大な女性の姿が......出現したのだ!!




