465 苛立つエミー
ギギ、ギギギ......!
両手両足に、しっかりと力をこめて、押す。
すると、軋んだ音を響かせながら、ネバーフォール史の描かれた大きくて重たい扉は、ゆっくりと開き始めた。
徐々に、徐々に......広がる扉の隙間から、明るい光が漏れる。
<大分迷宮も進みましたし、この扉の装飾も相当に豪華です。つまりおそらく、この先が終着点......ネバーフォールの中枢。一体何が、私たちを待ち構えているのでしょうか!?>
オマケ様は呑気に、適当な煽り文句を言って楽しんでいる。
まあ、私もそれは、気にならなくもない。
ロボットをぐちゃぐちゃにして少しお腹が空いたから、焼き鳥屋さんの屋台とか、そういうのがあれば良いと思う。
<あるわけないでしょう?中枢なんだから、この先は制御室です。制御用の魔導コンピューターとかが、置かれているんですよ?屋台の煙で、機器がダメになってしまいますもの>
やめてよ、突然真面目なリアクションを返してくるの、やめてよ......。
<............トロピカルジュース屋さんなら、あるかも......>
あるわけないでしょ、湿気が出て機器がダメになるもん。
あと、純粋にお客さんもいないだろうし。
<もーーーっ!私も乗ってみたのにっ!エミーったらーーーっ!>
はははははは!
そうこう話しているうちに、扉は完全に開いた。
私とオマケ様は何の警戒もなしに部屋の中へと足を踏み入れ......そして絶句した。
何故かって?
だってこの部屋......迷宮を下へ下へとおりて来たはずなのに......部屋の天井を見上げるとそこには、大空が広がっているんだもの!
<ああ!なるほど......これは、映像ですね。内壁が全て液晶画面になっていて、そこに外の様子が投影されているのでしょう>
おお、なんという解放感。
大空を身近に感じられて、なおかつ実際には室内だから寒くない。
施工主のこだわりがキラリと光る、一押しの物件となっております。
さらにお部屋の中央あたりには、七色に輝きながら宙に浮く、巨大宝玉を象ったインテリア。
<なんともビューティフル。室内にエレガントでラグジュアリー、そしてゴージャスな趣を添えるワンポイントですね>
宝玉からは四方八方にケーブルが伸び、円形の部屋の内壁に沿うように設置されている、なんか重要そうないくつもの機械に繋がっております。
<今は亡き超古代魔導文明を思わせる近未来の雰囲気が、非日常感を演出しています>
そして宝玉の上の漏斗のような形をしたガラス管の中には......んーーー......なんか、女の子がプカプカと、浮いております。
<美の極致、それは、人......そういう思想でしょうか。インテリアとして考えるなら......慣れていなければ、面くらいますね。邪神とか悪神とか、そういう神々はこういう趣向も好きかもしれないですね>
............。
<............>
いや、あれ、インテリアでは、ないよね?
ってか、え?
え、え?
何なの、あの女の子?
え、生きている?
<うーん......おそらく、生きてはいるでしょう。あのガラス管を満たす仄かに輝く液体に、見覚えがあります。名前は忘れましたが......超古代魔導文明時代に、生命維持装置とかに良く使われていたやつですので>
そっか、生きてるのか......。
でも、何なの?
なんで女の子が、ガラス管の中に閉じこめられているんだろう?
ふつふつと湧きあがる疑問に、私は首を傾げた。
すると、その時だった!
「よくぞ、ここまで来た......」
突然部屋の中に、若い男の声が響きわたったのだ!
「!」
慌てて声のする方を見る。
巨大宝玉の、少し奥のあたりだ。
私とオマケ様は、この部屋の内覧ごっこに夢中で全く気づいていなかったんだけど。
そこには何者かが、こちらに背を向けて立っていた。
その人物の容姿で目を引くのは、腰まで伸びた輝く金髪。
何やら複雑な意匠が刺繍された、青色のマント。
それとその頭部に乗せられた、豪華な白色の装飾品だ。
「エアを救うため奮闘した君に......まずは父として言わせてもらう......ありがとう」
突然の声かけに困惑する私のことなど気にもせず、その人物はそう、感謝を述べた。
でも......。
<『エア』って誰なんですかね?>
誰なんだろうね?
マジで、誰なんだろうね?
『父として』とか言ってるから、多分あの人の子どもなんだろうけど......?
<知り合いには、いませんよね?>
あ、ペットの名前とかいう可能性も、あるかも?
<なるほど!ミスリードですね!?息子ないしは娘のことだと思わせておいて、最後の最後で実はペットの名前でしたー!で、ずっこける感じの......そういうオチですか!読めましたよ!!>
いや、読めてないわー。
オマケ様の推理が走り始めた時って、大抵見当はずれのこと、言ってるからなー。
<そんなはずないですよ!私はよく、探偵神の異世界転生配信も視聴していましたので!>
「しかしながら、王として......私は君を、阻まなければならない。大精霊の宣託は、絶対である。儀式は、遂行する」
はっ!
やべ、オマケ様とのおしゃべりに夢中で、話を聞いてなかった!
今あの人、何言ってた?
<ああ、はい、『洗濯を遂行する』とかなんとか......>
ちょっと、自分も聞いてなかったんなら、『聞いてなかった』って素直に言ってよ!
「故に」
<あ、ほら!話が進みますよ!喧嘩している場合では、ありません!>
オマケ様、うまく話をごまかしたね!?
それはともかく、確かに話は進みそうだ。
あの謎の人物も、ゆっくりとこちらに向かって、振り返った。
あら、結構な美女......見た目だけなら。
声も低いし、話の内容からして、男性なんだろうけど。
疲れきったその表情が、玉に瑕だね。
「エアを救いたくば......この私を、見事打ち倒してみせよッ!!」
さて、おふざけはここまでみたい。
謎の美人な兄ちゃんは敵意をこめてそう叫ぶと、突然その場で高く跳躍した!
そして......なんと背中から、真っ白で大きな翼を展開し、空中に静止したではないか!
<あ、あれは、天使族!?まさかこんな所で、出会うなんて!?>
天使族!?
なにそれ!?
<“滅びの日”を経て荒廃した地上を復興するため、パシリ......神々の手足としてこの世界に生み出された、種族の内の一つです!>
なんだって!?
<神々は龍で一回痛い目を見てますので、その性能はそこそこに抑えられていますが......それでも彼らは通常の人間と比べれば遥かに強大な魔力を保有しています!地上が復興し役割を果たした今、一族でどこぞの山奥に引きこもっているとばかり思っておりましたが......!気をつけてください、エミー!>
......それはもちろん、油断などしない。
敵対姿勢を見せた以上、あれは敵だ。
殺す。
誰だか知らないけど。
すっと、頭が冷える。
体中に魔力と殺意を漲らせる。
次、動けば。
こちらに、向かって来たら。
......八つ裂きにして、殺す。
「............」
だけど。
そいつは、私に襲いかかっては......来なかった。
翼を出したまま一旦床に着地し。
まじまじと、私のことを見つめ。
そして......言った。
「............誰?」
......と!!
はあああああッ!?
『誰?』じゃねえからッ!!
こちとらお前が誰か知らないけど敵対するからには容赦なく殺すためのマインドセット済ましてんだよッ!!
敵対姿勢見せといて『誰?』はないでしょ『誰?』はッ!!
「いや、お前が誰だよ!!」
私は思わず、叫んだ!!
戦闘の出鼻をくじかれて、苛立ちまじりに叫んだ!!
「「............」」
私の叫びを受けて、そいつは顔をこわばらせて固まった。
そして、しばしの沈黙の後......。
「............誰?」
もう一回、同じことを聞いてきた!
ああああああ、もうッ!!
「だから、お前が誰だ!!」




