461 悪徳宰相ナボコリス2
「ああああああーーーーーーッ!?」
絶叫をあげながら、キオセンたち目がけて前方上空より突っこんでくる肉塊......もとい、コーキアツ!
その姿はみるみるうちに大きくなり、堕落警備兵たちが立ち並ぶその手前に、墜落した。
が、しかし、それだけではなかった!
コーキアツはかなりの肥満体であり、ぜい肉で覆われた球体状の胴体に、短い手足がついている......そういう、コミカルな体型をしている。
そして彼は、直前に【アイアンボディ】の魔法を唱え、その肉体の硬度を増している。
さらには、地面へと突っこんだその角度が、かなり鋭かったこともあり......。
ゴロゴロゴローーーッ!!
そんな音を鳴らしながら、コーキアツの体は回転を止めず......巨大鋼鉄突撃肥満ボールと化して、堕落警備兵たち目がけて、高速で転がり始めたのだ!
「うわーーーッ!?」
「うわーーーッ!?」
「うわーーーッ!?」
まるでボーリングのピンのように、コーキアツによって跳ね飛ばされていく堕落警備兵たち!
そしてこの恐怖の回転肥満男性は堕落警備兵を跳ね飛ばすたびに少しずつその軌道を変え、そしてついには、なんという運命のいたずらか......その進路の先にいるのは、ヘクトパを処刑しようとしていたキオセンである!
「はああーーーッ!?何それーーーッ!?」
キオセンは偶然が生み出したこの突然の危機に面くらい、慌てて垂直に跳躍した!
彼は性根は腐っているが、その実力は確かな男だ!
跳躍してコーキアツのことを跳び越えるくらいの身体能力くらいは、持ちあわせているのだ!
しかし......運命は彼に、味方しなかった。
コーキアツの体は、キオセンのところへとたどり着く、その直前。
「うわーーーッ!?」
転び、逃げ遅れていた堕落警備兵にぶつかり、その衝撃で。
大きく......跳ねた。
「はあッ!?うっそ、お前ブエエーーーーーーッ!?」
そして回避のため空中に跳びあがっていたキオセンの体に直撃し!
「うわーーーッ!?」
「うわーーーッ!?」
「うわーーーッ!?」
そのままキオセンを巻きこんで回転を続け、地面に着地!
その先にいた堕落警備兵たちをなぎ倒しつつ直進を続け......大通りの端にある店舗の石壁に衝突することで、ようやくその動きを止めた。
この一連のドタバタ劇、その結果として。
コーキアツはもとより、キオセンまでもが意識を失い。
堕落警備兵たちも、その多くが戦闘不能になるという......とんでもない事態に陥ったのだから、偶然って怖いね。
「「「「「............」」」」」
突然発生したこの状況に、反宰相派の人々もナボコリスも呆然とし、しばらく言葉を失っていたが......。
「ま、守りが手薄になった、今こそチャンスだ!天空王国の癌、悪徳宰相ナボコリスを、捕縛するんだーーーッ!!」
いち早く正気を取り戻し、体を震わせながら立ちあがり号令をかけた活動家ヘクトパ青年の言葉を受けて、事態は動き始めた!
「け、警備兵がいなくなりゃ、こっちのもんだぜーーーッ!」
「今がチャンスだ!」
「積年の恨みーーーッ!」
生き残り堕落警備兵たちを殴り倒しつつ、反宰相派の人々は怒声をあげながら、ナボコリスに向けて殺到を始めた!
「は、はひぃーーーッ!?何故こんなことにッ!?どうしてこんな事態にッ!?何が悪かったッ!?」
何が悪かったのかと言えばもちろん弾圧され苦しむ反宰相派の様子を見て嘲笑いたいというくっそ下劣な考えのもとわざわざ自ら抗議活動の場までやって来ていたナボコリスが悪い!
しかしそれはともかく......今の状況は、ナボコリスにとっては絶体絶命の危機である。
もちろん、ナボコリスは即座に逃走を選択!
間一髪で暴徒と化した反宰相派の人々から逃れ、中央大通りから脇道に入りこんで姿を隠しつつ、顎の肉をタプタプと揺らしながら走り始めた!
◇ ◇ ◇
「はひッ......はひッ......はひッ......!」
そしてナボコリスの逃走は、意外なほどうまくいった。
火事場の馬鹿力でも発揮されたか、彼はその体型からは想像がつかないほどの速さで走り、反宰相派の暴徒たちから逃れた。
現在は、裏通りのゴミ捨て場の影に身を潜めながら、荒い息を吐きつつ休憩中である。
「どこだ!?あの野郎、どこに逃げやがった!?」
「こっちにはいないぞ!?」
「............!」
身を隠したゴミ箱の向こう側の道を、反宰相派が喚きながら、ドタドタと走り去っていく。
「......ふぅーーーーーーッ!」
足音がすっかり聞こえなくなったのを確かめてから、ナボコリスは止めていた息を大きく吐き出し、力なくゴミの山にもたれかかった。
「よォ、宰相様ァ!酷ェ有様だなァ?」
「は、はひッ!?」
しかし、その時!
ナボコリスは何者かから、突然声をかけられた!
驚きのあまり思わず一跳ねし、声のした方向を慌てて振り返る。
そしてそこに立っていた三人組の姿を見て......ナボコリスは安堵の息を吐いた。
「で、出てくるのが、遅いぞ!これまで、どこに隠れていたのだ......“極悪非道のロース三兄弟”!!」
そう、そこに立っていた三人組の男たちの名前は......極悪非道のロース三兄弟!
彼らは幻想大陸全土で指名手配されている凶悪犯罪者たちであり、現在はその戦闘能力を買ったナボコリスが個人的に雇用している......影の用心棒なのだ!
「そう言うがよォ!さすがにオレたちが白昼堂々姿を現すのは、まずいだろォ!?」
そう言ってヘラヘラ笑うのは、極悪非道のロース三兄弟長男、ナグリコ・ロースだ!
彼は気に入らないことがあればすぐに周囲の人間を撲殺する凶悪な殺人鬼であり、背が高く筋骨隆々のスキンヘッドで眉毛も剃っていて怖い!
「キキキ、だが、もう安心だ、キキ!こっから先は、オイラたちがしっかり、護衛してやるよ!近づく奴、みんな撫で斬り、キキキキキ!」
そう言って甲高い声で笑い、ナグリコの後に言葉を続けたのは、極悪非道のロース三兄弟次男、キリコ・ロースだ!
彼は気に入らないことがあればすぐに周囲の人間を斬殺する凶悪な殺人鬼であり、猫背で背も低く痩身であるが常に刀身むき出しの長剣を地面に引きずるようにして歩いておりボサボサの長髪が顔をすっかり覆っていて表情も読みとれず怖い!
「グ、グゥーーー!オデ、腹減ったぞ、グゥーーー!」
そう言って文脈を無視し、腹を鳴らしながら空腹を主張するのは、極悪非道のロース三兄弟三男、クイコ・ロースだ!
彼はお腹が空いたらすぐに周囲の人間を食べてしまう凶悪な殺人鬼であり、ナグリコ以上の巨人とも見紛う程のぜい肉の鎧に覆われた巨体を誇り常によだれを垂らしながら焦点の合わぬ瞳で虚空を見つめるその表情からはおおよそ理性といったものを感じとれず怖い!
「とにかく、オレたち、金をもらった分の仕事はするぜェ!ここから王宮まで、裏通りを通りながら宰相様を護衛してやるよォ!」
「キキキ、皆殺し!近づく奴は皆殺し!」
「グゥーーー!お前、食べて良いか?グゥーーー!」
そう言うとロース三兄弟は、空気が震えるほどの殺気を一斉に放出した!
「お、おお!さすがは、極悪非道のロース三兄弟!頼もしい限りだわい!」
ナボコリスはその殺気に気圧されブルリと体を震わせながらも、この三兄弟によって無残に殺される反宰相派の姿を思い浮かべ、いやらしく顔を歪めて笑った!
「それではこれより、このワシを、安全な王宮まで護衛せよ!道中、邪魔するゴミは、好きに殺して構わん!ナーーーッハッハッハッ!!」
「おうよォ!まかしとけェ!」
「キキキ、殺すぞ殺すぞ!」
「グゥーーー!」
そしてナボコリスは立ちあがり、彼の息のかかった警備兵が未だ多く残っているネバーフォール王宮へ向かって、歩き始めようとした。
しかし......その時だった!
またしてもナボコリスが、意図せぬエミーの介入の、被害を被ることになったのは!
その時、何が起きたのかと、言えば。
バギュゥンッ!!
そんな音を鳴らして裏通りの石畳を砕きながら......突然、地面の下から......球状の物体が、飛び出してきたのだ!
それは、白き宝珠。
近衛三騎士が試練の間から先に進むための鍵として持ち歩き守っていたがエミーに奪われ、しかしながらエミーがギミックガン無視で扉を蹴り壊してしまったため使い道が無くなり、適当に放り投げられた......あの宝珠だ!
そして勢いよく地面から飛び出したその宝珠は......ああ、なんということだろうか!
まるで狙い定めたかのごとく......ナグリコ・ロースの股間に直撃した!
「アアァンッ!?」
突然の筆舌に尽くしがたい痛みが、ナグリコを襲う!
ナグリコは泡を吹き、白目をむきながら......何が起きたのかもわからぬまま気絶し、倒れた!
「あ、兄貴!?」
その様を見て、キリコ・ロースは狼狽した!
キリコはナグリコのこのような姿を、見たことがなかった。
彼にとってナグリコとは、決して地に膝つけぬ強さの象徴......暴力の化身であった。
それなのにナグリコは、突然の凶弾(?)に、倒れた。
訳が、わからなかった。
狼狽するのも、無理のない話だ。
しかし、これは結果論であるが......キリコは地に伏す兄の姿に狼狽える前に......すぐにその場から、逃げ出すべきであった。
何故なら。
バギュゥンッ!!
二発目の白き宝珠が地面から飛び出し、偶然その宝珠は、その場に立っていたキリコ・ロースの股間に直撃したからだ!
「アアァンッ!?」
突然の筆舌に尽くしがたい痛みが、キリコを襲う!
キリコは泡を吹き、白目をむきながら......何が起きたのかもわからぬまま気絶し、倒れた!
バギュゥンッ!!
「アアァンッ!?」
あ、それと、その横でもう一発、地面から白き宝珠が飛び出し、それも偶然クイコ・ロースの股間に直撃していた!
クイコは泡を吹き、白目をむきながら......何が起きたのかもわからぬまま気絶し、倒れた!
「なんだそりゃーーーーーーッ!?」
偶然が生み出した、あまりにもあんまりな事態!
ナボコリスは目の前で泡を吹きながら気絶する極悪非道のロース三兄弟の姿を見て、思わず絶叫した!
「あッ!いたぞーーーッ!!」
「あそこだ!捕まえろーーーッ!!」
「は、はひぃーーーーーーッ!?」
そしてその絶叫は思いのほか良く響き、ナボコリスはヘクトパ青年率いる反宰相派の面々に、すぐさま発見された!
当然、捕まるわけにはいかない!
ナボコリスは疲れた体に鞭打って、再びの逃走を開始した!




