459 普通は戦闘したら敗北する系の敵を対象にした八つ当たり
ズンッ、ズンッ、ズンッ!!
侵入者の排除。
己に課せられた使命を果たすため、部屋を揺らしながら人型の魔導ロボット“スチール・サム”は走る。
ずんぐりとした印象を受ける、その体躯は巨大だ。
背の高さは、成人男性の二倍ほど。
さらに重厚な装甲で覆われたその体は分厚く、横にも広い。
それが、猛烈な勢いで駆け寄ってくる。
常人であれば、それだけで気を失いかねない恐るべき光景だ!
「ブシュウッ!!」
瞬く間にエミーとの距離を詰めたスチール・サムは、腰の排気口から蒸気を噴き出しつつ、その勢いのまま左手に持った大剣を横薙ぎに振り回した!
ブゥンッ!!
凄まじい速度で放たれたその一撃が、目にも止まらぬ速さでエミーへと襲いかかる!
「............」
しかしながら、そこは戦闘慣れしたエミー。
彼女は冷静に大剣の軌道を把握して、床に這いつくばるような姿勢をとって、その斬撃を回避した。
そして大剣が頭上を通り過ぎた瞬間を見計らい、跳躍!
くるり、くるくると空中で回転しながら、目指すはスチール・サムの頭部。
既に人外の域に達しているその膂力で、殴り壊す構えだ。
しかし!
「ブシュウッ!!」
スチール・サムは人型の魔導ロボットであって、人ではない。
人であれば、致命的な隙となる大振りの一撃。
しかし彼にとっては、そうではない!
パカカッ!
跳躍し、攻撃に転じたエミーを頭部に配置された魔導センサーで認識したスチール・サムは、すぐさま両肩の装甲を展開!
その中からニュッと伸びるのは、魔導機関銃だ!
ズガガガガガガッ!!
当然そこから放たれるのは、魔鉱弾の雨あられ。
エミーもさすがにそれを生身で受け止めることはせず、スチール・サムへの攻撃はとりやめ、【黒腕】を己の前面に展開。
それを盾のように使うことで、銃弾の雨を凌いだ。
その間エミーは、ただ身を隠していたわけではない。
魔鉱弾の勢いによって弾き飛ばされ床に着地したエミーは、【黒腕】の盾による防御を継続しつつも密かに【魔力斬糸】を伸ばし、鞭のように動かしてスチール・サムを攻撃していたのだが......どうにも効果が薄い。
装甲の塗装がはげて、小さな切り傷が生まれる程度だ。
このスチール・サム......当然、超古代魔導文明時代において作り出された遺物であり、当時の技術力を惜しむことなく注ぎこまれ製造された逸品だ。
その防御力は......凄まじく高い。
特にこの機体は、魔力攻撃に対する防御性能を高く設計されていた。
【魔力斬糸】とは相性が悪い。
やはり、直接殴り壊すしかない。
エミーがそう決意を固めた、ちょうどその時だった!
ブゥンッ!!
「!!」
両肩の魔導機関銃による銃撃を継続しながら、スチール・サムは今度は右手に持った大剣を、エミーに向かって振りおろしたのだ!
【黒腕】はどす黒く、盾として使うとエミーの視界の大部分が遮られてしまう。
故にその動作の予兆、エミーは視認することができなかった。
気づいた時にはスチール・サムの大剣は、エミーの頭部に食いこむ直前!
「らッ!!」
しかし、間一髪!
エミーは瞬時に両手を動かし、左右から拍手をするように大剣を挟みこむことで、その一撃を防いだ!
メゴッ!!
凄まじい速度で振りおろされた超重量の大剣を受け止めたことで、エミーの体を中心にして金属で覆われた迷宮の床がへこむ。
しかしエミーは、ノーダメージだ。
それどころかこれは、ようやく訪れた反撃のチャンス!
「ああああああーーーッ!!」
エミーは大剣をがっちりと両手で挟みこんだまま......ぐるん、ぐるんと体を回転させる。
スチール・サムの両腕は大剣と接合されており、それを手放すことができない。
故にスチール・サムは......常識外れのエミーの膂力によって、ぐるぐると振り回され始めた!
ズガガッ!!
ズガガガガガッ!!
滅茶苦茶に魔導機関銃を放ちつつ、じたばた動いてエミーの拘束から逃れようとするスチール・サム!
しかし狙い定まらぬ魔導機関銃は、エミーにとってはさほど脅威ではない。
何故なら一、二発魔鉱弾の流れ弾が当たった程度ならば、彼女はおそらく「いてっ」で済ませられる程の頑丈さを誇っているからだ!
ぐるん、ぐるんッ!
ぐるぐるぐるぐるぐるッ!!
スチール・サムがもがいている間にも、エミーの回転速度は上昇していく。
ついには遠心力により、重たいスチール・サムの体がふわりと宙に浮いた。
その状態で何故エミーが吹き飛ばずその場に留まっていられるのかと言えば、それは【紙魚】の魔力操作を応用して両足を適度に床に貼りつけているからなのだが、それはさておき。
「らあああああーーーッ!!」
十分な速度を確保したエミーは、ついにその両手を離し、スチール・サムを放り投げた!
ビュンッ......。
グワアアアアンッ!!
スチール・サムは何ら抵抗できずに吹き飛び、大の字の形で壁へとその体をめりこませた。
「ブシュッ!ブシュウッ!!」
しかしこの機体の防御性能は半端ではない!
この程度の衝撃では、スチール・サムが致命的なダメージを負うことはないのだ。
スチール・サムは断続的に蒸気を放出しながら、壁にめりこんだ体をはがそうともがき始めた。
しかし、その時だ。
スチール・サムの頭部に配置された魔導センサーが、恐るべき速度で己に接近する何かの存在を検知した。
それは、どす黒く悍ましい、威圧的で巨大な拳。
......エミーの【黒腕】の、拳だ!
ドッ......ゴオオオオオンッ!!
砲弾の如き勢いで放たれた【黒腕】は、身動きのとれないスチール・サムの胸部装甲を貫いた!
【魔導光球】の五分間連続射撃にすら耐え続けるスペックを持つはずのそれは、無残にも穿たれ大穴が開いた。
ボンッ!
ボボンッ!
ボオオオオオンッ!!
次いでその損傷が故に、機体内部にて爆発が発生!
それに耐えきれなかったスチール・サムの体は、最後に発生した大規模な爆発の衝撃で、部屋の方々に四散していく......!
......決着である!
◇ ◇ ◇
「............」
さて、そんな中、部屋中に四散していくスチール・サムの装甲の破片の内の一つが、爆発を眺めるエミーの方へと飛んでいった。
彼女の手のひらにもおさまる、小さな破片だ。
エミーは焦ることなくそれを掴み取ると、無造作に口に放りこみ、ガリガリと噛み砕いた。
「............」
そしてエミーは次に、足元に転がって来たスチール・サムの頭部を拾いあげた
巨大な体躯とは比例せず、通常の人間サイズであるそれを、エミーは両手で挟みこみ......圧力を加え始めた。
メゴッ......。
メギョ、ゴキ、ゴゴギ......。
パラパラと小さなパーツをこぼしながら、圧倒的な膂力によって、板状に圧縮されていくスチール・サムの頭部。
「............」
十分に小さくなったそれを無感動に眺めてから、エミーはそれを思いきり、壁に向かって投げつけた。
ザクンッ!!
まっすぐに飛んでいったそれは、鋭利な切断音を鳴らしながら、迷宮の壁へと突き刺さる。
「............」
続いてエミーは、辺りをぐるりと見回した。
そこには、先ほどまでスチール・サムであったパーツが、あちこちに散らばり......黒色の煙を噴きあげたり、火花を散らしたりしている。
その中で、次に彼女が目をつけたのが、右腕のパーツだ。
肩から下の部分が、火花を散らし時折痙攣しながら、床に転がっている。
手のひらに接合された大剣もセットだ。
「............」
エミーはその腕にトコトコと近づいていくと、まずは無造作に、大剣の真ん中あたりを思いきり......踏みつけた。
バキインッ!!
硬質な音を鳴らしながら、大剣が真っ二つに折れる。
バキンッ......バキンッ、バキンッ......!
その後もエミーは、何度も何度も踏みつけを行うことで、大剣を粉々に砕いていった。
その際に彼女の足は、大剣の下の床も一緒に踏み抜いているので......その周囲は穴ぼこだらけだ。
「............」
さらにエミーは大剣を踏み砕いた後、今度はスチール・サムの巨大な右手のひらを両手で持ちあげると......それを振り回し、床に叩きつけた。
ガシャアアンッ!!
その衝撃で肘部分のパーツが破壊され、肘から肩にかけての部分が吹き飛んでいく。
「............」
そしてエミーは、手元に残った肘から手のひらにかけてのパーツをじっと見つめると、まずは手首のあたりを力任せに引きちぎった。
そして手のひらを放り投げると、腕の装甲に手をかけ、それを縦に引き裂いていく。
細かくちぎって。
潰して。
放り投げ。
......時々、食べて。
腕だけではなく......その辺りに散らばる全てのパーツを対象にして、エミーはそれからしばらく、そのような無意味な破壊行為を続けた。
これは、何をやっているのかと言えば......八つ当たりである。
ロボットは、良い。
それなりに頑丈だし、彼ら無機物には、生命に対する尊厳を考慮する必要がない。
気兼ねなく、暴力を振るえる。
周囲に人がいないので、いつもなら抑えている魔力や殺気も、垂れ流しだ。
それなりに力を得てしまった現在、無思慮に暴威を振るえる機会は、エミーにとっては大変に貴重だ。
エミーはそれからしばらくの間......ゆっくりと時間をかけて、スチール・サムの損壊を楽しんだ。
◇ ◇ ◇
「............」
さて、ひとしきり暴れて満足し、邪悪な気持ちを静めることができたエミーは、改めてネバーフォール史の描かれた扉と向き合っていた。
この扉を開けるための仕組みは、先ほど彼女が短慮により破壊してしまった。
つまりは、結局のところ。
無理やり、力任せにこじ開けるしかない。
「............」
エミーは扉に両手を押しつけると、ゆっくりと、力を加え始めた。
グ、ググ......。
グググ、ググ......。
バキンッ!
すると何やら、硬質な破壊音が響いた。
おそらく、鍵が壊れたのだろう。
ググググググ......。
エミーは引き続き、力を加え続ける。
すると、その扉は。
人力で開閉することを想定していない、超重量のその扉は。
ギギ、ギギギ......。
そんな、苦悶に呻くような音を立てながら。
徐々に、徐々に......開き始めた。




