458 謎解きとペナルティ
タンッ......タンッ......タンッ......!
テンポよく床を蹴りながら、私は今、迷宮の最深部へと続く廊下を、軽快に走り続けている。
もちろん、【飛蝗】の技術を応用した、跳躍走行だ。
一足でずいぶんと距離を稼ぐし、多分車より速いぞ。
そんな跳躍走行を、現在私は割と本気を出して行っている。
何故かと言えば、答えは簡単。
この廊下。
純粋に......滅茶苦茶長いからだ。
<いや、本当に長いですね>
ね。
こんなの、さっきまでみたく歩いていたら、日が暮れるよ。
なんでこんなに長いの?
<迷宮の防衛戦略の一環......嫌がらせの一種かと。ボスを倒して疲れているところなのに、先が見えない廊下を延々と歩かされたら......嫌な気持ちになるでしょう?>
単純に疲れるし、本当にこの道を進んで良いものかとか、余計なことを色々考えちゃうかもね。
うーん、飽きてきた。
走りながら、あくびを一つ。
<もう、横壁を壊してその先を掘って、迷宮抜け出しちゃいますか?>
そうしたい気持ちがむくむくと急成長中なんですけどね。
さっきも言った通り、せっかく近衛三騎士の皆さんにあれこれ準備してもらったうえで、ここまで来ているわけだから。
ゴールに到着するまでは、このまま素直に進むよ。
さっきみたいに壁を壊すとか、そういうズルはしないつもり。
......お。
そんなこんなと話しながら先に進むこと、数分。
ようやくこの長い廊下の、終着点に到着した。
そこは、試練の間と同じようにがらんと広い、大広間だ。
入口と反対側の壁には、とにかくピカピカ、ゴテゴテの、装飾華美とも思えるほどの大きくて立派な扉が配置されている。
なんだ、この扉?
壁画みたいなものが、描かれているね。
上部には、何やら不思議な武器を持って争いあう人々。
中部には、手をつなぎながら、道化のような化粧を施されたにっこり笑顔の巨人と、仲良く遊ぶ人々。
そして下部には......光輝く人型の何かに平伏し、土下座のような姿勢で並ぶ人々が描かれている。
......なにこれ?
神話?
<......あー、なるほど。わかりましたよ、エミー。これは、“ネバーフォール史”です>
ネバーフォール史?
<つまり、上部に描かれた人々の争いが、空中要塞としてネバーフォールが誕生した時代、中部に描かれた仲良く遊ぶ人々が、遊園地としてネバーフォールが稼働していた時代を表しているわけです>
待って、じゃあ、中部の道化みたいな笑顔の巨人は何者?
<あれは、ネバッフォくんです。そういうマスコットキャラクターがいたのです>
巨人がマスコットキャラクターだったの?
<違います。本当は小さな妖精さんという設定だったようです>
どう見ても、でかいけど?
大人の1.5倍程は、でかいけど?
そしてデフォルメのせいか極端に大きな手は、おそらく子どもならば容易く握り殺せるだろうね!
<設定上は妖精さんでも、当時は妖精なんて種族、この世界にはいませんでしたので。だから園内を巡回して来訪客を楽しませるために、それを魔導ロボットとして再現しようとしたそうですね。でも、そうすると、技術的な問題からどうしても大きくなってしまったようです。着ぐるみみたいなものですよ>
ふーん......?
なら、一番下の絵は、何を表しているの?
光り輝く何かに平伏しているその様は、宗教画の様にも見えなくもないけど。
<うーん......おそらくこれは、現代のネバーフォール、なんだと思います>
まぁ、上から下に行くにつれて時代が進んで行くなら、そうなんだろうけど。
<光り輝く人型の存在は、おそらく......この国の主神である、天空神......かな?>
自信なさげだね?
<ええ......人型をとることも多い神々ですが、天空神はいつも、大きな鳥の姿でいますからね。うーん......>
ま、良いよ、壁画の考察なんてどうだってさ。
悩み始めたオマケ様を放っておいて、私はその扉をぐっと押した。
でも、開かない。
いや、本気出して押せば、無理やりこじ開けることもできるかと思うけど......それは最後の手段だ。
ズルはしないぞ!
と言うわけで、あたりをキョロキョロと見回す。
きっとどこかに、この扉を開けるはずのしかけが、あるはず......。
あ。
<ん?あ、あれは何ですかね?>
私の発見にオマケ様も興味を持ち、考察をやめた。
それは、扉の横の壁に設置された、小さな板状の装置だった。
近づいて見てみると、その板の上部には液晶画面、下部には超古代魔導文字が記されたキーボードのようなものが配置されている。
そしてさらに、その装置の右隣には、超古代魔導文字で何やら、長々とした文章が記されている。
<あーーー!エミー、これは謎解きですよ!>
そしてオマケ様は、この装置の正体に気づいた途端、急にテンションをあげ始めた!
<つまり、右に掲示されている文章は、問題文なんですよ!それを読み解き、正しいパスワードを入力すると、扉が開くわけです!これは私の頭脳の見せどころですね......!>
えーーーっ?
でもオマケ様、推理だのなんだのは、結構苦手なイメージがあるんですけど......。
<......ふーん、ならエミーが、一人で解けば良いんじゃないですか?>
いや、ちょっと、オマケ様すねないでよー。
とりあえずその問題文とやらを、読んでくれないかな?
私、超古代魔導文字、読めないんだから。
<はいはい、わかりましたよー......。えっと、ですね......ん?>
どうしたの?
<いえいえ、問題文自体は思いのほか短くて、驚いただけです。......『便利なものって、なーんだ?』......それが、ここで出題されている問題です>
ええ?
短すぎない?
<問題文が短すぎる......それすらも、謎を解くためのヒントかもしれません。多角的な視点でもって、この謎に挑戦しましょう!>
オマケ様は再びご機嫌になって、答えを出すためにうんうんとうなり始めた。
私も頑張って、考えてみる。
オマケ様に任せっきりというのも、無責任だからだ。
......とは言え。
『便利なものって、なーんだ?』って言われてもな......。
問題が、漠然としすぎてない?
何をするために便利なものを、聞いてるの?
誰にとって便利なものを、聞いてるの?
ちっともわかんない。
うーん......。
オマケ様、何かわかった?
<ええ......現在は超古代魔導文明中期に活躍した詩人、トロナーハルの代表作『カカサッチノ』の行数を定数として使って式を作成し、それをグラフ化するところまではたどり着いたのですが......>
うん......そっか......。
頑張ってね......。
私も、もっと真面目に頑張らなきゃいけないってことが、良くわかったよ......。
さて。
オマケ様がやっぱり頼りにならなそうだという事実が判明したので、もう少し真面目に考えてみよう。
............。
............。
............。
と、思ったところで、都合よく答えが思い浮かんだりは、しないんですよねー......。
どうしようかな......。
<あれ、これはもしかして......二次関数!?そんなバカな......しかし......>
相変わらずオマケ様は絶対に見当違いなところで悩んでブツブツ言っているし。
うーん......。
そもそも。
なんで迷宮の奥底で、謎解きなんかさせられなきゃ、なんないの?
迷宮側は、侵入者に謎解きをさせて、何が嬉しいの?
ん?
そもそもが、謎解きではない?
うーん......。
わからない......。
『便利なものって、なーんだ?』......。
............。
ああ、なんだか......。
イライラしてきた......。
なんで私が、こんなことを考えなくちゃならない......?
便利なもの......。
便利......。
............。
「あ」
次の瞬間!
私は答えを閃いた!
イライラ、モヤモヤとしていた頭の中が、風に吹かれた後のようにすっきり爽やか良い気分だ!
<え!?エミー、答えがわかったんですか!?>
うん、そうだよオマケ様!
『便利なものって、なーんだ?』と聞かれれば!
答えはもう、これしかないんだ!
<ええ!?そ、その答えは、一体!?>
「正解は......」
私は大きく息を吸うと、解答入力用のキーボードに向かいあう。
右足を引いて、左足を前に。
少し腰を落とし。
体中に魔力を巡らせて。
右拳を、構えて。
「......『暴力』ッ!!!」
私はその右拳を......思いきり、壁に備え付けられたキーボードに、叩きつけた!
メギョッ!!
ボグンッ!!
容易くキーボードを叩き割った私の右腕は肘のあたりまで壁にめりこみ、その壁の奥からはくぐもった爆発音のようなものが聞こえた!
多分、隠されていた扉の開閉を司る制御用の機械のようなものを、破壊することができたのだろう!
良しッ!!
<『良しッ!!』じゃないですから!なんですか、その野蛮な答えは!?>
ええーーー?
絶対に『暴力』が、正解だって!
その証拠に、私、今とっても気分が良い!
<あなたにとっては正解でも、答えとしては絶対に間違っていますよ!?>
ピリリリリリリーーーッ!!!
すると、次の瞬間だった!
突然、私たちがいる大広間が赤い魔灯で真っ赤に照らされ、甲高い警戒音が鳴り響き始めた!
こ、これは!?
<あああ......これはきっと、あれです。不正な操作が検出されたとか、そういうあれです!つまり......>
オマケ様があわあわとしている間に、次は天井に大きな穴が空いた。
そしてその穴から......巨大な金属の塊が、降って来たのだ!
ズシイイイインッ!!!
その金属の塊は、相当に重たかったらしい。
床に着地すると同時に轟音が鳴り響き、部屋はグラグラと揺れた!
そして、驚くべきことに!
「ブシュウウウウウッ!!」
その金属の塊は腰の後ろから伸びた筒から蒸気のようなものを噴き出しながら立ちあがり......その両手に、巨大な剣を構えた!
そう!
その、金属の塊は......人型をしていた!
わかりやすく、言えば......。
全身鎧を着た戦士を象った......巨大な、ロボットだったのだ!
<こ、これは魔導ロボットですよ!超古代魔導文明の時代に製造されていた、戦闘用人型兵器!>
戦闘用人型兵器!?
なんで、そんなものが降ってくるの!?
<ペナルティですよ!エミーが滅茶苦茶やるからでしょう!?>
ええッ!?
なんのことッ!?
身に覚えがないなぁッ!?
私がオマケ様と話している間に、その魔導ロボットの戦闘準備は、すっかり整ってしまったらしい。
そいつは瞳を模して顔面の部分に配置された二つのライトを赤く光らせ、まっすぐに。
......私に向かって、駆けだした!
ズンッ、ズンッ、ズンッ!!
魔導ロボットが足を先に進めるたびに、その質量が故に、部屋が大きく揺れる!
<はああーーー......これは、もう、戦うしかありませんね......>
オマケ様が疲れたようにため息をついたけど、ため息をつきたいのは私も一緒だよ。
なんで正解したのに、ペナルティを押しつけられなきゃ、ならないわけ?
なんて悪辣な迷宮なんだ!
<まだ言いますか!?>
とにかく、まぁ。
頭を切り替えよう。
戦闘モードだ。
この理不尽に対するイライラは、悪いけど。
全て、この魔導ロボットとやらに、受け止めてもらう。
八つ当たりだ。
ぐちゃぐちゃにしてやる。
もちろん、正解は『暴力』じゃないです。
ちゃんと別の答えが設定されています。




