456 近衛三騎士との決着!そして皆無なモチベーション
「失礼します!お待たせいたしました!」
ハキハキと元気よく、ビューンとかいう真面目そうな顔の兄ちゃんが私の待つ控室に戻って来たのは、彼らがこの部屋を出て行ってからおおよそ20分後のことだった。
「迎撃の準備が整いましたので、どうぞ侵入者のエミーさん、こちらへお越しください!」
廊下の先へと手のひらの先を向け、私の案内を始めるビューン。
その恰好は、青と白のカラーリングの、煌びやかでスタイリッシュな鎧姿だ。
さっきまでのインナー姿とは異なり、ばっちり恰好良く決めている。
私は最後に残った焼き菓子を口に放りこむと、それをもぐもぐしながら先行するビューンに従い、廊下を歩きだした。
「はい、こちらが試練の間になります」
少しだけ歩いたところで、ビューンは足を止め、大きな鉄扉を指し示した。
荘厳な装飾の施されたその扉は、いかにも『この先にボスがいます』感を醸し出しており......その中央部分には何やら図形のようなものが彫られていて......多分あれは、超古代魔導文字なんだろうな。
<正解ですよ、エミー。『試練の間その一』と書かれています>
なるほど、その一......。
となると、さっきの近衛三騎士の皆さんの発言ともあわせて考えると......。
「この先には、部屋が三つ、連なっている?」
「その通りです」
ビューンは私の推測を、大きく頷いて肯定した。
「そしてそれぞれの部屋で、私“風弓のビューン”、“雨杖のシトシトリン”、“陽剣のニッコール”があなたをボコボコにするために、待ち構えています!その全てに打ち勝ち、我らが持つこの“宝珠”を最後の扉にはめこむことで、あなたはこの迷宮の更なる奥地、天空王国の中枢へと、歩みを進めることができるのです!」
そう説明しながら、ビューンは鎧の胸のあたりにはめこまれた美しい白色の宝珠をコンコンと叩いた。
「それはまた......お手数をおかけしまして」
「いえいえ気にしないでください!これも仕事ですから!あなたのこと、全力でボコボコにさせていただきますよ!」
なんか、自分のためにあれやこれやと準備してもらうのが申し訳なくなり、頬をポリポリとかきながら謝る私に、ビューンは爽やかな笑顔を浮かべながら首を横に振った。
良い人だな、この兄ちゃん......。
<『ボコボコにする』って宣言されて、その感想はおかしくないですかね?>
「では、私もこれから、所定の位置に移動します。準備ができたら中からお声がけしますので、それから入室してくださいね。その後は流れで戦っていただければと思いますので」
そう言うとビューンはペコリと一礼し、扉を開けて試練の間へと入って行った。
程なくして中から、『どうぞーーーッ!』という声がかかる。
これで準備は全て、整ったのだ。
<なんだか妙に時間がかかりましたが、ようやくこれで、先に進めますね!>
それを受けて、オマケ様は嬉しそうに私に声をかける。
「............」
だけど、私は。
......思わず腕を組み、うつむき加減で首を傾げてしまった。
<何かひっかかることが、あるのですか?>
いや、だってさ、オマケ様。
<はい>
私、なんか近衛三騎士の皆さんを倒して、さらにこの迷宮の奥に進むような流れになっているけどさ。
<はい>
別に......奥に進みたいわけじゃ、ないんだよね......。
<......そういえば、そうですね>
ここまでたどり着いたのも、言ってしまえば、成り行きなわけだし。
<はい>
これ......あの人たちと戦う必要、ある?
<「............」>
思わず黙りこんでしまう、私とオマケ様。
部屋の中からは、『どうしましたーーー?もう入ってきて良いんですよーーー?』という、ビューンの声が聞こえる。
<うん......でもまぁ、ここまで準備してもらって、やっぱり先に進みませんって言うのも、なんかなぁってなりません?>
やっぱり?
オマケ様も、やっぱりそう思う?
<そう、ですねぇ......なんかもう、戦って先に進む流れに、なっちゃってますもん。ここで引き返すのはやはり、先方に申し訳ないですよね?>
だよねぇ......?
............。
うん。
良し。
やるか。
私は、覚悟を決めた。
そして、やる気を出した。
心の枷を外して、闘争心だの暴力性だの、そういったものを開放する。
すると鎧の節々から、靄が漏れる。
はしたないと言われようが、うん、やっぱり漏れるもんは漏れる。
ミシ、ミシミシ......。
周囲の空間から、何やら軋む音が聞こえ始めるが、無視。
やるぞ。
やるぞ。
うん。
まあ。
殺さない程度に。
やるぞ。
死んじゃったら?
まあ。
しょうがないか。
「らあああああーーーッ!!」
私は思いきり、試練の間その一へとつながる鉄扉を、蹴とばした!
ガゴオンッ!!
ガンッゴッ!!
大きな音を立て、その形を歪ませ吹き飛んでいく鉄扉!
その先にあるのは、がらんと広い大広間!
そしてその中心にて立ちはだかるは、近衛三騎士が最初の一人!
「我が名は“風弓のビューン”!誇り高き王の剣、近衛三騎士が......」
「らあああああーーーッ!!」
ビューンは私が入室したのを見計らい、何やら口上を述べ始めたが、長い!
台詞が長い!
私は勢いよく吹き飛んでいく鉄扉を追いかけ、それで身を隠すようにしながら素早くビューンに接近!
そのままの勢いでビューンの腹を......蹴り飛ばした!
「ぐええーーーッ!?」
その衝撃で吹っ飛び、試練の間の壁に背中から激突する、ビューン!
「ま、負け......た......?」
ビューンは呆然とそうつぶやくと......白目をむいて気絶し、その場に倒れこんだ!
すると彼の鎧から白い宝珠が外れ、床をコロコロと転がる!
私はそれを拾い、自らの鎧を変形させて腰のあたりに作り出した袋に詰めると、今度はこの部屋の入口とは反対側の壁にある、次の試練の間へとつながる鉄扉に駆け寄り、そして......!
「らあああああーーーッ!!」
私は思いきり、その鉄扉を、蹴とばした!
ガゴオンッ!!
ガンッゴッ!!
大きな音を立て、その形を歪ませ吹き飛んでいく鉄扉!
その先にあるのは、がらんと広い大広間!
そしてその中心にて立ちはだかるは、近衛三騎士が二番手!
「私は、“雨杖のシトシトリン”......近衛三騎士が一人であり、第二の......」
「らあああああーーーッ!!」
シトシトリンは私が入室したのを見計らい、何やら口上を述べ始めたが、長い!
台詞が長い!
私は勢いよく吹き飛んでいく鉄扉を追いかけ、それで身を隠すようにしながら素早くシトシトリンに接近!
そのままの勢いでシトシトリンの腹を......蹴り飛ばした!
「きゃああーーーッ!?」
その衝撃で吹っ飛び、試練の間の壁に背中から激突する、シトシトリン!
「あ、あなた、強いのね......良いわ、先に進みなさい......」
シトシトリンは必死に力を振り絞りそうつぶやくと......白目をむいて気絶し、その場に倒れこんだ!
すると彼女の鎧から白い宝珠が外れ、床をコロコロと転がる!
私はそれを拾い、自らの鎧を変形させて腰のあたりに作り出した袋に詰めると、今度はこの部屋の入口とは反対側の壁にある、次の試練の間へとつながる鉄扉に駆け寄り、そして......!
「らあああああーーーッ!!」
私は思いきり、その鉄扉を、蹴とばした!
ガゴオンッ!!
ガンッゴッ!!
大きな音を立て、その形を歪ませ吹き飛んでいく鉄扉!
その先にあるのは、がらんと広い大広間!
そしてその中心にて立ちはだかるは、最後の近衛三騎士!
「我が名は......」
「らあああああーーーッ!!」
ニッコールは私が入室したのを見計らい、何やら口上を述べ始めたが、長い!
この時点で私の体は大分調子が上がってきているので、その四文字すらが長い!
私は勢いよく吹き飛んでいく鉄扉を追い越し、素早くニッコールに接近!
そのままの勢いでニッコールの腹を......蹴り飛ばした!
「どわあーーーッ!?」
その衝撃で吹っ飛び、試練の間の壁に背中から激突する、ニッコール!
「ちょ、え、ちょ......ひど......」
ニッコールはぶつぶつとそうつぶやくと......白目をむいて気絶し、その場に倒れこんだ!
すると彼の鎧から白い宝珠が外れ、床をコロコロと転がる!
私はそれを拾い、自らの鎧を変形させて腰のあたりに作り出した袋に詰めると、今度はこの部屋の入口とは反対側の壁にある、何やらこれまで以上に荘厳な装飾の施された鉄扉に駆け寄り、そして......!
「らあああああーーーッ!!」
私は思いきり、その鉄扉を、蹴とばした!
ガゴオンッ!!
ガンッゴッ!!
大きな音を立て、その形を歪ませ吹き飛んでいく鉄扉!
その先にあるのは......どこまでも続いているように見える、長い長い廊下だった。
つまりは。
私は、全ての近衛三騎士を打ち倒し。
試練の間を、突破したということだ......!
「ふううーーー......」
私は大きく息を吐き、いったんクールダウン。
ちょっと後ろを振り返り、ニッコールの様子を見る。
「............」
うん、なんか痙攣しているけど、死んではいない。
気絶しているようだ。
良かった!
なんとか上手に、手加減もできたみたい!
<あの、エミー、エミー>
私がほっと胸をなでおろしていると、オマケ様がおずおずと声をかけてきた。
どうしたの?
<あのですね、ビューンが最初に言ってましたよね?『宝珠を最後の扉にはめこむと、先に進める』って>
確かに言ってたね。
......あ。
私は慌てて最後に蹴り飛ばした扉の残骸に駆け寄り、何故か断面からパチパチと火花が弾けているそれを、じっと見つめた。
どうやらその扉、なにやら三つ、窪みが配置されており......そこに宝珠をはめこむと、魔道具的な仕組みで扉が開くと......多分そんな感じに、なっていたらしい。
つまりは。
<せっかくのギミック、勢いに任せて、壊してしまいましたね......>
「............」
えっと。
あーーー......。
なら、近衛三騎士から手に入れた、三つの宝珠は?
<もはや腰の袋の容量を圧迫するだけの、ただのゴミですね>
............。
それは、また。
なんとも......。
ギミックを無視してしまって......なんか申し訳ないなぁ......。
<まぁ、やってしまったものは仕方がありません。とりあえず宝珠も、どこかに捨てておきましょう>
そうだね......。
「......らッ!らッ!らッ!」
というわけで私は、腰の袋からただのゴミと化した宝珠を取り出し、天井に向かって思いきり投げつけた。
メキョッ、メキョッ、メキョッ!
どうやら宝珠は相当硬いらしく、三つとも天井を突き破って......その先のどこかに飛んでいった。
<なんで天井に?>
なんとなく、気まぐれ。
その辺に転がしておくと、なんか目に入った時に、また申し訳ない気持ちになるかもしれないし......。
ま、とにかく、だ。
私はここで、最後の扉の先に続く、長い長い廊下に目を向けた。
「............」
ビューンの言葉が正しいのならば、この先にあるのは天空王国の中枢だ。
<つまりは先ほどお伝えした通り、制御用の魔導コンピューターやら動力源やらが、隠されているわけですね>
正直言って、そんなものに興味はない。
全く、ない。
ないんだけど......。
<ここまで、来ましたしね......>
ね......。
これで私が、ここから先に進まないとなると......近衛三騎士の皆さん、ただのぶちのめされ損だしね......。
だから......まぁ......行ってみますか......。
そんな、特にモチベーションも何もない状態のまま。
私は迷宮の最深部......天空王国の中枢に向かって、トコトコと歩き始めた。




