454 てんぱる近衛三騎士
『我が名は“風弓のビューン”!誇り高き王の剣、近衛三騎士が一人であり、第一の試練の間を、守護する者なり!この先には何人たりとも通しはしない!』
......上記の台詞は、ビューンが近衛三騎士に抜擢された際に考案した、戦闘前の台詞である。
煌びやかな近衛三騎士専用鎧を身にまとい、王家の紋章の描かれたマントを翻し、荘厳な装飾を施された魔弓を威圧的に構えながら......。
ビューンは侵入者と対峙し、それを見事、打ち破る。
歳若い騎士が想像していたのは、そんな華々しい、己の活躍する姿であった。
ところが。
現実はどうかと言えば。
「「「「............」」」」
侵入者は、お行儀よく試練の間に挑みなど、しなかった。
どうやったのか......無理やり壁を破壊し、控室に入りこんできた。
彼はまだ、戦闘準備も何もしていないと言うのに。
ラフなインナー姿だと言うのに!
(どうしよう......?)
困惑。
......それが、現在のビューンの胸中を占める、全てだ。
彼はエリートとは言えまだ若く、経験も少ない。
突然の事態にも慌てず対応しなければならないのに......とっさのことで、頭が働かない。
どうしたら良いか、わからない。
ただ、じっと......彼と同じように固まる、目の前の侵入者の少女を、見つめることしかできない。
しかし。
しかし、だ。
近衛騎士団長......陽剣のニッコールは、そんなビューンとは一味違った!
「侵入者よ......」
彼はそう、厳かに声を発しながら。
ゆっくりと、椅子から立ちあがり。
威圧的に......少女の前に、立ちはだかった!
......タンクトップ姿なのは玉に瑕だが、その風格は、間違いなく強者のそれだ!
「............」
侵入者の少女も、そんなニッコールの姿を見て、少し警戒を強めたらしい。
若干弛緩していた控室内の空気が、ピリリと引き締まっていく。
(す、凄い!立ちあがり、対峙するだけで、場の空気を変えた!さすがは団長......不測の事態にも、全く動じていない......!)
ビューンは己の不甲斐なさを悔いながらも、ニッコールの威風堂々たる態度に感銘を受け、キラキラとした眼差しを向けた!
(この場を、一体どのように、収めるのか!?)
そして胸を高鳴らせながら、彼はニッコールの次なる言葉を待ったのだ。
しかし、この陽剣のニッコール......次に発したのは......!
「わ、我が名は、近衛三騎士が一人、“陽剣のニッコール”!ここまでたどりつけたこと、まずは褒めてやる。しかし......ビューンとシトシトリンの仇、とらせてもらうぞッ!!」
明らかに......第一、第二の試練を突破された後に言うために準備しておいた、台詞であった!
(えええーーーッ!?)
何のことはない!
表情にこそ、出してはいなかったが!
ニッコールも、十分にてんぱっていたのだ!
(『ビューンとシトシトリンの仇』って、何ですか!私たちはまだ、やられてませんけど!?)
内心でつっこみを入れるビューン!
「............?」
そして首を傾げる、侵入者の少女!
当たり前だ!
彼女はビューンもシトシトリンも、倒してなんかいないのだ!
「ふ......ふふっ」
と、ここで。
もう一人の人物が微笑みながら前へと進み、ニッコールの隣に並び立った。
灰色スウェットを着こんだ女......雨杖のシトシトリンだ!
(お、おお!シトシトリン先輩!なんか、空気が凄く、変な感じになっています!お願いします、何とか軌道修正を!)
ビューンはすがるように、シトシトリンを見つめた!
シトシトリンは、その美しい青髪を勢いよくかきあげ、少女に対して見くだすような......艶やかで傲慢、冷徹な視線を送りながら......!
「私は、“雨杖のシトシトリン”......近衛三騎士が一人であり、第二の試練の間の、守護者よ。私はビューンの坊やのように、甘くはないわ......覚悟なさい!」
......やっぱり、事前に作っておいた台詞を、そのまま言ってしまった!
(だ、だめだーーーッ!?シトシトリン先輩も、すっかりてんぱっているーーーッ!?)
よく見るとこのシトシトリン、余裕を感じさせる微笑みを浮かべているはずのその口元が、ひくひくと痙攣している!
もうどう考えても、やばいくらいに緊張している!
「............?」
そしてまたしても首を傾げる、侵入者の少女!
当たり前だ!
彼女はビューンを、倒してなんかいないんだっつの!
「あーーー......えっと......私は、エミー・ルーン。旅人......」
と、ここで。
ニッコールとシトシトリンのてんぱり台詞を、自己紹介と捉えたのか。
侵入者の少女が、近衛三騎士に対して、自分の名前を告げた。
「............」
そして少しうつむいて、何やら思案を始めた。
(......!台詞だ......自分も何か、決め台詞を述べようとしているんだ!)
ビューンは何故だか直感で、少女......エミーの考えていることを、理解した。
エミーはしばらく無言で考えこんでいたが......ついに自分らしさを表現できる言葉を、見つけたらしい。
彼女は少し腰を落とし、拳を構えて......近衛三騎士を見据えながら、はっきりと言い放った!
「............皆殺しだッ!!」
それは、あまりにも......。
決め台詞と言うには、あまりにも酷い、文字の羅列だった!




