447 ネバーフォールについて学ぼう!
<さて、エミー......作戦会議をしましょう>
宙に浮かぶネバーフォール天空王国の雄姿を堪能していた私に、オマケ様は真面目な声で、そう言葉をかけた。
作戦会議?
一瞬疑問符が頭に浮かんだものの、そこはオマケ様ともつきあいの長い私だ。
何を言いたいのかは、すぐにピンときた。
つまり......この天空王国を、どのような順番で巡るか。
どのように、観光するか。
それを......決めようというんだね?
<ふふふ、その通り......>
ああ......楽しみだなぁ......。
ぶしゅう。
おっと、また靄が漏れた。
<ちょっと、エミー......はしたないですよ>
え、そうなの?
この、たまに漏れちゃう靄って、はしたないものなの?
<うーん......そうなんじゃないですか?体内から外に出ていくものって、そう判断される傾向があると思います。オナラとか>
オナラ扱い!?
でも、ついつい出ちゃうあたりは、似たようなものなのかも。
感情が昂ると、なんかどうしてもね......。
まあ、気をつけるようには、してみましょう。
我慢できるかは、わからないけど。
それはさておき、作戦会議だ。
<どこから見てまわりましょう?>
うーん、でもいきなり、そう言われてもなぁ。
私、この天空王国のこと、何も知らないし。
まずは基本情報を教えてくれない?
<おまかせください!なにせここは、天空王国!その幻想的で美しい外観故、これまでも舞台として様々な異世界転生配信に登場してきた場所です!私も、この国についての知識はたくさん蓄えていますよ!>
オマケ様は自信満々にそう言うと、弾む声で天空王国についての解説を始めた!
<まず、この天空王国ですが......超古代魔導文明の時代に建造された、元空中要塞の上に築かれています>
また超古代魔導文明!?
なんか巨大サザエと言い、ここまで飛ばされた転移魔方陣のあった遺跡と言い、最近やたらと縁があるなぁ。
でも、“空中要塞”ね......。
アーシュゴーでぶち壊した、あれみたいな物ってことね?
<そうですね。ただ、若干異なりますのが、アーシュゴーで見た空中要塞はおそらく徹頭徹尾軍事用の物でしたが、こちらは初めは軍事用に作られましたが、その後は民間に払い下げが行われているんですよね>
払い下げ?
<当時の民間業者に売り払われた、ということです>
民間業者?
何の業者?
<アミューズメントパークの運営会社です>
......アミューズメントパーク。
つまり。
<別の言い方をすれば、“遊園地”ですね>
............。
私は改めて、ネバーフォール天空王国の全容を、じっと見つめた。
その外壁に隠されて細かなことはわからないけど、いくつかの背の高い建造物は、視認することができる。
例えば......鉄骨を組んで作られた、あの、観覧車みたいな形のあれは......。
<ご慧眼!まさしくあれは、元観覧車です>
じゃあ、外壁の上に波打つように設置された、あのレールは......。
<元ジェットコースターのレールですね>
なら、あの、大きくて立派な、お城は......。
<元は、ホテルやレストラン、お土産屋さんが入った複合型商業施設でした。今では本当に王宮として使用されています。なんだかおもしろいですよね!>
............。
幻想が、音を立てて......瞬く間に崩れ去っていく......!?
<話を戻しますが......この元空中要塞、超古代魔導文明の時代においてはその装備こそ世代遅れのものであり、それ故に払い下げが行われたのですが......維持管理を行う制御AIが、異常なまでに優秀でした。それこそ、“滅びの日”を経た後も、変わらず空を飛び続けていた程に>
ちょっとショックを受けて、呆然としている私のことなど気にも留めず、オマケ様は解説を続けた。
<で、それを面白がった神々が、そこに生き残った人間たちを入植させたことで、天空王国が始まったわけです。それからおおよそ五千年の時が流れました。先程述べたように、このあたりは神々が定めた技術特区ですので、天空王国の人々は脈々と超古代魔導文明時代のいくつかの技術を受け継ぎながら、独自の文化を形成してきたのです>
............。
......はあーーー。
なるほどねーーー......。
元は遊園地であっても、ここにはその後培ってきた五千年の歴史があるのだと。
なんか、それは、うん。
ちゃんと普通に、凄いよね。
<ちなみに、天空王国が元は遊園地だなんて、誰も知りませんからね?バカにされていると勘違いされるので、誰にも言っちゃだめですよ?>
言わないよ......うん、言えない。
知ったら思わず膝をつきたくなる世界の真実なんて、皆知らないままでいた方が、幸せだよ......。
<さあ、エミー。早速計画を立てていきましょう!どこから見てまわりますか?>
うーん、そうだなぁ......。
観覧車にでも、乗る?
<だめですよ?あれは今、魔導兵器として改造されています>
じゃあ、ジェットコースター?
<それも魔導兵器にされています>
なんだよッ!
遊園地なんでしょッ!?
遊ばせてよッ!!
<元、遊園地ですって!五千年も経てば、遊具だって兵器に転用されます!それが、人類の業です!>
そうかなあッ!?
人類って、愚かしいねッ!?
ええい、もう良いや!
私はカサカサと飛空艇をはいまわり、船底から船の上部へと移動し、立ちあがった。
ちょうどその時飛空艇は方向転換をして、天空王国に対して横腹を向けたところだった。
<どうする気ですか、エミー?>
いやね、細かく考えるのはやめようと思って。
計画なんか練らずに、出たとこ勝負!
天空王国観光は、そういう風にいこうかと思って!
<まあ、それも良いですね。意図せぬ出会い、軋轢、そして殺戮......それもまた、旅です......>
やめてよ......なんで観光しようって言っているのに、軋轢とか殺戮とか、想定に組みこんでいるの......?
オマケ様地味に、自分の解説をふいにされて、怒ってるでしょ?
<いえいえ、別にーーー?>
ほら、もう、その言い方が怒ってるもん。
......でも、良いもん。
行くもん。
私は軽く跳躍してから空中で体勢を整え、肩から一対の【黒翼】を展開すると......これまで私を運んでくれた飛空艇に別れを告げて、天空王国に向けて滑空を開始した!
これだけ近づけば、もう私一人でも十分に飛んでいけるからね。
途中、バシュウと音を立てて背中から魔力を一噴き噴出させると、私の体はみるみるうちに舞いあがっていく。
外壁よりも高い位置まで上昇してその中を覗きこめば、眼下に広がるのは細々とした建物が密集して立ち並び、意外と雑然とした天空王国の街並みだ。
<おお、かなり活気がありますね。大きな通りには、人だかりもできていますよ。何をしているのでしょうか?>
もしかして、お祭りかも!?
これは良いタイミングで、この国に来れたのかもしれないね!
屋台とか、あるかな!?
<うふふ、エミーったら、相変わらず食いしん坊なんだから>
う、うるさいなあ!
良いでしょ別に、まだ私、子どもなんだから!
成長期なんだよ!
<ええ、ええ。どこまでも、成長していきましょうね!>
私はすっかりテンションがあがり、上機嫌になって......ひとまずは大きな通りの人だかりに向けて、飛行を開始した!
◇ ◇ ◇
しかし、そんなエミーに向かって。
じっと......無機質な視線を送り続ける存在があった。
それはネバーフォール天空王国の外壁に無数に埋めこまれた、監視カメラ群である。
エミーの姿は、この時既に......天空王国空軍によって、捕捉されていたのだ!
というか、注視していた子鼠号から突然人間が飛びあがり、天空王国に向けて飛んできたものだから!
『え、何?いや、何!?』ってなって!
子鼠号そっちのけで、注目を集めまくるという事態に陥っていたのだ!
外壁の監視カメラ群......“天使の瞳”のレンズが。
日の光を浴びて......きらきらと冷たく、輝いた。
......そしてその時、天使の瞳が映した映像を届けられた天空王国空軍の中枢は!
混乱の渦中に、叩きこまれていた!!
【令和5年1月31日訂正】
444話から、『反乱軍』という表記をなくしました。




