446 【Small Mouse Flying In The Sky】大丈夫だ
タカタカが操る子鼠号の操舵室の前面に広がるガラス。
そのガラス越しに見える、空飛ぶネバーフォール天空王国の姿が、徐々に徐々に大きくなってきた。
ネバーフォール天空王国......その下半分は、半球状だ。
人の手で切り出されたとは思えない程巨大な四角い岩を隙間なく並び、そのような形に組みあがっているのだ。
そして外壁に隠され全てが見えるわけではないが、その半球の上には平らな地面があり、そこにネバーフォールの上級国民が住まう街並みが広がっている。
その中でもやはり一番目立つのが、王族の住まう国の中心である、ネバーフォール王宮......その地下にエアが捕らわれている、タカタカたちの目的地だ。
鋭く尖った塔がいくつも融合したようなその白く輝く王宮は、巨大でありながらも優美であり、天空王国の威光をあまねく城下に知らしめている。
そして外からこの天空王国を眺めた時、次に目につくのは、やはり『回転式全方位砲台“太陽”』と呼ばれる、巨大な複合型の魔導砲台だろう。
太古の昔から天空王国の防衛に活用されてきた歴史ある魔導兵器であるそれは、武骨な鉄骨を用いて、まるで薄い円形の皿を立てかけたような形に作られている。
その皿の縁には人が乗りこめる無数の砲台が等間隔に設置されており......それが時計回りにぐるぐると回転し続けながら、天空王国の敵を狙い撃ち続けるのだ。
ちなみにその名前の“太陽”とは、組みあげられた丸出しの鉄骨が、まるで太陽を象っているかのような形に見えることに由来する。
また、古来より使用され続けている天空王国の防衛兵器は他にも存在しており、それが『高速移動式魔導砲台“蛇”』だ。
天空王国をぐるりととり囲む外壁上には、ぐねぐねと波打つような形のレールが敷かれており、そのレールの上を高速で移動する魔導砲台が配備されている。
これにより天空王国は、死角なく敵を迎え撃つことができるというわけだ。
なお、その“蛇”という名前はぐねぐねと波打つそのレールの形状に由来する。
波打つどころか、場所によっては縦に円を描くように一回転する箇所もあり、何故まっすぐではなく、このような無駄な形状をしているのかは諸説あり......考古学者たちの間で未だに論争が続いているが、それはともかく。
“太陽”も、“蛇”も......そして天空王国外壁周辺を飛びまわりながらパトロールを行っている、天空王国空軍に所属する警備用飛空艇も。
どれもこれも、いつも野菜を運びこむ時には良く見る、馴染みのある風景の一要素だというのに。
それが今のタカタカには......たまらなく恐ろしい。
鼠族の少年は顔を青くして小さく震え......ごくりと喉を鳴らした。
「大丈夫だ」
しかしそんな彼の頭を、大きな手で、パイロット帽ごしにポンポンと、軽く叩いた者がいた。
振り向くと、それはユーヒだった。
額から二本の角を生やした赤肌の......最強の用心棒。
タカタカの“ケンカ”の師匠。
「大丈夫だ」
そんな彼が凶悪な容貌を歪めてにかっと笑い、タカタカの頭をなでている。
多くは語らない。
しかし。
「ありがとう......師匠」
その気持ちはタカタカに、しっかり伝わった!
タカタカは目を閉じて大きく深呼吸をしてから......恐怖に震える己の心を、自分で叱咤する。
自分は子鼠だ。
でも、卑屈で臆病な子鼠ではない。
勇敢で誇り高き子鼠なんだ!
「良し......!今から第四居住台地『ファーム・フォー』からの生鮮食品搬送ルートに、合流するよ!ちょっと揺れるから、皆座っていてね!」
改めて覚悟を決め、天空王国を睨みつけながら、タカタカは指示を出した。
「了解じゃ!ならば浮上するぞい!」
それを受けて緑肌の老人ギシが、慣れた手つきで子鼠号の操作を行う。
すると子鼠号は、霧の海から一拍遅れてふわりと浮きあがり、乗員たちは体に重圧を感じた。
「面舵、きります!」
しかしタカタカは慣れたものだ。
機体上昇に伴う重圧など意にも介さず、少年はぐるりと舵輪をまわした。
天空王国の魔導砲台たちに左側面を晒す形で、子鼠号はゆっくりと方向転換。
無害で、なんの意図もない......ただのおんぼろ小型貨物輸送船を装い、第三発着場を目指してゆっくりと進んで行く。
「大丈夫だ......大丈夫だ!エア、待っていてね......!」
小声でそうつぶやきながら舵輪を強く握りしめる、タカタカの両手は。
もう......震えては、いなかった。
◇ ◇ ◇
しかし、そんな子鼠号に向かって。
じっと......無機質な視線を送り続ける存在があった。
それはネバーフォール天空王国の外壁に無数に埋めこまれた、監視カメラ群である。
子鼠号の姿は、この時既に......タカタカとも因縁深い天空王国空軍によって、捕捉されていたのだ!
外壁の監視カメラ群......“天使の瞳”のレンズが。
日の光を浴びて......きらきらと冷たく、輝いた。




