439 糸口
<<<ぐ、ぬあ......?>>>
コブダリオンが目を覚ますと、そこは崖に囲まれた大穴の外だった。
彼は突如現れたバケモノに助けられ、ここまで放り投げられた。
そして、気を失っていたらしい。
<<<ぬ......>>>
体中の痛みに耐えながら、ふわりと宙に浮きあがる。
そうしてから、ぐるりと辺りを見回す。
仲間のコブダイ戦士たちと突入した際には、近くの物すらかすんで見える程濃かった霧が、今やすっかりと晴れていた。
おかげで大穴の底の様子も、はっきりと見てとれる。
そこでは、バケモノが戦っていた。
体から黒い触手を出して、バケモノは大穴の底のほぼ全域に広がった災厄ヒュミダファイと、死闘を繰り広げていた。
矢舌をかわし、貝肉津波をかわし......都度反撃を食らわしている。
しかし、旗色は悪い。
バケモノは戦えてはいるが、それだけだ。
バケモノがいくら攻撃を加えても、ヒュミダファイには全く堪えた様子がない。
今もこの災厄は、大穴の外に向けて、徐々にその体を伸ばし広げ続けている。
このままでは、あの災厄の体が大穴の外にあふれ出すのも時間の問題だ。
そうなると、どうなる?
コブダイたちの、里はどうなる?
里に残された、戦えない者たちはどうなる?
皆......食われる。
食われてしまう......!
<<<ああ......神よ!我らが神、ゴッドコブよ!あなたは今、何をしておられるのか!?今こそ、戦う時ではないのですかッ!?>>>
コブダリオンは思わず天を仰ぎ、嘆いた。
ヒュミダファイが霧を出さなくなった今、彼の頭上には美しい青空が広がっていた。
しかし、そこにゴッドコブはいない。
災厄と戦うことを宿命づけられているはずの彼らの神、ゴッドコブ。
エセレム大霧海を永久に泳ぎ続ける超巨大コブダイは、一向にその姿を現さない。
<<<くそッ......ちくしょおおおおーーーッ!!>>>
コブダリオンは絶望し、慟哭した!
「らあああああッ!!!」
しかし、その時だ。
大穴の底から、そんな鳴き声が聞こえた。
バケモノの、鳴き声だ。
その声にひかれて、コブダリオンは再度、大穴の底を見下ろした。
バケモノは、戦っている。
戦い続けている。
圧倒的に、不利な状況だ。
周囲をとり囲む巨大なヒュミダファイと比べると、バケモノの体はあまりにも小さい。
それなのに、彼女は戦っているのだ。
一歩も引かずに。
<<<戦士......>>>
思わず己の口からこぼれ落ちた、その一言。
その一言に、コブダリオンは、一拍遅れてはっと息をのんだ。
<<<......ふふ>>>
そして自嘲気味に、小さく笑った。
ここで己は、神頼みか、と。
そうじゃないだろう、と。
<<<ここで、心が折れていたら......コブダクレバ殿に、申し訳が立たん>>>
そうつぶやいたコブダリオンの瞳には、闘志の炎が蘇っていた!
彼は、孤軍奮闘を続けるバケモノの後姿に、確かに戦士としての矜持を見た。
では、己は、なんだ?
己も、戦士だ。
ならば己のすべきことは、嘆くことではない。
<<<戦う、ことなのだッ......!!>>>
パチ、パチッ!
コブダリオンの周囲に、火の粉が舞い始めた。
空になった魔力も、意識を失っている間に多少は回復した。
短時間であれば、【猛炎】も発動できるだろう。
戦える。
自分はまだ、戦える!
<<<しかし......>>>
何をどうすれば良いのか。
それが、問題だった。
己より強い戦士であるあのバケモノが、倒せない相手。
それが、災厄ヒュミダファイだ。
そんな相手に、己は何ができるのか。
コブダリオンは、考えた。
考えに、考えた。
考えながら、大穴の底をじっと睨みつけていた。
<<<......あッ!!>>>
そして、気づいた。
大穴の底をほぼ埋め尽くすように体を伸ばし広げている、ヒュミダファイだが。
ごく一部。
避けている場所が、あるということに。
そこを避けているが故に、その部分だけ、穴が空いているようになっていることに。
その穴の中には、何かが落ちていた。
小さすぎて、詳細を視認することはできないが。
コブダリオンは、それが何であるのか......すぐに確信した。
それは。
降り注ぐ日の光を浴びて白く輝く、それは。
......ヒュミダファイの封印の要。
コブダロックが死の間際に落とした......ヒトデだ!
<<<......よし>>>
コブダリオンは、静かにそうつぶやくと。
その身に炎の鎧をまとい。
<<<命を賭けて、挑戦する......その価値は、あるだろう!>>>
......大穴の底に向けて、突撃を開始した!




