438 ヒュミダファイの秘密
オマケ様は、静かに災厄ヒュミダファイについての情報を語り始めた。
どうやらオマケ様は、今戦っている相手のことを、知っているらしい。
きっと、以前に動画を視聴して、学習していたのだろう。
彼女の平時の能天気さは鳴りを潜め、今は真面目モードだ。
「............」
もちろんエミーは無言で、オマケ様に話の先を促す。
この相手は、今のままでは倒せそうにない。
情報が、必要だ。
<ヒュミダファイはかつて、超古代魔導文明末期の時代に品種改良され誕生した、“魔導サザエ”の突然変異個体です>
しかし当然ヒュミダファイは、エミーの情報整理を黙って待ちはしない!
ここでこの超巨大サザエは、突然体を震わせたかと思うと......これまでの押し潰し攻撃の要領で、自らの体を使って大きな津波を作り出した!
ごうごうと音を立てて、貝肉津波がエミーに迫る!
<魔導サザエは、元々は生ごみ処理を目的に作り出された品種でした。どんな生ごみをも平らげてそのエネルギーを魔力に換え、空気中に放出する......そのようにデザインされ、人工的に作り出された生物でした。超古代魔導文明末期には、この世界全体の魔力資源の枯渇が問題視されていましたから......そのエコな解決手段の一つとして、魔導サザエたちが開発されたわけです>
「............」
エミーはオマケ様の解説を聞きながら、貝肉津波を睨みつける。
そしておもむろに、【黒腕】を形成し、手刀の形を作る。
さらにその【黒腕】に魔力をまとわせ、超巨大な【大蟷螂】を発動する。
<ところがある日、その魔導サザエの中に、突然変異個体が発生しました。それがヒュミダファイです。通常魔導サザエは生ごみを食らって得た余剰分のエネルギーを、魔力を含む霧として体外に放出しますが......このヒュミダファイは、余剰エネルギーを自己強化にあてることができたのです>
「らあああああッ!!!」
そしてエミーはその超巨大【大蟷螂】を、気合の一吠えと共に......貝肉津波に向かって、まっすぐに射出した!
ゴオッ!!!
超巨大な槍の如き【黒腕】の一突きは、その威力を遺憾なく発揮し、貝肉津波に大穴を開ける!
そしてそのまま、津波の向こう側のヒュミダファイの体に突き刺さる、【黒腕】の大槍。
エミーはその大槍に体を引き寄せるような形で、津波の大穴を潜り抜けた。
<寝ている時は普通の魔導サザエのように、霧を生産するようですが......ともかく、この性質のために、ヒュミダファイはどんどん大きく、強くなっていきました。隙を突いて逃げ出し、ごみ処理場で働く人間たちを......一夜にして、食らいつくしてしまえる程に>
しかし津波を潜り抜けたその先に待っていたのは、大小様々なウミウシたちだ。
大槍によって吹き飛んだヒュミダファイの欠片から、発生したのだ!
ウミウシたちはぴょんぴょんと、ヒュミダファイの体表上をトランポリンのように跳ねとびながら、エミーへと襲いかかる!
<慌てた人間たちは、当時の進んだ魔導技術を用いて、ごみ処理場ごとヒュミダファイに冷凍睡眠処理を施したのですが......その直後に起きたのが、“滅びの日”です。神々の怒りの炎により文明は燃やし尽くされ、ヒュミダファイを封じていた氷も解けてしまいました>
「............」
エミーは【黒腕】をほどき、これまでと同じように【黒触手】を作りあげ、プラプラと揺れながらウミウシたちの体当たりを避け続ける。
そしてそのうち、ちょうど野球ボールくらいの大きさの個体が跳んできたので、それを掴みとるとおもむろに口に運んだ。
<文明が滅んだその当時、復活したヒュミダファイには敵がいませんでした。故に生き残った人間やら動植物やら、生きとし生けるもの全てを......とにかく体を伸ばし広げて食らいつくしました。当時はこの大陸の東半分全てが、ヒュミダファイの体で覆われていたほど、この魔導サザエの突然変異個体は大きくなりました>
ウミウシは......つまり、ヒュミダファイの体は非常に弾力性に富んでおり、エミーの顎の力をもってしても、それを捕食するには一苦労する。
ミチミチ......ブチッ!
ミチミチ......ブチッ!
エミーはウミウシを噛んで、引っ張って......そのまま引きちぎる。
すると口内に放りこまれた破片が、また新たなウミウシへと変化しようとするので、それを許さずに飲みこみ、瞬時に溶かして吸収する。
味はしない。
魔力も、そこまで含まれている感じはしない。
味のないゴム。
もし正直にヒュミダファイのことを食物として評すならば、そう報告せざるを得ないだろう。
<そこまで来て、ようやく神々も動きました。超古代魔導文明亡き後、連中は、今度は自分たちの制御下のもとで、地上に新たな文明を築こうとしていましたからね。ヒュミダファイが邪魔になったわけです>
とにかくエミーは、このように捕食することで、巨大なヒュミダファイの体積を減らすことができる。
できは、する。
しかし......。
<ヒュミダファイは災厄に認定され、封神エエという神の力によって、この地に封印されることになりました。何故倒されなかったのかと言えば、ヒュミダファイが持つ魔導サザエとしての性質......つまり、寝ている間は魔力を含んだ霧を発生させるという性質が、神々の世界運営にとっても有用であったからです>
「............」
エミーはぐるりと、周囲を見回した。
辺り一面、見渡す限り、ヒュミダファイだ。
この超巨大サザエ、封印が解けてからあまり霧を放出しなくなったため、徐々に周囲の見通しが良くなってきているが、そのおかげで詳細に視認できたヒュミダファイ本体の殻も、まるで岩山のような大きさだ。
<大地の底を流れる魔力を吸いあげ、それを空気中に放出する......魔力循環のための生体装置として、ヒュミダファイは利用されていたのです>
つまり、食べても食べてもきりがないのだ。
おそらく、エミーの捕食スピードを上回る勢いで、ヒュミダファイは大きく伸び広がる。
その現実に思い至り、エミーはため息をついた。
<故に......>
「ねえ」
そしてようやく、オマケ様の長話を遮る。
結局のところエミーが知りたいのは、このヒュミダファイとやらを倒すための方法だ。
正直、歴史的な経緯など、この期に及んではあまり意味がない。
自分は、どうすれば良いのか?
それを知りたかった。
<あなたは、どうすれば良いか......そんなことは、簡単です>
オマケ様はそんなエミーの問いかけに、あっさりと答えを用意した。
<あなたでは、ヒュミダファイに......負けはしないでしょうが、勝てもしません。だから......逃げましょう>




