437 災厄対呪い子
突如として現れた黒い生き物へ、ヒュミダファイはその体表に浮かぶ無数の瞳を一斉に向けた。
この超巨大サザエ型の災厄、知能はそれほど高くはなく、本能に従って生きている。
その本能が、警鐘を鳴らしたのだ。
この黒いのは......“少し”、危険だと。
故にヒュミダファイは、すぐに攻撃行動に移った。
狙い過たず、黒いのに対峙する体表から、次々に矢舌を射出していく。
ビュビュビュビュンッ!!
空気と霧を斬り裂きながら、つい先ほどもコブダイ戦士たちを虐殺した必殺の銛が、黒いの......即ちエミーに向かって、凄まじいスピードで飛んでいく!
「............」
しかしエミーは、動揺一つ見せない。
相変わらずの無表情のまま、まず彼女の頭を狙って飛び来る1射目を、左に首を傾げるようにしてかわした。
次いで少し腰を落とし、胸を抉るべく飛んできた2射目を、右手を使った裏拳で弾き、軌道を変えてかわす。
その流れのまま、右足を引き、体の左側面を前方に向けた半身の状態に。
それだけで3射目は空を切り、後方へと飛んでいく。
最後の4射目は、顔面に着弾する直前に、左手で掴むことで止めた。
「............」
そして最後に捕まえた矢舌を、エミーは両手で握り直し、思いきり引っ張った!
とりあえず、引きちぎってみようという心づもりである。
しかしながらその試みは失敗に終わる。
ヒュミダファイの矢舌は引いても引いても伸びるばかりであり、一向にちぎれる気配がない。
「............」
故にエミーは手刀を構え、それを目にも止まらぬ速さで矢舌に向かって振りおろした。
すると今度は、スパンと、容易く切断に成功する。
伸びに伸びていた体表側の矢舌は、反動でゴムのように引き戻されていき、ヒュミダファイの体表を強かに打った。
「............」
斬りとった矢舌の先を、ズルズルと超極太うどんのように啜りあげながら、エミーは油断なく、再度ヒュミダファイと対峙する。
目の前で体の一部が捕食されているわけだが......この超巨大な災厄は、特にそれを怒っているような気配はない。
静かに揺れながら、無数の瞳でエミーのことを、じっと見つめている。
その瞳から感じとれるのは......食欲。
殺意も害意もなく......ただ、純粋な食欲だけが、そこにはあった。
「!!」
......と、次の瞬間だ!
エミーをとり囲むように展開するヒュミダファイの体が突然ブルリと震えたかと思うと、突然壁のように立ちあがり......エミーを押し潰さんと、倒れこんできたではないか!
エミーはとっさに跳躍して、跳び越えるような形でそれを回避。
そのまま無数の瞳が瞬く、ブヨブヨとしたヒュミダファイの体表上に着地する。
すると着地地点のすぐ横に突然口のような大穴が開き、エミーを丸のみしにかかる!
横跳びでその丸のみ攻撃を回避するエミーだが、ここはヒュミダファイの体表の上。
自由自在に体を変形することができるらしいヒュミダファイは、回避先の付近にも新たに口を作り、エミーを飲みこもうとした!
きりがない!
「らッ!!」
そこでエミーは垂直に高く跳躍してから、滞空中に太めの【黒触手】を展開し、それを真下のヒュミダファイに向かって、槍のように射出した!
容易くヒュミダファイの体を貫き地面に突き刺さったその【黒触手】を支えにして、エミーはプラプラと宙を浮きながら、両手でそれぞれ手刀の形を作る。
そしてその指先から、魔力の刃を形成する。
【大蟷螂】だ。
このヒュミダファイの体はまるでゴムのような弾力性があり、おそらく打撃に対して耐性がある。
放つべきは、斬撃だ!
「らあああああッ!!」
そう看破したエミーは、器用に【黒触手】を操作して周囲を縦横無尽に飛び回りながら......両手に双剣のごとく伸ばした【大蟷螂】を振り回し、ヒュミダファイを斬り刻み始めた!
スパンッ!
スパスパスパスパスパンッ!!
柔らかいヒュミダファイの体表は、【大蟷螂】の刃を良く通す。
エミーは一心不乱に周囲のヒュミダファイを細切れにしていく。
しかし!
「!!」
突然、後方より何かが飛んできた気配を感じて、エミーは攻撃を中断した。
すぐさま【黒触手】を操作して振り向き、飛んできた何かを手で掴みとり、受け止める。
「!?」
そしてその何かの正体を視認して、さすがのエミーも内心で驚きの声をあげた!
ソフトボール大のそれは......エミーが斬り飛ばした、ヒュミダファイの欠片のうちの、一つだった。
それがまるで、ウミウシのような形状に変形して......エミーに飛びかかってきたのだ!
「......!!」
慌てて周囲を見回すと、ヒュミダファイの体表上には、大小様々なウミウシが蠢いていた。
全て、エミーが斬り飛ばした、ヒュミダファイの欠片だ!
「......らッ!!」
とりあえず、手元のウミウシを急ぎ噛みちぎり腹に収めると、エミーは【黒触手】をしならせてから、まるでボールのように自分の体を放り投げた!
ウミウシたちはぴょんぴょんと跳ねながらエミーを追いかけてくるが、遅い。
ある程度の距離が稼げたことを確認すると、エミーはまたしても真下に向かって【黒触手】を射出し、それを支えとしてその場に浮かんだ。
周囲はもう、見渡す限りヒュミダファイの体が地面を覆っており、足の踏み場もない状態なのだ。
先ほどエミーが暴れていたにも関わらず、ヒュミダファイはそれによって負ったダメージなど意にも介さず、その体を伸ばし広げ続けている。
この大穴の底はかなり広いが、もはやその全てがヒュミダファイによって覆われている。
「............」
エミーはプラプラと揺れつつ、時折射出される矢舌をかわしながら、冷や汗をぬぐった。
このヒュミダファイ、とにかく大きすぎるのだ。
先ほどエミーは【大蟷螂】を使って暴れ、その一部に穴をあけてやったが......そんなもの、巨大なヒュミダファイ全体から見れば、針を刺した程度のダメージに過ぎない。
しかも、振り返ってその穴をよく見ると、なにやらジュワジュワと音を立てながら、徐々に塞がり始めている。
再生しているのだ......!
<まったく、本当にきりがありませんね......さすがは災厄ヒュミダファイです>
ここでようやく、オマケ様が口を開いた。
ようやく主人公が戦い始めましたが、ここらで毎日の投稿はおしまいです。
この先はいつも通りの不定期更新に移りますので、ご了承ください。
第19章もそろそろ終わり、第20章が始まります。
こちらの章は、概ねエミーの視点で進む、少し笑える話になる予定です。
おつきあいいただければ幸いです。




