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オマケの転生者  作者: むらべ むらさき
19 最後のコブダイ戦争編!
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436 “人間性”

 ......それは、赤青コブダイ連合軍が休憩地点を去ってから、しばらく経った後のことだ。


 コブダローズの決死の体当たりで崩れた、崖の残骸......岩石の山が、ガタリと震えたかと思うと、次の瞬間。




 ドオオンッ!!




 そう、轟音を鳴らしながら、爆発が起きたかのような勢いで、吹き飛んだのだ!


「............」


 霧に混じりもうもうと土煙が立ちこめる中、ゆっくりと爆心地から進み出てきたのは、旅人エミー・ルーンである。

 そのどす黒い鎧や白く美しい肌には傷跡一つ残っていない。

 結局のところ、コブダローズの体当たりは、隙をついてエミーに一撃を与え時間稼ぎには成功したものの、特筆すべきダメージを与えるまでには、至らなかったのだ。


 さて、自分の上に降り積もった岩石から解放された彼女は、首や肩をぐるぐると回してから、頭や肩の上の土埃を払い......その右手に掴んだ獲物をぷらりと持ちあげて、じっと見つめた。

 その獲物とは......群れのためにその身をはって、エミーの足止めを行った勇敢なる戦士、コブダローズである。

 彼は白目をむき意識を失った状態ではあるが、まだ生きている。

 今もまた、痙攣するようにその体をビチッと震わせた。


「............」


 ぐううううう......。


 エミーの腹が鳴る。

 口からよだれがあふれ出して、たらりと一筋こぼれ落ち、ジュッと音を立てて地面を溶かした。


 そして、両手でコブダローズを抱えなおしたエミーは大きく口を開け、その腹の肉あたりに思いきり、かじりつこうとした。


 しかし、その時だった。




<<<ううん......コブダリオン......>>>




 コブダローズが【念話】で、うわごとをつぶやいたのだ。


<<<守る......私が......コブダリオン......>>>


「............」


 そのうわごとを聞いて、エミーは思わず動きを止めた。


 『コブダリオン』。


 その名前には、憶えがあった。

 確か先ほど対峙した、でかくて少し焦げ臭いコブダイが、そう名乗っていた。




「............」


 さて、どうしたものか。

 エミーはひとまずコブダローズを地面におろし、顎に手を当て考えた。


 この目の前のコブダイ。

 敵対はしたが、別に嫌いではない。

 自分の身を挺して仲間を守るなど、なかなかできることではない。

 それを、目の前のコブダイがやったのだということを、彼らから漏れ聞こえてきた【念話】を把握していたエミーは、理解していた。


 その上、うわごとですら仲間を気遣うのだ。


 エミーにはこのコブダイが、まるで聖人君子であるかのように感じられた。

 それを、ただ食欲にまかせて食べてしまうのは、いかがなものか?

 エミーは悩んだ。




<いや、お腹が空いているんだから、食べましょうよ?>


 エミーの魂の同居人オマケ様は、エミー以外の存在に対しては割と無慈悲なので、間髪入れずにそう進言した。


 しかしエミーは、首を横に振った。

 そして足元の石を拾いあげ、それをボリボリと嚙み砕き飲みこんでお腹をごまかしながら、オマケ様に頭の中で言ったのだ。




 私は、獣じゃないんだよ、と。




 エミーはよく、『バケモノ』と評されるだけの行動をするし、その評価にふさわしい身体性能も持っているけれども。


 それが己の生き死にに直結するならばいざ知らず。

 そうでもないのに。

 尊いと思ったものを平気で踏みにじることができる性格を、しているわけではないのだ。


 だからエミーは、本能的には目の前のコブダイを食べてしまいたいけれど、心情的には生かしておいてあげたいのだ。


 なんなら、このコブダイが気にしているコブダリオンのことも、代わりに少しなら守ってやっても良いとすら思っていた。


 現在彼女はラストドリーム捕食の影響で、食欲が増しに増している状況ではあるが。

 このような状況は二度目であり、前回と比べれば、今の彼女は比較的理性を保てている。

 それは、慣れもあるし、既に大分食べているからでもあるし、エセレム大霧海の空気中に含まれる魔力が、常時彼女に取りこまれ続けているからでもある。




 とにかく、少なくとも今の彼女には、分別も見境もなく目の前の生物を殺戮するだけのバケモノに、成り下がる気はなかったのだ。


 これが、数日前であれば、エミーは間違いなくコブダローズを殺して、すぐに食べていたことだろう。

 だからコブダローズは、とても運が良かったのだと言える。




<でも、コブダイたちはあなたのことを、敵だと認識しています。目の前でのびているこのコブダイも、目が覚めればあなたに襲いかかってくるのでは?生かしておいて、良いのですか?>


 エミーのこの考えに、オマケ様は不満そうだった。

 未だにコブダローズの捕食を推奨してくる。


 しかし、エミーはやはり、首を横に振った。


 その時は、その時だ、と。


 だって、この目の前のコブダイは相当頑張っていたけれど。

 それでも、『あの程度』なのだから。


 こいつらコブダイは、決して敵にはなり得ない。


 エミーはそう、確信していた。


 もし、また戦うことがあれば。

 その時は容赦なく、皆殺しにすれば良いのだ。


 だから、今は目の前の、この勇敢な戦士に免じて。

 あの『連合軍』だの何だの言っていたコブダイの群れが、何と戦うつもりなのかは知らないけれど。


 少しくらい、手助けしてやろうじゃないか。




 そのくらいの“人間性”が、自分にもあるのだから。




 そう、今後の方針を定めたエミーは、くんくんと匂いを嗅いだ。。

 そして特徴的な、コブダリオンの“焦げ臭い匂い”の残り香を探り当て。

 未だに意識が戻らないコブダローズをその場に置いたまま。

 赤青コブダイ連合軍が向かった先へと......駆け出し始めたのだ。




◇ ◇ ◇




 なお。




 手助けして“やろう”。

 “また敵対すれば、皆殺しにすれば良い”と、軽率に考えてしまえる、その傲慢さ。




 それが果たして、まっとうな“人間性”であるのだろうか?




 そんなことを指摘してくれる存在は、彼女の近くにはいない。


 エミー・ルーンはどこまでも、転がり続けていく。

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― 新着の感想 ―
[一言] まぁ相手は美味しそうな魚で、しかも初見でいきなり攻撃してきた相手だし多少はね
[良い点] 思考回路にお義母さんの影が見えて、成長(?)してるんだなぁと嬉しくなりました。 悪い影響受けただけかもしれないけど。
[一言] 過去に鳴かぬならピーしてしまえホトトギスと言った人が・・・ あの人魔王だったわw
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