433 戦士と父親
<<<たああああああーーーッ!!>>>
コブダリオンに向け猛スピードで泳ぎ寄ったコブダクレバは、彼と衝突する寸前でくるりと進路を変え、これまで隠してきた異能【水爪】を横薙ぎに振るった!
<<<くッ!!>>>
その【水爪】の威力を、つい先ほどコブダリオンは身をもって体験している。
“水で形成された爪”であるにも関わらず、それはどういうわけか凄まじい斬れ味だった。
先ほどは運良く急所から外れたが、もしあの爪が頭部を抉っていれば、今頃コブダリオンは生きてはいない。
必然コブダリオンはその爪を避けざるを得ず、傷の痛みを堪えて、地面から離れ高く飛びあがった。
<<<まてええええーーーッ!!>>>
それを追い、コブダクレバも飛びあがる。
そして右へ、左へと細かに進路を変えつつ上昇するコブダリオンに向けて、次々に【水爪】を振るう!
<<<へへッ!隙ありだコブダリオン......あッ!?ぎゃあああああッ!?>>>
途中、漁夫の利を狙った黒コブ戦士が飛びこんできたが、このコブダイには実力が足りなかった。
彼は【水爪】の斬撃に巻きこまれ切断されて輪切り状態になり......地面に向けてバラバラと落下していった。
<<<ちいッ!邪魔が入ったな......>>>
<<<ま、待ってくれ、コブダクレバ殿!復讐とは、一体なんのことだッ!?>>>
乱入黒コブ戦士のせいで距離をとられ、コブダクレバは忌々しそうにつぶやいた。
一方のコブダリオンは、荒い息を吐きながら未だに対話の構えだ。
彼は、短いつきあいではあるが、確かにコブダクレバを信頼していた。
それなのに、裏切られた。
事実として、頭は理解しようとしている。
コブダクレバは敵なのだと。
しかし、心が、それを受け入れないのだ。
<<<『なんのことだ』、だと......?は、ふざけるな......貴様は私の、息子を殺したのだッ!!>>>
しかし、対話のために投げかけたその一言が、さらにコブダクレバを激昂させた!
<<<なに......>>>
とまどうコブダリオンに向かって、コブダクレバは無茶苦茶に【水爪】を振り回しながら、怒鳴り声をあげる!
そこにいるのは、一匹の怒り狂う青きコブダイだ。
理知的で理性的だった族長の姿は、もはやどこにもなかった。
<<<息子はッ!優しい子だったッ!!>>>
コブダクレバは、【水爪】を右から左に振るう。
コブダリオンは高度を下げることで、それを回避。
<<<それなのに、『ボクは、頭が良くないから』と、コブダイ賢者の道を、諦め、コブダイ戦士の道に、進んだ!『里のために頑張る』と、はにかんで笑いながら!>>>
左から右、上から下、横薙ぎ、振り下ろしと、いくつもの【水爪】の斬撃が、コブダリオンを次々に襲う、
コブダリオンはさらに距離をとり、それを回避した。
<<<良い子だった......良い子だったのに!それをお前が、殺したのだ!私の息子を、お前がッ!!殺したのだーーーッ!!!>>>
<<<ちょっと......待てッ!待ちやがれッ!!>>>
<<<ぐッ!?>>>
しかしコブダリオンも、やられっ放しではない。
コブダクレバの攻撃は、どれも大振りだ。
【水爪】という異能は恐るべき武器ではあるが、どうもコブダクレバはそれを、うまく使いこなせていない。
端的に言えば、隙が大きいのだ。
コブダリオンはその隙をついてコブダクレバに体当たりをかまし、彼を吹き飛ばした!
<<<さっきから、聞いてりゃよおッ!?つまり息子さん、青コブ戦士だったんだろう!?ならば、戦場で死ぬのは、戦士の習いじゃねえかッ!!>>>
コブダリオンの体当たりの威力は凄まじく、コブダクレバはくるくると回転しながら地面へと叩きつけられた!
ドオンッ!!
その衝撃に地面が揺れ、砂塵が宙に浮かびあがる。
しかしその程度の攻撃ではコブダクレバの動きを止めることはできず、この青コブダイは咳むせながらも、再びコブダリオンと同じ高さにまで浮かびあがってきた。
<<<は......ゲホ、『戦士の習い』だと?ふざけるな......貴様らの理屈を、私に押しつけるな......!!>>>
そして、コブダクレバは。
<<<貴様らの理屈で、黒焦げの骸となり帰ってきた息子の体を受け取った私の気持ちをッ!!ねじ伏せられて、たまるものかッ!!!>>>
コブダクレバは、怨嗟の叫び声をあげた!
<<<......!!!>>>
その言葉は、コブダリオンに大きな衝撃をもたらした。
彼はこれまで、赤コブ族の里で、戦士として育てられてきた。
戦士の理屈の中で、生きてきたのだ。
戦士の理屈を振りかざして、戦ってきたのだ。
しかし......しかしだ。
コブダクレバの言うことも、コブダリオンには良く理解できた。
だって、それは。
普段己が戦士の理屈で必死になって押さえつけている、心の奥底に押しこめている......。
コブダイとして抱いて当然の、ごく自然な考え方であったからだ。
しかし。
コブダリオンは、周囲をちらりと見回した。
未だに赤コブ戦士たちは、戦っている。
当然、多勢に無勢。
形勢は不利だ。
次々に、名だたる戦士たちが倒れていく。
すぐそばでは、古参戦士コブダオルドが、口をぽっかりと開けて地面に横たわっている。
彼は既に、死んでいる。
他にも、たくさんの戦士たちが、次々に動けなくなっていく。
これ以上の犠牲を、出すわけにはいかない。
己は、族長である。
負けるわけには、いかない。
部族のためにも。
で、あるのならば。
<<<決着......つけなきゃ、ならねえんだな......>>>
コブダリオンは、大きく息を吸って、吐いた。
そしてまっすぐにコブダクレバを見据え、覚悟を決めた。
コブダクレバは強い。
しかし、彼はきっと、戦士ではない。
戦士とは違った理屈で動いている。
しかしそんな彼に対して、コブダリオンは。
理不尽な戦士の理屈を押しつけて、勝たねばならないのだ。
......赤コブ族のために!!
<<<うおおおおおーーーッ!!>>>
コブダリオンとコブダクレバ。
睨みあっていた両族長が、互いに向かって突進を始めたのは、ほぼ同時のことだった。
コブダクレバは、泳ぎながら伸ばした【水爪】を構え、接近と同時にコブダリオンを斬り裂く心づもりだ。
一方のコブダリオンは、再度【猛炎】を発動し、燃え盛りながらの突進である。
先ほどの不意打ちにおいて、コブダクレバの【水爪】は、確かに【猛炎】の鎧を貫いた。
で、あるならば。
今回も、【水爪】に分がある。
コブダクレバは泳ぎ始めたその時は、そう考えていた。
しかし。
<<<な......!?>>>
コブダクレバは己に突っこんでくるコブダリオンの姿を見て驚き、目を見開いた!
コブダリオンは、【猛炎】をまとっている。
しかし、その【猛炎】の様子が、これまでとは明らかに異なっている!
具体的に言えば、色だ。
コブダリオンはこの時、“青色”の【猛炎】を、その身にまとっていたのだ!
この若く、経験の浅い赤コブ族族長は。
コブダクレバとの戦いを通して。
......真に、覚悟したのだ。
赤コブ戦士としての、己の在り方を!
その覚悟が、果たして正しきものであるのかどうか。
それをここで、判ずるつもりはない。
しかしその覚悟は、確かに、コブダリオンの魂を成長させた!
それに伴い、彼の異能も!
覚醒を、遂げたのだ!!
<<<たああああああーーーッ!!>>>
しかし、一時驚きはしたものの、それで怯むコブダクレバでは、ない!
彼も彼で、既に覚悟は決めている。
コブダクレバは己の魔力のほとんどを【水爪】に注ぎこんで強化し、それをコブダリオンに向け......全力で振るった!
ジュドオンッ!!
【水爪】と青き【猛炎】がぶつかりあい、まるで爆発のように、両族長の周囲を湯気が包みこむ!
そしてそれから、数瞬遅れて!
湯気を突き破り、燃え盛る何かが吹き飛び!
ドオンッ!!
そう、盛大な音を立てながら、地面に叩きつけられた!
<<<あ......が......>>>
うめき声を漏らし、ぴくぴくと痙攣するそれは、黒焦げになった青コブ族族長“智慧のコブダクレバ”。
<<<はあッ......はあッ......!!>>>
そして荒い息を吐きながら、霧散していく湯気の中からそれを見下ろすのは、若き赤コブ族族長“猛炎のコブダリオン”。
つまり、この一騎打ちを制したのは。
コブダリオンだ!
<<<あ、ぐッ......!>>>
しかしこの勝負に勝ったとは言え、コブダリオンとて余裕があるわけではない。
もともと【猛炎】は、燃費の悪い異能だ。
それなのにコブダクレバとの戦いで、彼は魔力を大量に消費してしまった。
ボシュッ......ボシュッ......。
情けない音を立てながら、コブダリオンの炎の鎧が消えていく。
そして、それは。
この戦場においては、致命的な隙となった。
<<<ふんッ!!>>>
満身創痍のコブダリオンは。
次の瞬間彼に振るわれた、強烈な尻尾の一撃に。
反応することすら、できなかった。
<<<ぐはあッ!?>>>
ズドオオオオンッ!!!
血反吐を吐きながら、今度は己が地面へと叩きつけられたコブダリオン。
痛みを堪え、再度浮きあがろうとするも、どうにも体に力が入らない。
せめてもの抵抗として、コブダリオンは闘志をこめた瞳で、思いきり睨みつけた。
己を攻撃した、頭上に浮かぶ巨大な黒きコブダイを。
黒コブ族族長“黒岩のコブダロック”を!
<<<......まだ生きてやがるな。まったく、末恐ろしい若造だな。ちッ!>>>
コブダロックは、地面にめりこんだコブダリオンを見下ろしながら、そう言って忌々しそうに舌打ちをした。
<<<が、問題はないな!>>>
しかしすぐに、にやりと顔を歪め。
<<<何故なら若造、貴様はもう、死ぬからだな!グホホホホーーーッ!!>>>
......不快な笑い声をあげた!




