430 禁足地奇襲作戦、開始
黒コブ族の里を迂回し、さらに西へと進んだ先にある、細長い谷。
左右に不可思議なマーブル模様を描くどす黒い岩盤を露出させた崖が屹立するこの谷こそが、浮遊コブダイ族たちの“禁足地”である。
コブダイたちからは、ほとんど忘れ去られたこの地の名前は、ドントゴ谷。
上部にせり出し蓋をするような形状の崖のせいで、もともと霧のために少ない日の光がさらに遮られるこの暗黒の谷には、奥からあふれ出す恐ろしい気配のせいか、ほとんど生き物の姿が見当たらない。
ベリーの茂みも生えていないし、オキアミの一匹も見つからない。
この禁足地ドントゴ谷は、“死の谷”と形容するにふさわしい、不気味な谷なのだ。
<<<全軍......突撃ーーーッ!!>>>
<<<うおおおおおーーーッ!!!>>>
しかしこの日、その“死の谷”に......突如として、戦士たちの雄たけびが響きわたったのだ!
耳を塞ぎたくなるほどの大絶叫の後、霧の壁を突き破って谷に雪崩れこんできたのは、大勢の赤コブ戦士と青コブ戦士たち!
赤青コブダイ連合軍だ!
彼らは道中でバケモノによる予定外の襲撃を受けながらも、遂に目的地へと到達し、黒コブ族への奇襲を開始したのだ!
<<<な、なんだッ!?>>>
<<<敵襲ッ!敵襲ッ!>>>
<<<何者だッ!!貴様らーーーッ!?>>>
その雄たけびを聞き、慌てて岩の影から飛び出してきたのは、禁足地の警備役の黒コブ戦士たちだ。
彼らはちょうど休憩をとっていたところであり、突然のことに、大いに慌てふためいている。
口元に、サザエのカスをつけたままの者も多い。
そんな彼らに向かって、戦士たちの先頭を行く大柄なコブダイ......異能により生み出した、燃え盛る赤き炎をその身にまとったコブダリオンが、大声で名乗りをあげる!
<<<オレは誇り高き赤コブ族族長、“猛炎のコブダリオン”だッ!!かかってこい、黒コブ共ッ!!その黒い鱗、さらに黒焦げにしてやらああああーーーッ!!>>>
そしてコブダリオンは間髪入れず、巨大な炎の球と化して黒コブ戦士たちに突進!
<<<ひッ!?あ、熱いッ!?燃えッ......>>>
<<<ぎゃーーーッ!!>>>
黒コブ戦士たちは崖に掘られた穴から次々に飛び出してきては、迫りくるコブダリオンを止めようと彼に向かって飛びかかるが、まるで相手にならない!
ある者はコブダリオンの異能【猛炎】の力で燃やし尽くされ、またある者は単純に彼の巨体によって弾き飛ばされていく!
<<<黒コブの栄光を掴み取れ!>>>
<<<黒コブの栄光を掴み取れ!>>>
<<<黒コブの......ぎゃッ!?>>>
<<<おらおらああッ!!族長ばっかり、見てんなよガキ共がああッ!!>>>
<<<族長一人に、良い恰好はさせないぜええッ!!>>>
もちろん、他の戦士たちも負けてはいない。
先行突撃して道を切り開くコブダリオンの後方では、赤コブ戦士が叫びながら、また青コブ戦士は冷静沈着に......コブダリオンが討ち漏らした黒コブ戦士たちを倒していく!
<<<10対1だ!10対1でかかれーーーッ!!>>>
<<<馬鹿野郎ッ!この状況で、できるかそんなことッ!?>>>
<<<退避ッ!奥へ退避だッ!!>>>
禁足地を守る黒コブ戦士は、総崩れの状態だ。
皆ほうほうの体で、谷の奥へと逃げこんでいく。
その情けない姿を眺めながら、コブダリオンは一旦立ち止まって鼻を鳴らした。
<<<ふん>>>
<<<おや、コブダリオン殿。赤コブ戦士としては、やはり奇襲は気に食わないかね?>>>
そんなコブダリオンにそうやって声をかけたのは、青コブ族族長“智慧のコブダクレバ”だ。
彼は今の戦闘において、常にコブダリオンの近くに控えており、自身は戦闘を行っていない。
しかしながらそれでも、今回の戦果はこのコブダクレバの力によるところが大きいと言えるだろう。
何せ、この禁足地まで姿を隠しながら接近し、さらには警備の手薄な時間帯を狙って奇襲をしかけられたのは、全てこのコブダクレバが情報を集めて立てた作戦あってのことなのだから。
<<<奇襲は、気に食わない。だがしかし、相手は災厄を目覚めさせようとしている。四の五の言ってはいられまい>>>
コブダリオンはコブダクレバのことを振り返ることなく、油断なく谷の奥を睨みつけながら、そうつぶやいた。
(コブダローズの犠牲は、絶対に無駄にしねぇ!黒コブ族の連中は......必ずオレが、止めるッ!!)
コブダリオンの瞳に、闘志が燃える。
その闘志に連動して、彼のまとう炎がさらに大きく燃えあがった。
<<<そう言ってもらえると、助かる。何せこの奇襲は、本命の攻撃であると同時に陽動でもあるのだ。大いに暴れてくれたまえ。そうすれば黒コブ族の里の警備も手薄になり、別動隊がさらわれた子どもたちを救いやすくなる>>>
コブダクレバは静かにそう語った。
そう......青コブ族は、魚質にされている稚魚たちを、助け出さなくてはならないのだ。
故にか、この禁足地への突撃部隊はその多くを赤コブ戦士が占めており、青コブ戦士は少数だ。
<<<子どもは、宝だからな。必ず、救わねば>>>
コブダリオンは、本気でそう思っている。
故に、このコブダクレバから提案された魚員配置に異議はなく、彼は素直にこれを受け入れた。
赤コブ戦士は暴れたがりなので、稚魚救出という若干神経を使う仕事よりも、突撃作戦の方が向いているという事情も、あるのだが。
<<<......ああ、そうだ。子は、宝だ>>>
コブダクレバが瞳をぎらりと輝かせて、コブダリオンの言葉に同意した。
そして彼もまた、谷の奥を睨みつけた。
<<<この勢いに乗って、奥に向かうぞコブダリオン殿!この時間帯、黒コブ族族長“黒岩のコブダロック”は、災厄発掘現場で指揮を執っているはずだ!>>>
<<<ああ......奴をぶちのめして、バカげた真似は、終わらせる!......行くぞッ!戦士たちよッ!!>>>
<<<うおおおおおおーーーーーーッ!!!>>>
コブダリオンの号令に呼応して、コブダイたちは皆、雄たけびをあげ......再び猛烈な勢いで、谷の奥に向かって泳ぎ始めた!




