428 バケモノの乱入
<<<あああッ!?なんだテメエッ!?やんのかッコラアアアアッ!?>>>
突如として休憩地点にふってきたバケモノ。
そのバケモノにガンをつけながら、コブを振り回しつつまず飛び出していったのは、若い赤コブ戦士と、そのとりまき達だった。
<<<なッ......バカッ!さがりなさい、あんたたちッ!!>>>
コブダローズは慌ててそれを制止しようとするも、彼らは聞く耳を持たなかった。
それどころかコブダローズのことを、『臆病者め』と鼻で笑う始末だ。
彼らは、コブダローズたちがこのバケモノと戦った戦闘には、出陣していなかった。
その上彼らは血気盛んな若コブダイであり......己の実力を、過大評価するきらいがあった。
さらには自分たちを差し置いて“赤コブ十戦士”に選ばれたコブダローズに対する、幼稚な対抗心を燃やしており......。
故に彼らは、バケモノの脅威を正しく理解しておらず、そしてコブダローズの言葉に従う気など、さらさらなかったというわけだ。
それどころか、彼らの胸の中では『コブダローズが逃げ出したバケモノを自分が倒し、自分こそが“真の十戦士”になる』という、浅慮で無謀な野望が燃えていたのだ。
<<<気持ちの悪い、バケモノがああーーーッ!!>>>
<<<死ねやあああーーーッ!!>>>
だからこそ、彼らの中では目の前のバケモノは討伐対象以外の何物でもなく......。
彼らは対話一つ試みようとせずに、バケモノを取り囲み......四方八方から彼女に襲いかかった!
<<<くらえやああーーーッ!!>>>
彼らの戦闘フォーメーション、それは【水渦の陣】!
渦を巻く水の如く襲いかかり、瞬く間に敵をズタボロに斬り裂く、恐るべき連携技!
彼ら、若い赤コブ戦士たちが絶対の自信を持つ......必殺の攻撃だ!
しかし......!
「............」
相変わらず、鳴き声一つ発しないこのバケモノは。
周囲を取り囲む赤コブ戦士たちを、一瞥すらしないまま。
一本の触手を、にゅっと、肩から伸ばしたかと思うと。
<<<うおおおおおおーーーッ!!>>>
雄たけびあげる周囲の赤コブ戦士たちに向かって。
ブンッ!!!
そんな風を切る音が、遅れて聞こえるほどの速さで。
円を描くように、くるりと一回転しながら。
触手を横薙ぎに振るった。
それだけで雄たけびは途切れ、周囲には静寂が満ちた。
バケモノに襲いかかろうとしていた若コブダイたちは皆、体を上下に斬りわけられ......死んだ。
ぽとり、ぽとりと。
美しい白身を晒しながら、コブダイだったお刺身が、足元の岩盤に転がる。
<<<え......?>>>
彼ら若コブダイの中に、1匹だけ。
【水渦の陣】に、出遅れたコブダイがいた。
出遅れたが故に、彼の体は、バケモノの攻撃範囲から外れていた。
だから、運良く生き残った。
<<<え......?>>>
しかし彼は、周囲の惨状を受け止めきれず、ただ体を硬直させるだけ。
とっさに逃げ出すことができれば、彼にはまた、違う未来があったかもしれないが。
彼には、それができなかった。
直後。
ドズンッ!!
彼の肉体は、凄まじい勢いで槍のように放たれた触手に貫かれ、コブダイのたたきと化した。
その触手はバケモノの肩から上へと伸び、斜め下へと降り注ぐ形で放たれていた。
触手は若コブダイを貫き......というか、威力が強いあまりにその肉体をほぼ破裂させ吹き飛ばしてから地面の岩盤に衝突し、小さなクレーターを作った。
「............」
バケモノはその様を、首を傾げながら眺めていた。
何故かといえば、彼女の触手による刺突が、想定以上のダメージを敵に与えたからだ。
彼女は、食べるために殺す。
獲物の肉体を吹き飛ばしてしまうと、可食部分が減るので、困るのだ。
そして何故想定を超えた威力が生み出されたのかと言えば、それは急激に高まった彼女の力を、彼女自身が正しく把握できていないからだ。
「............」
バケモノは触手を追加で数本伸ばし、振り回したり地面に突き刺したりして、その具合を確かめ始めた。
<<<......全軍ッ!!全軍、前へ進めーーーッ!!>>>
さて、突如として現れたバケモノに全てのコブダイが震撼する中、一番最初に我を取り戻したのは、若き赤コブ族族長コブダリオンであった!
彼はバケモノが触手を振り回しているその隙に大声をはりあげ、全軍に指示を出す!
<<<お、おうッ!>>>
<<<バケモノとは争うなッ!戦う敵を、見誤るなッ!>>>
<<<進めッ!前へ進めーーーッ!!>>>
すると、さすがは熟練の戦士が多い赤コブ族たちだ。
すぐさま精神の恐慌を立て直し、コブダリオンの指示に従い休憩を取りやめ、前進を始める!
<<<ちッ!こんな事態は、作戦にないぞ......!?青コブ族も、赤コブ族にならえーーーッ!!>>>
青コブ族族長コブダクレバもまた気を取り直し、改めて青コブ戦士たちに賢者らしからぬ怒鳴り声をあげ、彼自身も急ぎバケモノから距離をとりはじめた。
彼らの退路は、バケモノによってふさがれている。
前に進む以外の道は、ないのだ!
<<<さて>>>
動き始めた赤青コブダイ連合軍の気配を背中に感じながら、コブダリオンはバケモノへと向かいあった。
<<<オレは......“猛炎のコブダリオン”ッ!誇り高き、赤コブ族の族長だッ!>>>
そしてそう、名乗りをあげ、【威圧】を放った!
コブダリオンの強大な魔力に耐えきれず、空気がミシミシと音を立てる!
「............」
しかしバケモノは、そんな【威圧】などどこ吹く風だ。
大音量で【念話】を飛ばすコブダリオンに視線を向けはしたものの、相変わらず無表情のまま触手を振り回しつつ、近くに散らばるコブダイ戦士たちの肉を拾いあげ、バリバリと食べている。
<<<礼儀を知らねぇ連中ではあったが......それでもうちの一族には、変わりねぇ!バケモノッ!うちの連中殺した落とし前ッ!つけてもらうぜええーーーッ!!>>>
そんなバケモノに対し、コブダリオンは全身を限界ぎりぎりまで【身体強化】し......突進をしかけようと、全力で泳ぎ始めた!
しかし!!
<<<アホかーーーッ!!>>>
そんなコブダリオンに真横から体当たりをして、その突進を食い止めた存在がいた!
<<<ゲホッ、ゲホッ......いてえッ......!?>>>
突然の不意打ちを受けて地面に転がり咳こむコブダリオン。
その視界に映ったのは、彼をバケモノからかばうような位置でたたずむ、1匹のコブダイの背中。
それは彼の、幼少期の姉貴分。
強靭な、赤コブ十戦士のうちの1匹!
“粉砕のコブダローズ”!!
<<<お前、何を......>>>
<<<それはこっちのセリフよッ!?殿は、私が務めるッ!族長は早く連合軍本隊に追いついて、指揮をとりなさいッ!!>>>
非難の声をあげるコブダリオンに対し、コブダローズは怒鳴り声で正論を吐いた!
<<<大丈夫、あんたは私が守る。だって私は......>>>
そして、続けてコブダローズはそう言って、コブダリオンのことを振り返り。
<<<あんたの“お姉ちゃん”、なんだから......ねッ!!>>>
にこりと微笑みかけてから、コブダリオンに代わって......バケモノに向かって、猛然と突進を開始した!!




