403 森の奥地の謎遺跡
さて、サメをあらかた食べ終わった私は、再びあてどなく、霧の森の中をさまよっていた。
先ほど腹に収めたサメは、どうやらこの辺りでは大分、恐れられていた存在らしい。
何故ならあのサメが死んでから、途端に目に見えて、隠れていた空を飛ぶ魚たちがその姿を現し始めたからだ。
今も私の目の前を、小さな小魚の群れが通過していった。
大樹の洞からは、ウツボのような魚がひょっこりと顔を出し。
視界の右端では、拳大のクラゲがふわふわと、数匹で踊っている。
上を見上げれば、ゆったりとそこを泳ぐ、巨大なエイのシルエット。
皆、嬉しそうだ。
隠れ家から飛び出して、楽しそうに泳いでいる。
「らあああああッ!!」
そんな空飛ぶ魚たちに、私は全力で【威圧】を放った!
私の【黒鎧】の隙間からは、ぶしゅう、と勢いよくどす黒い靄のような魔力が噴き出し、さらには周囲の空間が私の魔力圧に耐えかね、ミシミシと軋むような音を立てる!
「「「「「!?」」」」」
強烈な私の【威圧】に魚たちは耐えることができず、気を失い、次々に地上へと落下し始める。
どうやら巨大なエイだけは無事であったらしく、慌てて逃げ出そうとするので、【黒触手】を射出。
体を貫いて地面に叩きつけ、殺す。
ぐううううう......。
お腹が、鳴る。
「............」
私は時々ぴくりと痙攣する魚たちを拾いあげては口に放りこみ、ばりばりと丸かじりする。
エイは大きいので、適当にひきちぎって食べる。
毒針部分も気にせず食べる。
全部食べる。
ああ、お腹が空いた......。
他に、食べるものはないかな?
きょろきょろと、辺りを見回す。
でも、何もいない。
そこにあるのは、深く青い霧。
大樹のシルエット。
静寂の世界。
生き物は、またしても、隠れてしまった。
なんでだよ。
ああ。
ああ......!
<エミー、殺気を抑えてください。お魚が、逃げてしまいますよ?ほら、深呼吸です!>
「............」
オマケ様の言葉によって、ふと我に返る。
食欲とか殺意とか苛立ちを、心の奥底に抑えこむ。
深呼吸、深呼吸。
大きく、息を吸う。
魔力を多く含んだ、青い霧を体にとりこむ。
<......落ち着きましたか?>
............なんとか。
ありがとう、オマケ様。
<いえいえ......冷静になりたいときは、深呼吸ですよ。特にこの森の空気は、効きますから>
魔力がたっぷりだもんね。
本当に、偶然この森にたどり着けて、良かった。
息を吸うだけで魔力を補給できるというのは、食欲......その正体である魔力吸収欲求の枷が外れている今の私にとっては、途轍もないほどのメリットなんだ。
<常人が吸っていれば、半日くらいで血反吐を吐いて死ぬような空気ですけどね>
えっ、こわっ......。
じゃあさ、昔さ、桃色髪の......サラちゃんが、さ。
西の方に魚が空を飛ぶ森があって、マーツ男爵様がその森を冒険したって言ってたけどさ。
<そうでしたっけ?>
そうそう。
その森っていうのは明らかにここのことだし、その男爵様の冒険っていうのも......結構危険なものだったんだね。
長時間この空気を吸っているだけで、死んじゃうってことはさ。
<まあ、外周部分をうろちょろするくらいなら、何とかなるんじゃないですかね?霧も薄かったですし>
そうかな。
<そうですね。そしてこの森も大概広いですから、霧があるが故の時間制限のせいで、常人は森の奥深くまでは入りこめません。だからエミー、あなたはおそらく、こんな深くまで森を探索した、初めての人類ということですよ!>
おお......凄い!
人類史上、初ってこと!?
<ただ、まあ、あなたを人類としてカテゴライズして良いのかどうかについては、議論の余地が>
ないよ。
◇ ◇ ◇
さて、その後もこんな調子で。
私とオマケ様は、目につく魚を皆殺しにしながら森の中を進んでいた。
その間視界に広がるのは相変わらずの霧と、大樹のシルエットばかりだったんだけど。
それから、数日後。
「ねえ、オマケ様......」
私は偶然見つけたとある物を前にして驚き、思わず声をだした。
<こ、これは......!>
オマケ様も、驚いている。
多分オマケ様の視聴してきた動画にも、この森の奥にこんなものがあるなんてことは、描かれていなかったんだろう。
私たちが見つけたそれが、何かというと。
廃墟だ。
大分古いものらしく、ところどころ崩れたり、中から大樹が生えて天井を突き破ったりしているけど。
どう見てもそれは、人工的な建造物だった。
それは直線的で......どこか、私が生きていた頃の日本の病院を思わせるような形状をしていた。
その壁は白く、石と石の継ぎ目など、見当たらない。
<エミー!これは、超古代魔導文明の遺跡です!>
オマケ様が興奮して、叫ぶ。
<この高濃度の魔力を含む霧に守られ、風化が抑えられていたのでしょう。凄い、これは、大発見ですよ......!>
「ふむ」
私は【黒触手】に串刺しにして持ち運んでいた空飛ぶアジを貪りながら、相槌をうった。
とりあえず【気配察糸】を遺跡内部に伸ばしてみると、結構な数の魚たちを感知することができた。
ちょうど良い、身を隠せる住処になっているらしい。
よだれが湧き出る。
とりあえず......中に入ってみる?
<ぜひ、ぜひ!入りましょう、入りましょう!>
未知なる古代遺跡に心躍らせるオマケ様をなだめながら、私はかつてはガラスがはめられていたと思しき、取っ手のない玄関扉のフレームをまたいで、その中に侵入した。
◇ ◇ ◇
そしてそんな、遺跡の中に入っていくエミーの後姿をじっと見つめる、巨大な影があった。
その存在の【気配遮断】は非常に優れており、さらには深い霧が視界を遮り、注意がすっかり遺跡に向いていたこともあって......エミーはその存在に気づくことができなかった。
その存在は......彼女は。
エミーを追いかけ......ゆっくりと静かに、遺跡へと近寄り始めた。
狩りが、始まる。
実はこの森のことは、第5章の時点で言及されていました。




