398 (呪い子)その花の名前は
「む......?」
ぱちりと、まぶたを開く。
意識を覚醒させる。
すると視界に飛びこんでくるのは、薄水色の秋の空。
肌をなでるは、涼し気な風。
あと、その風に吹かれて揺れる、その辺の草。
<......あ、おはようございます、エミー。目が覚めましたか?>
「おはよう......?」
挨拶をしてくれたオマケ様に、ぼんやりした頭のまま挨拶を返す。
上半身を起こす。
えっと......あれ?
なんで私、寝ていたの?
ちらり、ちらりと周りを見回すと、地面に転がるは真っ赤な刀身。
そうだ、私は。
これを拾って......。
<ちょうどそれを拾った時に、倒れたんですよ。疲労がたまり、肉体が限界だったのでしょう。無茶のしすぎですよ、まったく......>
オマケ様がぶちぶちと、お小言を言う
あ、あはは......いつも無茶して、ごめんなさい。
<............エミー、どうでしょう、具合は悪くありませんか?>
そう言われて、私はぴょんと、立ちあがる。
肩を回し、腰を回し、足もぷらぷらさせてみる。
うん、悪くない。
単純に、疲れすぎて気絶したって、だけみたいだね。
むしろ少し寝たからか、調子も良いかも。
心なしか、空腹も若干和らいで......。
ぐううううう......。
......は、いないですね。
お腹減ってます。
「............」
とりあえず私は、足元に転がっている赤い刀身を拾いあげて、それをばりばりと食べた。
あと、その辺の草もむしゃむしゃ。
そうやって、なんとか空腹を、少しでもごまかす努力をしてから。
とりあえず私は、ついに目的を果たすことにした。
つまりは。
草原の中心にそびえたつ、石柱のもとへと歩み始めた。
◇ ◇ ◇
風が吹く。
秋になり、茶色く乾き始めた草が揺れる。
そんな中で。
私は石柱の横に、並び立った。
「............」
そこからならば、王都の大体全てを見渡せる。
王城も、灰色の美しい街並みも。
......美しいってか、色々あったせいで、街並みはちょっと崩れちゃってるけど。
とにかく、素晴らしい眺望だ。
「............」
私はごそごそと、カバンをまさぐった。
その中から出てきたのは、青い花。
ばあちゃんに置いてくるように頼まれた、青い花だ。
私が暴れまわったせいで、その......大分くたびれてはいるけど。
辛うじて、原型は留めている。
口に放りこみたい衝動をぐっとこらえながら、私はその花を石柱の横に置いた。
これで、ばあちゃんからのお願い事は完了だ。
ほっと一息ついて。
私はその場に、どさりと腰をおろした。
......そうなると、草の背が高くて邪魔なので。
【魔力斬糸】で一薙ぎし、草刈り。
見晴らしを良くしてから。
ぼーっと。
私は王都の街並みを、眺めていた。
ばあちゃんが好きだった町の、風景を。
もうこれで、見納めだしね。
......だけど。
そんな穏やかな時間も、長くは続けられない。
何故なら。
ぐううううう......。
相変わらず、お腹が空いて、いるからだ。
私は、これから。
また、いっぱいいっぱい、食べなきゃいけない。
殺して、殺して、目につくもの全部殺して。
それを延々と、腹の中に詰めこむ。
そんな毎日が、また始まるのだ。
当然、もう人里には近寄れない。
多分もう、今の私には、人間はただのお肉にしか見えないと思う。
そんなバケモノが人間の世界に、入りこんだら。
悲劇しか、生まれないから。
だから......本当はばあちゃんのご遺体も、弔ってあげたいんだけど、それは、できない。
もう、私があのお店に、帰ることはできない。
多分、ばあちゃんのこと、私。
食べちゃう。
それは、嫌だから。
......うん、きっと、大丈夫。
ばあちゃんのお店、花屋としてのお客さんは少なかったけど。
なんだかんだで、人は良く来ていたから。
きっとすぐに、ばあちゃんのことも、見つけてもらえるだろう。
うん。
......ばあちゃん、ごめんなさい。
「ふう......」
私は息を一つ吐いて、静かに立ちあがった。
さて、どこかに、行こう。
人のいない、どこかに、行かなくちゃ。
「............」
だけど、その前に。
ふと、考える。
石柱の横に置いた、青い花を見つめる。
それにしても、この花。
ばあちゃんが置いてくるように言った、この青い花は。
結局、一体、なんて花なんだろう?
<あ、そう言えば、伝えていませんでしたね>
そんな私の疑問にオマケ様が、のんびりとした声で、答えてくれた。
<これはですね、前もお伝えした通りカタログ植物でして......>
ああ、そんなこと、言ってたね。
名前も花言葉も、私の前世のそれと、同じなんだっけ?
<そうです。咲く時期については、あの花畑は季節感がでたらめでしたので、気にしないことにして、ええと、こほん......とにかく、この花の、名前はですね>
オマケ様はあれこれ言った後、いつものように優しい声で、静かに私に教えてくれた。
<ワスレナグサ......勿忘草、と言います>
長らく続きました第17章ですが、次話で最後です。
何故なら......話数的に、きりが良いからだな!
本当は、もう少し閑話があったんだけど、後に回します。




