395 食らえ無道の大悪霊!1
予告した通り、ようやくエピローグです......って、だと言うのに何ですか、この物騒なタイトルは!?
雲一つない、薄水色の秋の空。
その秋の空、涼やかな空気をすいすいとかきわけのびやかに飛ぶのは、ティギ虫だ。
トンボに良く似た6枚羽のこの生物は、日に照らされ明るくなりはじめた王都の街並みを眼下におさめつつ、羽をきらきらと輝かせながら楽し気に宙を舞っていた。
思うがまま、自由に、自由に......。
だがしかし、そんなティギ虫の生命は、次の瞬間唐突に失われた。
地上から突然、得体の知れぬどす黒い何かが伸び来たり、彼の体に巻きついたのだ!
その何かの力は強く、彼の柔らかな外骨格は何ら防御の役目を果たさず......彼は羽をばたつかせ抵抗を試みる間もなく、わけもわからず死んだ。
一体これは、いかなるバケモノの仕業か!?
ティギ虫を好んで捕食する、カエル?
それとも陸上生活に適応した、イソギンチャク?
恐ろしいが、その正体を確かめてみよう。
視線を、地上へと向ける。
すると、そこにいたのは、一体の生き物だ。
この生き物、まず目につくのが、体の天辺から伸びる黒い体毛。
朝日を浴びてそれが、つやつやと輝いている。
しかしこの生き物、体毛を持つ動物としてはやや珍しく、それが伸びるのは頭部のみ
頭部以外は白く美しい肌で覆われている。
そして二つ煌めくその瞳の色は、黒。
体は少しくたびれてしまった布で覆われ、そこから二本ずつ手足が伸びている。
先ほどティギ虫を絶命させたどす黒い何かは触手であり、それが肩のあたりから数対、伸びている......。
ええい、もうやめよう。
要は、エミーだ。
「............」
エミーは捕まえたティギ虫を口に放り入れ、もごもごと咀嚼しながら、ふらふらと斜面を登る。
ぐううううう......。
また、腹が鳴った。
「............」
エミーはきょろきょろと、あたりを見回した。
周囲に広がる森の木々はその多くが折れ曲がり、倒れ、無残な有様だ。
地面からはところどころ黒煙が漏れ出しており、時折小さな爆発すら起こっている。
先ほどの迂闊なティギ虫のような、生き物はいない。
そう、彼女が今登っているのは、ミハビュシラの丘。
先ほどエミーが無理やり引きずり堕とした、空中要塞上部に乗っかっていた、王都郊外の丘。
恩人であるヌムブリばあちゃんとの......約束の場所。
「............」
エミーは歩きながら足元に転がっていた木の枝を蹴りあげ、それを掴み取ると、ぼりぼりとかみ砕いた。
途轍もない、疲労感。
体が重い。
そしてずっとずっと続く、地獄のような空腹感。
気を失ってしまいそうだ。
それでも。
それでも、エミーは丘を登る。
◇ ◇ ◇
さて。
ふらつく足取りで何とか荒れ果てた森を抜けると、そこにあったのは秋空の下輝く、見晴らしの良い草原だった。
その中央には、大きな石柱のような何かが屹立している。
今思えば、この柱はおそらく、『ソウルコンクラー』の機構の一部であったのだろうが......そんなことはどうでも良い。
とにかく。
着いた。
深夜にヌムブリばあちゃんとお別れしてから。
邪魔な連中を根こそぎなぎ倒していたら、ずいぶんと遅くなってしまったが。
とにかく、たどり着いたのだ。
約束の場所に。
「............」
エミーは相変わらずふらつきながら草をかき分け、石柱らしきものに向かってゆっくりと進み始めた。
すると、その時だ。
こつん、と。
エミーの足の指先に、何か硬いものが触れる感触があった。
「............?」
ふとそちらに視線を向けると。
そこに転がっていたのは。
血のように赤い色をした......謎の金属だった。
薄く、そして長い。
つまり、これは。
折れてしまったのか、柄の部分はついていないが。
何かの剣の、刀身だ。
「............」
もしも、エミーのコンディションが万全であれば、彼女はこの刀身に対する既視感に気づいたことだろう。
しかし、そうではなかった。
彼女は現在、限界ぎりぎりの状態で動いている。
集中力が、ほとんどないような状態だ。
だから、彼女はついつい。
その赤い刀身に、手を触れてしまった。
拾いあげてしまった。
何故かと言えば。
その刀身から......お酒のような。
とても、良い香りがしたから。
すると。
次の瞬間。
<イヒヒヒヒヒヒーーーーーーッ!!>
凄まじく不快な、聞き覚えのある笑い声が......エミーの脳内に響きわたった!




