387 堕とせ古代の空中要塞!10
「らあああああーーーーーーッ!!!」
絞る。
振り絞る。
必死に!
慣れない【黒翼】、はためかせ。
読めない風など、無視をして。
鎧の背中の辺りに作ったノズルから強引に魔力を噴出させて、滑空する!
<......!!右にずれて、エミー!!>
オマケ様の言葉に従って、体を傾ける。
少しだけ、右へと揺れる。
ド、ド、ドオン!!
少し遅れて聞こえる砲撃音。
ちょっと前に私のいた場所に撃ちこまれ、そのまま地上へと落ちていく砲弾。
その砲弾のために、空気が動いて。
進路がぶれる。
ブシュッ!
ブシュウッ!!
振り絞る。
振り絞る。
魔力を、振り絞る!
ジェット噴射で、無理やりに、軌道修正!
<今度は左です、エミー!!>
ド、ドオン!!
砲撃は、止まらない。
またしても、間一髪避ける。
ブシュウッ!!
背中から、どす黒い魔力をまき散らす。
ぐぎゅぎゅぎゅるるるるるるッ!!
腹が鳴る。
まるで、悲鳴だ。
もう、限界なんだ。
だけど。
きっと、前を睨みつける。
赤々と光り輝く、巨大な光球。
この、わけのわからぬ鋼鉄クラゲの、動力源はすぐそこだ。
もう少し飛べば、たどり着ける。
まぶしい。
まぶしい。
赤い光がまぶしくて、鬱陶しい。
もう、お日様も顔を出し始めた。
太陽は、二つもいらないぞ。
だから。
ぐぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅッ!!
ああ......。
お腹が、空いた......。
ブシュッ!!
ブシュ、ブシュ......。
プスン。
もう、絞りきった。
燃料ぎれ。
これ以上、魔力は、出せない......。
<あ!!エミー、避け......>
最後に聞こえたのは、そんなオマケ様の慌て声。
ドオン!!
そして、砲撃音。
その後すぐに、背中に熱と衝撃を感じて。
意識が、暗転した。
◇ ◇ ◇
エミーは、もう限界だったのだ。
【黒翼】による、滑空。
その行動は大いにメグザムとエンジィを慌てさせたものの、悪あがきであったと言って良い。
何しろ、彼女はこの【黒翼】、一度しか使ったことがない。
ぶっつけ本番も良い所だ。
しかも、魔力乏しい現状だ。
彼女は。
ついには『ソウルコンクラー』から放たれる砲撃に命中し、墜落した。
その結末を、誰が責められようか。
とにかく、呪い子は、地に墜ちた。
邪悪は高笑いし、さらに高度を上げる。
高く、高く、日の光に先んじて。
傲慢に、頂へと昇る。
◇ ◇ ◇
「............ぐ」
砲撃が、背中に直撃し。
大空から、真っ逆さまに地上へと叩きつけられても。
エミーは、生きていた。
だけどもう、ぼろぼろだ。
鎧を作り出す余力もない。
<エミー!エミー!大丈夫ですか!?>
オマケ様の泣きそうな声を、ぼんやりと聞く。
彼女の視界に広がるのは、三色に染まった、雲一つ無い朝の空。
ベースは、まだ少し薄暗い、水色。
その東の端には、太陽の白色。
目障りなのが、未だ爛々と輝く、鋼鉄クラゲの赤色。
ぐぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅ!!
「あ、ああ......」
それにしても酷い、空腹感。
エミーは、石畳に仰向けにめりこんでいた体を何とか起こし、周りを見回す。
どうやらここは、大通り。
だけど周囲に、人影は無い。
無くて良かった。
もし何かいたら、今のエミーはきっと。
物理的にも、心理的にも、容易く。
それを引きちぎって、腹に収めただろうから。
「ぐ......」
とにかく。
何でも良い。
とにかく、何か食べなくてはいけない。
エミーは辺りの石畳に指を突き刺し、抉り取り、それを口に運んだ。
ぼり、ぼり、ぼり。
食べる。
食べる。
何でも良い。
食べる。
削る。
削る。
世界を削る。
世界を削って、命を繋ぐ。
ぼり、ぼり、ぼり。
ぼり、ぼり、ぼり......。
四つん這いになり、一心不乱に石畳を貪る。
東から顔をのぞかせる太陽が、そんな彼女の影を長く伸ばす。
伸ばして、伸ばして、伸ばしたその先に。
何か、黒くて大きな塊があった。
「あ、あう......あ......」
それに気づいたエミーは、必死に這いずって、そこまで移動した。
朝日に艶々と、その甲殻を艶めかせる、それは。
腹を裂かれて死んだ、戦士の亡骸だ。
ばき。
常軌を逸した膂力を発揮し、石畳よりも固いその甲殻を、無理やり砕く。
そして、口に含む。
丸のみする。
「!!」
すると腹の中で広がるのは、濃密な、凝縮された、魔力だ。
優秀な。
優秀な、戦士だったのだろう。
「あ......はぐ、はぐ......!!」
エミーはデストロイブンブンの亡骸を、必死に、一心不乱に貪った。
◇ ◇ ◇
その戦士の亡骸を、余すことなく取りこみ。
ようやく、エミーは立ちあがった。
未だ、空腹は治まらぬ。
治まるはずがない。
しかし、どうにか立ちあがり、思考する。
それだけの、活力が生まれた。
「オマケ様......」
エミーは、ぽつりとつぶやいた。
「私......負けちゃった......」
<エミー......>
見上げるは、邪悪。
空に浮かぶ鋼鉄クラゲ。
もはや、大地に接続していた、その触手の如き魔導ケーブルは巻きとられ。
たどり着く術は無い。
「負けた......」
ぼんやりと、そのクラゲを見つめる。
動力源の光球は、未だにぴかぴか赤い光。
ぴかぴか、ぴかぴか。
その健在を、エミーに見せつける。
それを、見ていると。
エミーの心の中に、沸々と。
......怒りやら悔しさやら、そういったものが、沸きあがってきた。
「............ちッ!!」
一つ舌打ちをして、石畳を抉る。
そうして作り出した礫を、今では豆のように小さくなった鋼鉄クラゲへと、苛立ちを乗せて投げつける。
礫はまっすぐ、まっすぐに飛び。
おそらく、鋼鉄クラゲの動力源へと命中した。
しかし、何も変化無し。
ただの石礫では、傷一つ付かない。
<と、届くんですね、あれ......>
オマケ様はその事実に若干引きつつも、言葉を続けた。
<しかし、所詮はただの、石礫......あの空中要塞を傷つけるためには、硬さが足りません......>
「............」
そんなオマケ様の言葉を聞きながら。
エミーは鋼鉄クラゲを見上げつつ......悔しさのあまり歯ぎしりを鳴らした。
しかし。
「......硬さ?」
エミー、ふと気づく。
「なら、凄く硬いものをぶつければ......あれも、壊れる?」
<いや、それはそうかもしれませんが......ありませんよ、そんな硬いものなんて。おそらくあの空中要塞は、超古代魔導文明の遺物です。その装甲を傷つけられるほどの、投擲武器なんて......>
オマケ様の言葉を聞き流しながら、エミーは辛うじてその形を留めていた自分のカバンをまさぐった。
その中に入っているのは、青い花。
しかし......それだけでは、ない。
かつて海で、彼女の大きな舎弟、ザラトプと別れる時。
彼からもらった、贈り物。
それを、エミーは。
肌身離さず、持っていたのだ。
<あ......!!>
エミーがカバンから取り出したそれを見て、オマケ様は思わず声をあげた。
東の空からまっすぐ差しこむ朝日。
それを浴びて美しく輝く、その白き宝玉。
エミーですら砕けない程硬い、拳大の球。
その、名前を。
......“神珠”、という。
【神珠】
第16章にて登場。
かつてアーシュゴーという国をおかしくしてしまった、元凶である。
しかし今は、ただの宝玉へと、成り下がっているが......。
今、ここで、大切なことは。
それが、もの凄く、硬いということだ。




