386 堕とせ古代の空中要塞!9
ドオン、ドオン!!
ド、ド、ド、ドオン、ドオン!!
『ソウルコンクラー』から魔導ケーブル上に向かって絶え間なく砲撃が加えられ、爆発が生じる。
避ける隙間すら見当たらぬこの攻撃、当然その場にいたものは破壊され。
その視界は......真っ暗な闇に覆われた。
◇ ◇ ◇
「うわああああーーーッ!?おい、エンジィ、何しやがるううッ!?オレのゴリラドラゴンが、ぶっ壊れちまったじゃねぇかああーーーッ!!」
その、真っ暗な闇に覆われた、視界。
即ち、機能を果たせぬほど破壊されたゴリラドラゴン内蔵カメラから送られる映像を映し出したディスプレイを睨みつけながら、メグザムは怒声をあげた!
両手で握りしめていたコントローラーを床に叩きつけ、だんだんと足を踏み鳴らす!
<イ、イヒヒッ!なーに言ってやがるぅッ!あれは、もともと、オレ様のものだってぇーのおおッ!壊すも活かすもオレ様が決めるううッ!!>
「もうちょっとであのガキ、殺せたって言うのにッ!!」
<イヒヒヒヒーーーッ!それこそ何言ってやがるッ!テメエの操作が下手くそなせいで、どう見たって、負けてただろうがよおおおおおーーーッ!!>
「んだとコラアアアアーーーッ!?」
『ソウルコンクラー』下部に設置された観測カメラから送られてくる、爆発後の煙にまみれた魔導ケーブルの映像を横目に、メグザムはエンジィに文句を言った。
<イヒヒ......まあ、落ち着け相棒......とにかくこれでよぉ、あの目障りな呪い子も、おしまいよぉ!良いじゃねぇか、それで!苦労したんだぜぇ?魔導ケーブルは傷つけず、それでいて最大の効果を発揮するように、オレ様すげぇ頑張って、砲撃の威力調整、やってたんだからよぉ!>
しかしエンジィは、そんな文句などどこ吹く風だ。
飄々と己の苦労を語り、欲求不満なメグザムの心情など、慮ることはない。
「......ん?威力調整?つまり、砲撃の威力......下げてんのか?」
<あったりまえだろぉ!?本気でばかすか撃ちこんだら、魔導ケーブルが千切れちまうッ!それじゃだめだって、さっきも言ったろうがよおおッ!?>
「............」
ここでメグザムは、嫌な予感がした。
冷や汗が、たらりと額を流れ落ちる。
口喧嘩をやめて、じっと前方壁面の巨大ディスプレイを見つめる。
もはや砲撃は止み、そこに映し出されているのは、赤く照らされる白煙。
その煙が、次第に風に吹かれ、流されていき。
最後に残ったのは、魔導ケーブル。
それと......。
こんもりと、一か所にかたまり岩のようになっている、ゴリラドラゴンの残骸。
その様を見て、ふとメグザムの脳裏によぎったのは、幼い頃の情景だ。
食い物を探して小川の底の石をひっくり返した時、その石の裏に、ちょうどあんな感じで小石がはりつき、小さな小さな小山を形成していた。
それを壊してみれば、その中から出てきたのは、名前も知らぬ虫だった。
それは、ある種のトビケラの、幼虫の巣であったわけだが......。
さて、現在ディスプレイに映し出されている、残骸で作られた小山に意識を戻そう。
それでは、あの小山、何が作ったのか。
中に、何が潜んでいるのか。
そんなの。
そんなの!
そんなのッ!!
......考える、までもないッ!!!
「おいいいいいーーーッ!!エンジィ、まだ撃て、撃て、撃てええええーーーッ!!」
メグザムが血相を変えて、そう絶叫したのと!
魔導ケーブル上の残骸でできた小山が内側から吹き飛ばされ破壊されたのは、ほぼ同時のことだった!
残骸の小山から出てきて、魔導ケーブル上を再度、猛烈な勢いで駆け出し始めたのは!
もちろん、黒髪黒目の少女!
旅人、エミー・ルーン!!
<イ、イヒーーーーーーッ!?>
ドオン!!
ド、ド、ド、ド、ド、ドオン!!
悲鳴をあげながら、エンジィは連続砲撃を再開するも、当たらない!
砲弾が、エミー・ルーンに当たらない!
動きがすばしっこすぎて、当たらないのだ!
<ヒ、ヒイイイイイーーーッ!?なんでなんでなんでえええええーーーッ!?>
エンジィは、みるみるうちに『ソウルコンクラー』との距離をつめてくるこの呪い子に、もはやパニック状態である!
(ちぃッ!『検索』ッ!!)
今のこの悪霊は、全く頼りにならない。
生存本能でそう見切りをつけたメグザムは、『ソウルコンクラー』の操作補助システムに思考を接続した。
そして、探る......探る。
事態を打開する一手を、探る。
「お」
そして......見つけた。
だからメグザムは、すっかり汗で濡れた額をごしごしとぬぐい、にやりと邪悪な笑みを浮かべ。
砲撃に集中しているエンジィに気づかれぬうちに......こっそりと、『ソウルコンクラー』の操作を開始した!
◇ ◇ ◇
<こ、この調子です!もうすぐですよ!頑張ってください、エミー!!>
魔導ケーブル上を猛烈な勢いで風をきって走る少女エミーの脳内に、相棒オマケ様の快哉が響く。
ふと視界に入った地平線からは、輝く白球が顔を出し始めた。
太陽だ!
美しい輝きが眼下、長く続いた破壊の夜を耐え忍んだ王都の街並みを、明るく照らし始める!
ド、ド、ドオン!!
相変わらず砲撃の雨は降り続いているが、焦りが感じとれるその狙いは全く正確ではなく、もはや当たる気がしない!
そして、真っ赤に輝く動力源は、すぐそこだ!
いける。
この、鋼鉄クラゲ。
堕とせる!
......エミーがそう確信した、その時だった!
ガチャンッ!
ガゴン、ガガガ、ガチャンッ!!
『ソウルコンクラー』下部壁面から、そんな音が響く!
「!!」
思わず驚き、音がした方向に目をやると、そこにあったのは......またしても、超巨大な......大鉈だ!
城ですら一刀両断できてしまいそうな、あまりにも巨大な大鉈が......その刀身についた土くれをぱらぱらと地上にふるい落としながら、宙を揺れている!
その大鉈がくっついているのは『ソウルコンクラー』下部壁面から伸びる、鋼鉄で作られた“腕”である。
どうやらその腕は、かなり自由自在に動かせるらしい。
ぶんぶんと、先ほどのゴリラドラゴンの時と似たような仕草で、大鉈は動きを確かめるかのように、何度か宙を斬った。
<<<イヒヒーーーッ!?おいこら、何を勝手にいいッ!?>>>
『ソウルコンクラー』から響く声は、その様を見て何故か慌てふためいているが。
何度かの素振りの後、大鉈は。
まっすぐ、エミーに向かって......もの凄い勢いで、振りおろされた!
......わけでは、なかった!!
「な!?」
<<<ああああああーーーッ!?やりやがったな、テメエエエエーーーッ!!>>>
その大鉈が狙ったのは......エミーではなく、彼女が足場として使ってきた魔導ケーブルだ!
自分が狙われていると考え、足を止め拳を構え身構えていたエミーは、離れた位置の魔導ケーブルに対する攻撃に、全く対処できない!
ズパアンッ!!
魔導ケーブルはその一閃によって、あっけなく、すっぱりと切れた。
真っ赤な光を溢れさせるその断面は、まるで植物の茎の内部を思わせる形状だ。
「ぬ、ぐ、ああああああーーーッ!?」
そして足場を失ったエミーは、真っ逆さまに地上へと、落下していく......。
◇ ◇ ◇
「イ、イヒヒはは、はははーーーッ!やった!やってやったぜええーーーッ!!」
その様をディスプレイで眺めながら、メグザムは思わず立ちあがり、両手をあげて大喜びした!
<おいおいおいッ!オレ様、言ったよなッ!?魔導ケーブルは斬るなってええーーーッ!?>
そんなメグザムに対し、エンジィは泣き声で抗議をしてくる。
しかしメグザムは、そんな抗議など、意に介さない。
鼻で笑い飛ばした。
「......ふん、しゃあねぇだろ。あのままだと、あのバケモノはここまでたどり着いていた。必要な犠牲だ」
<ぬうう......!>
確かにそれは、その通りなので、エンジィは言い返せなかった。
エンジィは、唸った。
「テメエがちゃんと、あれを撃ち殺せていれば、こんなことにはならなかったんだ。テメエが悪い。だろ?」
<ぬうう......!!>
言い返せない!
悔しい!
エンジィは、唸った!
「ケーブル一本で、本体が守られるんだ。なら良いだろ?多少不便になるのは、しょうがねぇ。初めから、こうすれば良かったんだ。判断が遅ぇんだ、テメエはよぉ」
<ぬうう......!!!>
悔しい、悔しい、悔しい!!
この、超天才である自分が!!
こんな、汚ぇ恰好の粗野で乱暴な原始人に、言いくるめられている!!
屈辱!!
屈辱、屈辱、屈辱!!
「魔法使いでもなけりゃ、人間は空を飛べねぇ。そしてあれは、妙な技を使うが、おそらく魔法使いではねぇ。一度も、魔法を使ってこなかったからなぁ。なら、足場を無くしてやりゃあ良い。ガキにもわかる、理屈だな」
<と、飛べるかもッ!!飛べるかも、しれねぇだろおおおおおーーーッ!?>
にやにや笑いながら淡々と、それでいてねちねちと遠回しにエンジィのことをバカにし続けるメグザム。
そのメグザムに対し、エンジィは悔しさのあまり、子どもじみたその場しのぎの反論を、行った!
「イヒヒはははッ!おう、そりゃ、大変だ!......本当に奴が空を、飛べたらなぁ?どれ、確認してみるかぁ?」
へらへらと笑いながら、メグザムは勝ち誇ってディスプレイを操作した。
そこに大きく表示されるのは、『ソウルコンクラー』下部壁面に設置された、カメラの映像。
眼下に広がる街並みを映し出した映像だ。
そこには当然、エミーはいない。
<ぬうううううーーーッ!!!>
「イヒヒははははーーーッ!!!」
その画面を見て、エンジィは叫ぶように唸り、メグザムは大笑いした!
しかし、その時だ。
......すっ、と。
画面を、黒い何かが横切った。
「<......ん?>」
メグザムとエンジィは、何やら嫌な予感を覚え、くだらない口喧嘩をやめる。
すっ。
また、横切った。
<カメラ、追えッ!あれを、追えッ!!>
エンジィの操作により、下部壁面カメラは追尾モードに変更された。
そしてそれは、画面を横切る黒い何かを追跡し、その姿を捉える。
そこに、はっきりと、映し出されていたのは。
両肩のあたりから、どす黒く大きな、竜のような翼を展開し!
さらに時折、どす黒い魔力ジェット噴射を噴き出すことで推進力を生みだしながら、ふらふらと宙を飛ぶ!
......黒髪黒目の呪い子、旅人エミー・ルーンの姿であった!!
「<いや、マジで飛べんのかよおおおおおーーーーーーッ!?>」
メグザムとエンジィは、声をそろえて悲鳴をあげた!!




