385 堕とせ古代の空中要塞!8
ズギャアアンッ!!
鋼鉄の森賢人ゴリラドラゴンが振りおろした赤く照らされる白銀の大鉈と、エミーが振りあげたどす黒い【黒腕】がぶつかりあい、衝撃波と共に奇妙な衝突音が広がる!
「......!」
その、感覚。
大鉈と【黒腕】をぶつけ合ったその感覚に、エミーは違和感を覚えた。
故に。
「らッ......やッ!!」
続けて横なぎに振るわれたもう一つの大鉈については、彼女はそれを受け止めようとはせずに、その場で軽く跳びあがってその一閃を回避。
そのまま、た、た、たんと後退し、巨大な大鉈の攻撃範囲から逃れた。
そうしてから、エミーは先ほど大鉈を受け止めた【黒腕】の様子を確認し、その表情は動かさずとも少なからず動揺した。
なんと、【黒腕】が。
これまで、数々の敵対者を無慈悲に叩き潰してきた、彼女の巨大な拳が。
大鉈を、一度は受け止められたものの。
おおよそその拳半ばまで切断され......無残な傷跡を晒しているではないか。
<あの大鉈、魔力をまとっています。いわば、あなたの【蟷螂】と同じです......!>
即座に共有されるオマケ様の分析を聞き、エミーは危機感を強めた。
【黒腕】は魔力で構成された、何かだ。
斬り刻まれようと痛みはないし、魔力を消費するが何度でも修復できる。
しかし、問題はそこではない。
あのゴリラドラゴンの大鉈は、【黒腕】の防御を貫く。
それはつまり、エミーがまとうどす黒い鎧の防御をも、貫くということだ。
エミーの額に、冷や汗が流れる!
一瞬の、逡巡......!
「【ドラゴンファイアブレス】!!ウオオーーーッ!!」
「!!」
しかしその逡巡が、ゴリラドラゴンに次なる先手を打つことを、許してしまった!
ゴリラドラゴンが電子雄たけびをあげると、その頭部から筒状の構造物が飛び出して、そこから猛烈な火炎放射が放たれた!
「ちぃッ!!」
舌打ちしながらエミーがとった行動は、魔導ケーブルの裏側への回避だ。
エミーは師匠より授かった技術、【紙魚】の力により、重力を無視して壁や天井を歩くことができる。
彼女は魔導ケーブル裏側へと逃げこみ、上下逆さまの状態でゴリラドラゴンの足元まで接近し、奇襲をしかけるつもりなのだ。
しかし......!
「ウオオオオオーーーッ!!」
ここでゴリラドラゴンが、エミーの予想していなかった挙動をとった。
なんと、ぐるんと音を立てて、魔導ケーブルを軸に半回転!
自らも上下逆さまの状態になって、エミーを追いかけてきたのだ!
「【ドラゴンストーム】!!」
そしてそう叫ぶと、竜の羽を模した背面から伸びる機構に、巨大な扇風機を出現させる!
そこから発生するのは、当然強烈な突風だ!
「ぐ、ぬぅッ!?」
完全に不意を突いた突風攻撃に、エミーは耐えきることができない。
小さく軽い彼女の体は、突風によって魔導ケーブルから引きはがされ、宙へと投げ出された!
「う、らあああああッ!!」
もちろん、エミーはそのまま地上へと真っ逆さまに落ちていくような、間抜けは晒さない。
彼女はすぐさま【黒腕】を伸ばして魔導ケーブルを握りしめる。
そしてそのままぐるりと勢いよく、空中ブランコの如く体を回転させて、魔導ケーブル上側面へと復帰を果たした!
が、しかし!
「【ゴリラマシンガン】!!ウオオーーーッ!!」
当然ゴリラドラゴンも、一足早くケーブル上側面へと戻っていた!
そしてゴリラドラゴンはエミーの着地の隙をつき、胸部に備え付けられた機関銃を露出して、一斉射撃を開始したのだ!
そのマシンガンのどこに、ゴリラ要素があるんだ!?
「ぐ、ぐ!?」
ババババババッ!!
おそらく鋼鉄の壁すらも、削り取ってしまいそうなほどの威力の、横殴りの銃弾の雨!
さすがのエミーもそれを生身で受けようとは思えず、己の前方に【黒腕】の拳を設置して盾を作り、防御に徹した!
「【ゴリラミサイル】!!ウオオーーーッ!!」
しかし、攻撃の雨は止むどころか、ますます酷くなるばかりだ。
身動きのとれないエミーに対して、ゴリラドラゴンは銃弾を撃ち続けながら両肩のハッチを展開すると、今度は超小型のミサイルを射出した!
そのミサイルのどこに、ゴリラ要素があるんだ!?
「ああああああーーーッ!!」
ドゴン、ド、ド、ドゴオンッ!!
計四本のミサイルは狙い過たずエミーの【黒腕】の盾に着弾し、爆発!
周囲に爆炎が広がる!
この高威力の連続射撃を受け、エミーは......ミサイル着弾前の絶叫を最後に、沈黙した。
数秒間の、後。
未だミサイル爆発の余波で煙と熱が漂い、視界が悪い中ではあるが。
エミーが動き出さず、沈黙を続けている状況から、ゴリラドラゴンは......メグザムは、確信した。
勝った、と。
「ウオオオオオーーーーーーッ!!」
ドン、ドン、ドン、ドン!
そしてゴリラドラゴンは強敵を葬った喜びを、大鉈を握ったままではあるが、ドラミングで表現した!
ゴリラドラゴンは、ゴリラにして、ドラゴン!
しかも、鋼鉄!
つまり、強いのだ!!
小さな黒虫になど、決して負けは、しないのだ!!
だが、しかし。
この時のメグザムは、力に酔っていた。
ゴリラドラゴンという恐ろしく強い兵器の力を、まるで己の力であるかのように誤認し。
増長し、傲慢になり。
危機感が......薄れていたと、言えよう。
エミーという存在に対する恐怖を、良く知っていたはずなのに。
それを、忘れていた。
いや、その恐怖に蓋をするため、忘れようとしていたとも、言えるかもしれない。
しかし、それは。
その、油断は。
致命的な......隙となった!!
「らあああああーーーーーーッ!!」
次の瞬間、爆発の結果生じた煙をつきぬけて......真っ黒い人影が、猛烈な勢いで飛びだした!
もちろん、それは、エミーだ!
体のあちこちに焼け焦げを残しながらも、彼女は未だに健在だった!
【黒腕】の盾は......確かにミサイルすらも、防ぎきったのだ!
「ウオオオオオーーーッ!?」
慌てて大鉈を振りかぶり、エミーを両断しようとするゴリラドラゴンだが、遅い!
「あああッ!!」
その前に懐へと潜りこんだエミーは、ゴリラドラゴンの胸部を思いきり殴りつける!
ギャリギャリギャリッ!
殴られた胸部装甲をへこませながら、その衝撃でゴリラドラゴンは数十メートル後退する!
「らあッ!!」
しかしエミーの攻撃は、それだけでは終わらない!
後退したゴリラドラゴンに対し、魔導ケーブルを蹴って一足で跳ねとび、近づき!
さらにもう一発!
今度は腹部を、思いきり殴りつける!
ギャリギャリギャリッ!
その衝撃でさらに後退するゴリラドラゴン!
「らあああああッ!!」
そしてエミーは、殴られ後ろに滑っていくゴリラドラゴンを、ごく至近距離で追走!
今度は間髪入れずに上へと跳ねとんで、ゴリラドラゴンの顔面を殴りつけた!
「ウオオオオオーーーッ!?」
ゴリラドラゴンの電子悲鳴が響きわたる!
エミーはこの時、既に覚悟を決めていた。
確かに彼女は先ほど、大鉈を恐れた。
己を殺しうる大鉈を恐れ、一瞬の逡巡があった。
距離をとって戦えないかという思いもあった。
だがしかし、このゴリラドラゴン、どう考えても遠距離戦をするには分が悪いのだ。
で、あるならば。
近づく。
至近距離での、接近戦を挑むしかない!
大鉈が怖い?
斬られたら、死ぬ?
当たり前だ!
人は、斬られたら死ぬのだ!
そして、斬られたら死ぬなら......。
斬られなければ、良いのだ!!
「ウオオオオオーーーッ!!」
接近するエミーに対し、ゴリラドラゴンが大鉈を横なぎに振り抜く!
「らあああああーーーッ!!」
しかしエミーはそれを、ぴょんと跳ねとんで回避し、その勢いのままゴリラドラゴンを殴りつける!
「ウ、ウオオオオオーーーッ!!」
次は、縦だ!
接近するエミーに対し、ゴリラドラゴンが大鉈を縦に振りおろす!
「らあああああーーーッ!!」
しかしエミーはそれを、今度は走行進路を変えて【紙魚】を使って魔導ケーブル横側面を走ることで回避し、その勢いのまま駆け寄って、ゴリラドラゴンを殴りつける!
「ウオッ!!ウオッ!!ウオオーーーッ!!」
すると、もはや、やけくそだ!
ゴリラドラゴンはエミーが近くに来れないように、大鉈をやたらめったら、滅茶苦茶に振り回す!
「らあッ!!らあッ!!らああーーーッ!!」
しかしエミーは時に跳ね、時に屈みながら、ことごとくその全ての斬撃を回避し、ゴリラドラゴンを殴り続けるのだ!
「ウ、ウオ、ザウオ、オザザ......」
そんなことを続けるうちに、次第にゴリラドラゴンの動きの、精彩が欠け始めた。
その電子音声にはノイズが混じり、大鉈を振るう速度も落ちている。
そして殴るたびにゴリラドラゴンは後退し、エミーは先へと進んでいるので、気づけば彼女は相当に高所まで、魔導ケーブルを登りつめていた。
目的である、巨大な赤い球体......即ち空中要塞『ソウルコンクラー』の動力源は、もはや目と鼻の先で輝いている。
あれを、殴り壊す。
それで......終いだ!
エミーはそう決意を新たにしながら、さらにゴリラドラゴンのことを殴りつけようとした。
しかし、ちょうどその時だった!
<<<イヒヒヒヒヒヒーーーッ!!>>>
『ソウルコンクラー』からまたしても、先ほども聞いた不快で甲高い笑い声が響きわたり。
その、機体の下部から、にょきにょきと。
いくつもの砲身が、伸び始めたのは!
<<<ようやくオレ様も、準備が整ったぜえええええーーーッ!!>>>
『ソウルコンクラー』から響くその声は、勝ち誇ったかのように、そう叫んだ。
すると、まっすぐ地面に向かって伸びていたいくつもの砲身が一斉に、エミーの方を向いたではないか!
<<<さあッ!このクソガキイイイイイッ!!死ね、死ね、死ねやッ、死にやがれえええええーーーッ!!!>>>
そして、そのセリフが終わった、次の瞬間!
ドオン!!
ド、ド、ドオン!!
そんな轟音を、響かせながら!
『ソウルコンクラー』から放たれる、エミーに対する一斉砲撃が、始まった!!




