341 蹴散らせ湧き出る魔王軍!3
「はあああああッ!見よ、この角に高まる雷の力をッ!オレは、この身の内に雷を操る黄竜の因子を宿し、第5形態へと変じている今、その力を十全に扱うことができるッ!つまり......!」
バチ、バチンッ!
デオガンダイの二本の角から、強烈な電流が迸り、周囲に走る!
エミーはかつて戦った、白い雷を操る黄金熊の脅威を思い出し、デオガンダイに最大限の注意を向けた。
だが、しかし!
「三、五、二、十二、七ッ!!」
そんなエミーの様を見てにやりとほくそ笑んだデオガンダイが放ったのは、雷撃ではなく号令であった!
意味のわからぬ、数字の羅列!
その意図を図りかね、エミーに一瞬の隙が生じる。
その、隙を狙って。
「アオンッ!!」
「!!」
死角から、暗黒魔狼が捨て身で突撃をする!
大きく口を開け、エミーを噛み殺さんと迫るその顔面を、エミーは人智を超えた反応速度で振り返り、殴りつけた。
殴りつけられた暗黒魔狼の頭部が破裂し、血しぶきをうむ。
この程度の奇襲であれば、エミーはその超人的な身体能力でもって、易々と敵の迎撃に成功する。
......この程度の奇襲で、あれば。
「アオンッ!!」
「アオンッ!!」
「アオーーーンッ!!」
「!?」
しかしこの程度で、暗黒魔狼たちの突撃は、終わらないのだ!
拳を振りきり体勢を崩したエミーに向かって、さらに何匹も、何匹も、死角から絶妙なタイミングでとびかかってくる暗黒魔狼!
その動きは、先ほどまでの彼らとは完全に別物である。
「一、十三、八、六、五ッ!!」
その動きを指示しているのが、上空でデオガンダイの放つ号令であることは、疑いようもない。
「やッ!らあッ!ちッ......!」
前後左右から間髪入れずに襲い来る暗黒魔狼。
さすがのエミーと言えども、その全ての攻撃を迎撃することは、できない。
魔王軍の特殊な魔導精錬技術によって作り出されたその牙や爪の一撃は、彼女にとっても決して無視できるものでは無く、どす黒い鎧で覆われていない頬の部分などには、次第に赤い筋が目立ち始めた。
しかも彼らの攻撃は、一糸乱れぬ暗黒魔狼の連続攻撃に、留まらない!
「......!!」
次々に襲い来る牙や爪を捌き続けていたエミーは、微かな気配の変化を感じとり、暗黒魔狼の攻撃で傷つけられることも厭わず、とっさに横跳びをした。
「【ドラゴンスタンプ】ッ!!」
次の瞬間、それまでエミーが立っていた石畳の上に、上空で様子見をしていたデオガンダイが急降下してきた!
その異形と化した巨大な両足で地面を踏み砕くデオガンダイ!
ズガアアアアンッ!
第一広場に盛大な破壊音が響くが、彼の攻撃は止まらない!
「八、四、十一、十一、十一ッ!!」
暗黒魔狼たちに号令を発しながら、デオガンダイはその長い尻尾を、エミーに向けて超高速で横なぎに振りぬいた!
「【ドラゴンテイル】ッ!!」
背後からは、迫る暗黒魔狼の気配!
たまらず跳びあがりデオガンダイの尻尾をかわしたエミーは、にやりと笑うデオガンダイの表情を見て己の失態を悟った。
空中。
大きな隙。
......逃げ場無し!!
「そして、これで詰みだッ!【ドラゴンサンダー】ッ!!」
デオガンダイがそう叫んだ、次の瞬間!
それまでもバチバチと音を立てていた彼の両角を走る電流が急激に強まり、エミーに向けて発射された!
バチイイイインッ!!
「がああああああーーーッ!!」
稲光に包まれ発光しながら、電撃の轟音にも負けないほどの絶叫をあげる、エミー!
時にして、数瞬。
しかしこの、デオガンダイ第5形態の奥の手【ドラゴンサンダー】は、確かにこのバケモノじみた少女にも、効果を発揮したらしい。
稲光が止み、第一広場が元の暗闇を取り戻したその時には。
エミーは、ぽとりと。
黒焦げになりながら、動くことなく。
地面に落下した。
「グルルッ!」
「アオン、アオンッ!」
「「「アオオオーーーーーーンッ!!」」」
暗黒魔狼たちは、敵の死亡を確信し、喜びの吠え声をあげる。
だが、しかし。
中級指揮官デオガンダイは険しい顔つきのまま石畳の上に転がる黒焦げの少女を睨みつけ、さらなる号令をくだした。
「全員、総攻撃ッ!!一斉にかかれーーーッ!!」
「アオンッ!?」
暗黒魔狼にとって、指揮官の命令は絶対だ。
故に困惑の声をあげながらも、彼らは一斉にエミーに対してとびかかった。
腕に噛みつき、足に噛みつき。
噛みつける箇所が無くなってからは、その体の上に山積みとなり、重量で押しつぶそうとする。
どう見ても、勝負あり。
「............」
しかし、デオガンダイは依然として険しい顔つきのままだ。
何故なら彼は、“強者”という者がどんな存在なのかを、知っているからだ。
例えばこの状況、相手が魔王軍四天王、怪力無双のマッコイマッコイであれば、どうか。
神算鬼謀のゼイハトオーンであれば、どうか。
きっとどちらも、すぐに平気な顔をして復活をとげる。
自分とは、違うんだ。
だから、きっと、あれも。
......ドオオオオオオンッ!!
デオガンダイがそんなことを考えていた、その時だった。
轟音と共に、エミーに群がっていた暗黒魔狼たちが、悲鳴をあげながら吹き飛ばされた!
そして、その後に立っていたのは、一人の少女。
どす黒い鎧を着た、黒髪黒目の少女、エミー。
その闇のような瞳に闘志を滾らせ、デオガンダイを睨んでいる。
ほら、見たことか。
「【ドラゴンサンダー】ッ!!!」
それを視認した瞬間、デオガンダイは密かにチャージしていた奥の手【ドラゴンサンダー】を、惜しげもなく再度発射した!
確かに先ほど、雷撃による攻撃は、効果を及ぼしていた。
ざっと見る限り、鎧は無傷。
きっとあれは、雷を防ぐ。
しかしいかに防具の帯電性が高かろうと、素肌が晒されている以上は、無意味だ。
もう一発の雷を、最大出力で放って、これで勝負を決める!
だが、しかし。
デオガンダイの算段は、エミーの予想だにしない挙動により、妨げられることになる。
それは、腕だ。
鎧と同じ、どす黒くて時折錆びたような赤色が浮かびあがる、巨大でごつごつとした、第3、第4の腕が。
デオガンダイが【ドラゴンサンダー】を放つ直前に、エミーの肩からにゅるりと出現し。
デオガンダイの雷を。
まるで埃か何かのように、払いのけてしまったのだ。
「私に、雷は、効かない」
呆然とするデオガンダイを前にして、エミーは可愛らしい、しかし良く通る声で、そう宣言した。
「......クカカ。その割には、ずいぶんと黒焦げになっているようだが?」
額から汗を流しながらも、デオガンダイは余裕ぶって、そう軽口を叩いた。
「き、効かないって、言ってるでしょ!」
その軽口を受けて、エミーは露骨に慌てた。
やっぱり、素肌に通すことができれば、効くらしい。




