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オマケの転生者  作者: むらべ むらさき
17 なぎ倒せ、エミー!花と夜明けと死神編!
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340 蹴散らせ湧き出る魔王軍!2

 今回デオガンダイに連れてこられた暗黒魔狼は、先述した通り、彼が手塩にかけて調教したエリート個体たちである。

 デオガンダイは知能が高く、戦闘能力も十分な暗黒魔狼たちを選抜して、今回の部隊を作りあげた。


 が、しかし。


 そんなエリートたちにも、決定的に欠けている要素があった。




 それが、“経験”。




 なにせ、デオガンダイの息のかかったベテラン暗黒魔狼たちは、軒並み城塞都市リヒエドの襲撃失敗により、失われているのだ。

 必然的に残る暗黒魔狼たちは、若い個体ばかりになる。

 能力値は高くとも、経験が圧倒的に足りない。


 そのため彼らは、警戒心が弱い。

 能力値の高いエリートだけあって碌に失敗した経験がないため、負けを想定して戦うことができない。

 増長しきったその思考は、相手が圧倒的に格上であるという事実を認めない。


 人間なんていうのは、遊びながら狩り殺す対象......おもちゃ、もしくは、おやつ。

 その認識を、訂正することができない。




 だからこそ彼らは、既に数匹の同朋が目の前の黒髪黒目の少女エミーに屠られているという現状を目の当たりにしても。

 決して......おびえ怯み、逃げ出そうとはしなかった。

 むしろ、激昂していた。

 弱い人間のくせに、我らに歯向かうなど、許せない!

 この時点においても、未だに。

 彼らはそのような思考に、囚われていた。


 もちろんエミーが本気を出していれば、結果は違っていただろう。

 彼女の本気の【威圧】を受けてしまえば、さすがに傲慢なエリート暗黒魔狼といえども、文字通り尻尾を巻いて逃げ出していただろう。


 だがしかし、エミーは。

 この、悪辣なバケモノは。

 “少し強いけど、決して勝てない相手ではない”と、暗黒魔狼たちが誤認する程度の【威圧】しか、放っていなかった。

 何せリヒエドでベテラン暗黒魔狼たちをほぼ壊滅させたのが、このバケモノである。

 暗黒魔狼の強さの程というのは、何となく理解しているので、調整は可能なのだ。


 何故、そんなことを?

 そう質問を受けたならば、エミーはきっと、『散り散りに逃げられると、その後の処理が面倒だから』と答えただろう。

 逃げ出した暗黒魔狼が、鉢合わせした人間を襲わないとは限らない。

 なるべく多くの個体を、この場で仕留めておく必要が、あったのだと。


 もちろん、そんな考えが彼女の思考の片隅にあったことは、事実だ。


 だが、しかし。

 実際のところ。


 彼女は、むしゃくしゃしていたのだ。


 暴力を振るえる対象を、欲していたのだ。


 魔族が率いる、暗黒魔狼。


 それは間違いなく、魔王軍である。


 その事実を、エミーはオマケ様にも確認し、正しく認識していた。




 魔王軍。


 人間の、敵。


 で、あるならば。


 良いよね?




 殺しても。




 本音を言えば。


 この時のエミーの行動を、決定していたのは。


 このような、邪悪な思考であった。




◇ ◇ ◇




 激昂して目の前の小さな人間に襲いかかり。

 殴られ、蹴られ、引きちぎられ、次々に命を落としていく暗黒魔狼たち。

 だがしかし、彼らは未だに、戦意を喪失していない。

 特に彼らのように、みっちりと調教を受けた暗黒魔狼は、魔王軍のいわば生物兵器である。

 仲間が殺されたからと怯えるような兵器は、必要ない。

 故に、そのように、彼らは調教され続けてきたから。


 だが、しかし。


 そんな暗黒魔狼たちを率いる、魔王軍中級指揮官デオガンダイは、恐怖を覚えていた。

 そしてはっきりと、確信していた。

 このままでは勝てる可能性は、限りなく低いと。


(やばいやばいやばいやばいッ!!何なんだこの人間!?やばいッ!!)


 表情は冷静沈着、冷酷無比な指揮官の顔をとり繕っていても、その内心では大慌てである。


(底が見えない!暗黒魔狼に囲まれているのに、全然本気を出していない!もしかしてあの人間、四天王くらい強いんじゃないのッ!?何でそんなのが、急に襲いかかってくるのッ!?何でオレの任務の時ばっかり、こんなイレギュラーが起こるのッ!?)


 年若い暗黒魔狼たちとは違い、デオガンダイは正確に、目の前のバケモノの力量を把握していた。

 故に。


(撤退......!)


 その、二文字を指示するため。

 大きく息を吸いこみ、腹に力を入れた。

 無駄に暗黒魔狼を殺されては、たまらないからだ。


 だが......!


「......!!」


 言葉が、出なかった。


「て、て......!」


 言えなかった。


(言えるわけ、ないだろ、撤退なんてッ......!!)


 デオガンダイは冷や汗を流しながらも目を真っ赤に血走らせ、ぎりぎりと音を立てながら歯を食いしばった!




 ここで逃げたら、どうなるか。

 リヒエドの時と、同じだ。

 任務は失敗。

 失敗も失敗。

 大失敗だ!


 そうしたら、どうなる?

 二度も、任務をこなせず、人間共に碌に被害も与えずおめおめと逃げ帰り、生き恥を晒す中級指揮官に、未来はあるか?

 四天王ナンバーワン、大参謀、神算鬼謀のゼイトハオーンは、そんなデオガンダイを、どう処分する?


 左遷?

 降格?


 そんな生ぬるい話では、済まないはずだ。

 出世に響くとか、もはやそういう次元の話ではないのだ。




 死だ。




 ここで逃げれば、デオガンダイに待っているのは、死。


 魔導溶解炉に放りこまれ。

 どろどろに溶かされて。

 次の魔族を作るための、材料にされる。


 それで、終わりだ。


 デオガンダイという男の名前は。

 “無能な中級指揮官”という最終評価と共に、死亡者リストに入力されて。

 やがて、完全に忘れ去られる。


 それで、終わりなのだ。




「認めない......!」


 ぽつりとつぶやいただけのその言葉は、存外良く響いた。

 新たな暗黒魔狼を手刀で真っ二つに裂いてから、エミーはここでようやく、デオガンダイに視線を向けた。


「そんな未来は......認めないぞーーーッ!!!」


 デオガンダイは、絶叫した!

 そして竜の両足で地面を踏みつけ、空高く跳びあがってから、翼をはためかせてその場で静止!

 高所からエミーを、睨みつける!


「戦闘止めッ!散開、7番の型ッ!指示待てッ!」


 矢継ぎ早に繰り出されるデオガンダイの命令を、暗黒魔狼たちは正しく理解し、その瞳の中にエミーへの敵愾心を隠すことなく、しかし命令通りに彼女とは距離をとり、その周囲を旋回し始めた。




「我が名は、デオガンダイッ!!魔王軍、中級指揮官なりッ!!」


 ここでデオガンダイは、足元の街灯に照らされながら高々と名乗りをあげた。

 その表情には、先ほどまで見え隠れしていた怯えの色は、無い。

 彼はもはや、覚悟を決めていた。


「そこな人間ッ!!名を名乗れッ!!」


 高慢な口調ではあったが。

 そう叫ぶデオガンダイの瞳は、不思議と澄んだ色をしていた。

 その瞳に見据えられて。

 エミーの魂の中で膨らみ続けていた殺戮への欲求が、まるで冷や水を浴びせられたかのように、大人しくなっていく。


「......エミー。私は旅人。エミー・ルーン」


 エミーはまっすぐにデオガンダイの瞳を見つめ返しながら、少しだけばつが悪そうな様子で、そう答えた。




「そうか、エミーよ!我々は現在、魔王様の命のもと、作戦行動を遂行中である!これ以上の妨害行為をやめよ!」


「......作戦、とは?」


「貴様に言う必要は無い!」


「......そうかもね」


 少しだけ言葉を交わしてから、エミーはデオガンダイに向けて拳を構える。

 彼女から噴出するどす黒い靄がその勢いを増し、周囲を悍ましく汚していく。


 ミシ、ミシミシ、ミシ......。


 エミーから放たれる【威圧】の強さが数倍は跳ねあがり、周囲の空間が軋み始める。




「あくまで妨害を、続けるつもりだな!?」


「............」


 無言で拳を構え続けるエミー。

 その様子を、デオガンダイは肯定の意思表示とみなした。


「ならば、もはや問答は無用!」


 バチ、バチッ!


 鋭い音を立てながら、デオガンダイの側頭部から生えた二本の角に電流が走り、淡く発光を始める!


「この戦いには、我が未来がかかっている!全力で、行くぞ......死ぬが良い、エミー・ルーンッ!!」




「......未来がかかっていない戦いなんて、あるもんか」


 再度の衝突の、直前。

 エミーは最後に、ぽつりとそう言ってから。




 ......叫んだ!!




「お前が、死ねッ!デオガンダイッ!!」

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― 新着の感想 ―
[良い点]  そうか逃げても未来などないのかデオさま(´Д` )魔王軍に生まれた者は魔王軍でしか生きられぬ運命ならば已む無し!せめて読者に貴方の生き様を見せてください、金具素屯は刮目してお待ちしており…
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