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オマケの転生者  作者: むらべ むらさき
17 なぎ倒せ、エミー!花と夜明けと死神編!
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337 (呪い子)むしゃくしゃしていたから

 ちょき、ちょき、ちょき。


 私は今、お店の裏の畑で、花を摘んでいる。

 窓からあふれる魔灯の明かりを頼りに、ばあちゃんのハサミを使って。




 『花を、置いてきて欲しい』。




 ばあちゃんが私に願った、最後の“嫌がらせ”。

 それを聞いた時、私は思わず首を傾げた。


 それのどこが、“嫌がらせ”なの?


 そんな私の様子を見て、ばあちゃんは、咳きこみながらも笑って、説明してくれた。




 『これは、符丁なんだよ』。


 ばあちゃんには......若い頃、頻繁に待ち合わせをして会っていた、男の人がいたらしい。

 その人との待ち合わせ場所は、東にあるミハビュシラの丘の上の草原に立っている、石柱の下。


 頻繁に待ち合わせをして会っていた、男の人。

 恋人だったの?

 そう聞いたら。


 『......恋人なもんか。仕事上のつきあいだよ』。


 との返し。

 私から目をそらして、ため息をついて。


 でも多分、好きだったんでしょ?


 『本当に、女心のわからない、ダメ男だった......』。


 ばあちゃんは、私の質問には答えなかった。

 だけど寂しそうに、そう言った。




 それは、さておき。

 とにかく二人は、丘の上の石柱の下で、頻繁に待ち合わせをしていた。

 でも、仕事の都合上、どうしても二人が、同じ時間にその場所まで、行けないこともある。


 そんな時に使う符丁が、花だったんだとか。


 先に待っていた方は、そこに来た証として、石柱の下に花を置いて行く。

 後から来た方は、その花を見て、相手の無事を確認する。


 大まかに言うと、そういうようなことをしていたらしい。




 ところが、何十年も前の、『夜明けの日』......悪い王様が、死んだその日以来。

 お相手の男は、石柱の下に現れなくなった。




 ばあちゃんは、毎日毎日、丘の上まで通った。

 風の日も、雨の日も。


 そしてずっと、石柱の下に花を置き続けた。


 だけど、その石柱の下に萎びながら増え続けるのは、ばあちゃんの花ばかりだった。


 『仕事の、最後の打ち合わせが、残っていたのに。あのダメ男は、それすらもすっぽかしやがった』。


 ばあちゃんはそう、ぶつぶつと文句を言った。




 とにかくばあちゃんはそれ以降も、相手が現れないにも関わらず丘の上に通い、花を置き続けたんだ。

 その頻度は次第に、週に一度になり、月に一度になり。

 体力の落ちた今では、年に一度、『夜明けの日』の早朝にだけ、花を置いていたらしいんだけど。

 とにかくばあちゃんは、花を置き続けた。


 でも、それなら。

 『花を置く』ことが、何で“嫌がらせ”になる?

 何故それを、私に願う?




 『“花”は、生存報告なんだよ?死んでるのに、花が置いてあったら......相手は混乱して、困っちゃうだろ?だから“嫌がらせ”だ』。


 首を傾げている私に、ばあちゃんはけらけらと笑いながら、そう言った。


 『あの男は結局、死ぬまであたしを困らせた。だからあたしも、最後の“嫌がらせ”で、困らせてやるんだ』。


 とも。




 もちろん、疑問は浮かんだよ。

 まずそのお相手は、現在もご存命なのかということ。

 そしてご存命であったとしても、花の符丁のことを、覚えているのかということ。

 さらに覚えていたとしても、今更そのお相手が丘の上の石柱まで足を運ぶことが、あるのかということ。

 もう一つ言えば、たまたま石柱のところまで行ったとしても、そんな“嫌がらせ”を目の当たりにして、困惑するような相手であるのか、ということ。


 相手は、別れてからこれまで一度も、ばあちゃんの元に現れていない。

 そんな相手に対して、ばあちゃんの“嫌がらせ”が、“嫌がらせ”として機能する可能性は、限りなく低い。




 でも。


 そんなこと指摘するほど、私も無粋じゃない。

 私にだって、わかるさ。


 “嫌がらせ”なんかじゃ、無いんだ。

 その言葉は、照れ隠しとか、そういう類のものなんだろう。


 今やばあちゃんにとって、“花”は、もっと大切なメッセージなんだろう。


 ばあちゃんが、伝えたいこと。

 それは、つまり......。




◇ ◇ ◇




「......よし」


 誰に聞かせるわけでもなく、私はそうつぶやいた。

 裏の畑で、花が十分に集まったのだ。


 ばあちゃんに指定され、私が集めていたのは、青い花。

 以前、私が勝手に抜いて怒られた、雑草みたいな草だ。


 ......そう言えば、名前は、わからないな。

 ばあちゃんに、聞いておけば良かった。


<......私は、知っていますが>


 え、そうなの?


<これは、カタログ植物ですからね>


 カタログ植物?


<例えば神が地上を植物で満たしたいと思ったとしても、全ての植物をいちいち設計するのは、手間でしょう?だから神々は、それぞれの種の進化に任せる以外にも、カタログで種を取り寄せて、それをそのまま世界に蒔いたりする事があるんです>


 はあ、なるほど?

 そういう、神々にとってお手軽に増やせる植物が、カタログ植物ってこと?


<そして、カタログ植物には使用許諾条件があり、名前や花言葉などを、変えることができません。だからこの花、もしあなたが前世で見たことがあったとしたら、それと同じ名前です>


 うーん、そう言われてもな。

 花の名前を気にするような人生を、前世では送っていなかったからな。

 でも、言われてみれば、確かにバラなんかと同じく、この花も、前世で見覚えがある花のような気がする。


 そんなことを、なんとなくオマケ様とやりとりしながら。

 私はその花を紙で包み、紐で縛った。

 小さな花束の完成だ。

 それを肩から下げるカバンに、大事に入れる。




「......さて」


 私は一言つぶやくと、裏の畑から室内に入り、ばあちゃんの寝室へ。


 ばあちゃんは、ベッドの上で、目を閉じている。

 苦しそうな顔はしていない。

 安らかな顔だ。




 ......ああ。


 くそ。


 視界が滲む。




「行って、きます」


 何とかそれだけ、声を絞り出して。

 寝室を出て、居間を通り抜けて、鮮花店内へ。

 ボーン、ボーンという、12時を告げる壁かけ時計の音を聞きながら、さらにそこを抜けて玄関扉を開き、外出。

 少ない街灯の明かりを頼りに、裏通りを進む。

 ぼんやりしながらふらふらと、進む。


<もう、行くのですか?>


 そうだね。


<早朝で良いのです。ミハビュシラの丘に向かうのは、まだ早いのでは>


 そうだよね。

 でもね、オマケ様。

 あそこでじっとしていても、悲しいだけだからね。


<............>


 体を、動かしたい。

 できることなら、何も考えずに、暴れてまわりたい。

 目につくもの、全部ぐちゃぐちゃに壊してしまいたい。


<......ご自由にどうぞ>


 しないよ......。


 ばあちゃんはこの町のこと、結構好いていたみたいだしね。

 そんなことは、しないよ。


<ストレスのため過ぎは、体に良くありません>


 だよねぇー。


 はあ。


 ......いらいらする。


 体を、思いっきり動かしたい。


 はあ。




 ......どこかにさ、気兼ねなく殴れるような悪い奴、いっぱい転がって無いかな?


<どこの地獄ですか、それ>




 さて。

 事態が動いたのは、ぶつくさぶつくさ脳内でオマケ様と喋りながら、そうやって裏通りを進んでいた、その時だった。




「きゃあああああーーーっ!!」




 突然。

 本当に、突然。


 曲がり角の向こう側から、女の人の叫び声が、聞こえたんだ。




「............」




 ねえ、オマケ様。


<なんでしょう>


 悲鳴、聞こえたね。


<そうですね>


 女の人が、きっと何かに、襲われて、いるね。


<そうかもしれません>




 ねえ、オマケ様。


<なんでしょう>


 女の人、襲うなんてさ、そいつ。


<はい>


 悪い、奴だよね。




<......エミー>


 何さ。


<私は、初めから、言っているのです>


 何を。




<ご自由にどうぞ、と>




 次の瞬間。


 私は、体中からあふれ出るどす黒い靄を、抑えることもせずにまき散らし。


 足元の石畳を、踏み砕きながら。




 夜の王都を、駆け始めた。

Q.主人公は、どうして戦うのですか?


A.むしゃくしゃしていたから。


 そんなあんまりな動機づけのもと、いよいよ次話からは、第1部最終章のバトルが始まります!

 この先は一部を除いて、タイトルの()がとり払われます。

 更新間隔は、これまで通りです。

 毎日投稿したり、しなかったりします。

 どうぞおつきあいください!

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[良い点]  じいちゃん師匠やジョバンノに続いて親愛なる者との涙の別離(T ^ T)コミカルな文章に暖かさを神妙なシーンは透き通るように描き上げる、そのギャップが大好きですむらべ先生(^◡^;) [気…
[一言] 今日も怖いよエミーちゃん おばあさんへの優しい哀悼の気持ちが何故暴力へと変換されてしまうのか、思考の回路がヤバイよエミーちゃん
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