登校するのが友達と一緒とか都市伝説でしょ
一人で登校するなんて、僕にとっては珍しい事でもなんでも無い。
けれど、住む場所が変わってからは実は初めての経験だったりするのだ。
「麗さんがあまりにもすぐ引っ越してきたから、一緒だったもんねえ」
まあ一人だから寂しいなんてことはないんだけれど、一人でいるからこそ隣にいない麗さんの事を考えてしまう。
「大丈夫だよね、如月さんもいるし」
別に僕が心配したところで何が変わるわけでもないのだけど、どうしても気になってしまう。
「……本当に移しちゃったのかな」
僕も昨日熱が出ていたけれど大した事無くて、昼にはもう楽になっていた。
だから治っていたと思い込んでいたけれど、まだ完治していなかったのかもしれない。
ひょっとしたら昨日彼女が冗談交じりに言っていたように……その、特定の行為で麗さんに移したのかも。
考えると昨日麗さんとキスしてしまった事を思い出して、顔が燃えるように熱くなる。思わず自分で顔を触ってしまう。
「も、もしそうでも、やっちゃった物は仕方ないんだから、気にしちゃ駄目だ」
そうやって自身に向けるようにして慌てて言い訳をする。……自分のやった事なのに、恥ずかしいと思うのも、言い訳をしようとするのもおかしな話だよな。
思考に引っ張られるようにして焦る気持ちに急かされながら、足早に学校へと向かう。
「落ち着こう、落ち着こうよ」
一人でそうやって、はやる気持ちを抑えようと呟くけど体が付いて行かず、さっささっさと足を進める。
心なしか、いつもより周りの景色が早く流れて行く気がする。
そんな時に赤信号が僕の行く手をさえぎってくれた。
僕は安堵してため息を吐き、胸に手を当てて軽くとんとんと叩く。
僕は感情のコントロールが下手だから、一度立ち止まってこうでもしないと整理がつかないのだ。
「考えてもしょうがない事を、堂々巡りに考えてるだけなんだよなあ」
別に僕の責任だろうが、そうじゃなかろうが麗さんが風邪を引いた事実には変わりない。だったら、麗さんのために何かしてあげるように考えた方が建設的だろう。
「ほれ前向け前」
そう呟いて自分の行動に指針を立ててやる。自分でいうのもあれだけど、こんな事を一人でやってるのは相当に痛々しい気がする。
「……とりあえず学校行かないといけないんだし、着いてからの方が落ち着くよ」
今は結局何も出来ないのだしと、諦めと開き直りを混ぜて、何をすべきか考えるのは後回しにする。
信号もちょうど青へと変わり、ゆっくりと歩いて歩道を渡る。その行為に落ち着きを取り戻せた事を自覚できて、軽く息を吐き出した。
「ふう、とりあえずゲームのことでも考えとくか。キャラ対とかパーティ構成とか」
そうやって誤魔化すために、独り言を絶やさない不審者丸出しの様子で歩いていると、後ろから誰かに声をかけられた。
「奈月殿〜!」
……いや、誰かにっていうかこの呼び方、六角くん以外にしないでしょ。
そもそも僕の知り合いなんてほとんどいないと言うのもあるけれど、こんなふざけた呼び方をする人間は彼以外に思いつかなかった。
……に、しても、往来でこんな呼び方をするのに恥ずかしさはないのかなあ。
そう思いながら、僕が六角くんの方を見るべく後ろを振り向いた時、そこには小さな女の子と手を繋ぎながら登校するクラスメイト……六角 理男の姿があった。
僕はそれを見て思わず呟いてしまう。
「……ついにやっちゃったのかな」
彼を通報しようか五秒くらい迷って、警察の人と話すのが大変そうだからやめようと思うのだった。
*
さっき六角くんが連れていた女の子に手を振り近くの幼稚園で別れを告げてから、僕は六角くんと一緒に学校へ向けて歩いていた
「隣の家の子だったんだね」
「弁解が遅ければもう一歩で通報されるところでしたな……」
「ごめんね。……て、言ってもそのキャラクター性を自分で前面に押し出してるのに文句を言うのはどうなんだろう……」
ほんと通報しなくてよかった。
僕がこっそりと胸を撫で下ろしていると、六角くんが気になる発言をしてきた。
「桜ノ宮殿でも、もう少し優しかったですぞ」
「え、麗さんと何かあった?」
「昨日、同じような時間に麗殿と会ったのですな。……その時も奈月殿と似たような反応をされましたが」
六角くんはそう言って苦笑する。
確かに、麗さんなら辛辣な対応をしかねないなと思って納得からこくこくと首を二回振る。……自分の事を棚に上げてるなんて知らない。
「にしても、ほとんど毎日あの子を送るためにこの時間なんだね」
「そうですな。まあ、りーちゃんのためなら当然と言えば当然ですな」
「大事なんだ、あの子が」
僕がそういうと、なぜか六角くんはばつが悪そうに、顔を逸らして詰まりながら答える
「……そ、そうですな。やはり、その、家族ぐるみでの付き合いというのは」
……この反応、やはりあの子に何かしらやましい感情を覚えているのではないだろうか。
「……じー」
「なんですかな!? その疑いの眼差しは!? 違いますぞ、我輩はあの子にはやましい気持ちなんて無いです!」
僕が声を出しながら大仰に見つめると、六角くんは必死に言い訳してくる。
「……そういうことにしてあげるよ」
「その言い方、何も誤解が解けてなくないかな!?」
あ、いつもの変な口調が崩れた。
僕はその様子を見て、からかいすぎも良くないなと思い、軽く笑いながらも態度を改める。
「大丈夫だよ。流石にあの子に恋愛感情を持ってないなんて分かってるから」
「だったら変な事言わないでくだされ……」
「ごめんね。無責任な発言が好きすぎるんだ」
「……友達じゃなかったら、刺されても文句は言えないと思いますな」
そうやって、六角くんも物騒な発言をしてくる。僕はそのことが面白くてくすりと笑ってしまう。
そんな僕の様子を見た六角くんは何かに気付いたのか、感嘆するような様子で聞いてくる。
「桜ノ宮殿とは、仲直り出来たのですかな?」
「え。麗さんから何か聞いたの?」
「ええ、何か思い悩んでいるようでしたので、無理やりに相談を受けさせていただきました」
僕はそれを聞いて驚いたけれど、そのおかげもあって麗さんが色々話してくれたのかもしれないと、六角くんに感謝の念が湧いてくる。
「おかげさまで、仲直り出来ました」
「それは良かったですな。……けれど、一緒では無いんですかな?」
「あ、そうだね。麗さん、体調悪そうで……僕のが移っちゃったのかも」
「それは大変ですなあ」
他人事ではないかの様に、六角くんは情感を思い切り込めて大仰に声を上げる。
僕はそんな彼に、ふと思い立って相談をしてみる。
「何か、した方が良いことってあるのかな?」
彼は隣の家と付き合いが長いみたいだし、気を遣えるタイプだから、何かして上げたら相手が喜ぶ事を知っていないか聞いてみる。
それを聞いた六角くんは、少しだけ考えるとすぐに答えてくる。
だけどその答えは、僕の求めるものとは少し違っていて。
「そうですな……。想い人はそばにいてくれるだけで、嬉しいものですぞ?」
そういう、僕からすれば理解のできない感覚であるのだった。
友達の存在はフィクション




