意中の相手に近づく方法
ゲームで勝てない瞬間というのは本性が出る……とまでは言わないけれど、冷静な判断が出来なくなるので、イライラしやすく、更に負けが込んでしまう、なんて言うのは僕は経験則から思っている。
ちょうど今は同じ人たちに負けが続いている状態で、さっきまでずっと笑顔を崩さないでいた麗さんも真顔で試合を続けていた。
僕は相手のキャラをステージの外側に足止めしながら、淡々と麗さんに指示を出す。
「これシールド割れる」
「わかったわ」
麗さんの動かすピンク玉がその言葉にしたがって、特殊技で相手のシールド……つまりは行動を防ぐための守りを壊す。
そうすると、相手のキャラがしばらく動けない状態になる。
こういった連携は、このゲームにおけるチーム戦での見どころの一つだ。
硬直した相手を吹っ飛ばしてからも試合は続き、麗さんに指示を出す。
「なんとかこっちの時間稼ぎだけするから、そっちの方相手頼むね」
「ん……っと。ごめん、やられちゃったわ……」
僕が言うと同時に麗さんのキャラが画面真横へと吹っ飛ばされる。……軽いなあ、あの風船。
「……ん、大丈夫」
僕は麗さんの吹っ飛ばされる姿を見ながら、吹っ飛ばした余韻に浸る相手を確認する。そこへ、操作中の亀を後ろから突撃させる。
そして、一部のユーザーから不評を食らっている『確定で吹っ飛ばせるコンボ』を使い相手を倒す。
「……え、何よ今の!?」
それを見た麗さんが、驚きの声を出す。
「クソコンボだよ」
僕は負けず嫌いではない……と、いつもは思っているけれど、他の人と組んで戦うとつい夢中になってしまう。
きっと、他の人が僕のせいで負ける責任感に耐えられないのと、僕以外の誰かが負けているのを見るのが嫌だから。……なんて理由だろうと考察したことがある。
「……よし、有利状況で道連れできた」
「道連れして大丈夫なの!?」
「大丈夫、四ポイント差で勝ってる」
まあ、そのせいでいつもより淡々と、その上、普段は卑怯と思ってさえいる行動もやってしまうのが悪い癖だとは思いつつ、それに罪悪感を覚えることもなく落ち着いてゲームをする。
麗さんも、先程までの笑顔はどこへやら、僕と同じで笑顔もなく静かに、しかし全力でゲームに取り組む。
「……あと十秒逃げて勝ち!」
「了解よ!」
お互い対戦の盛り上がりに興奮しながら、声を張ってそうやって言いあう。
普段なら全然やらないような『逃げ』の選択肢で勝ちを目指し、そして……二人とも画面端ギリギリまで逃げ、最終的に勝ちのリザルト画面へと移る。
リザルト画面を見て二人、達成感と疲労感に浸りながら呟く。
「やったね。……ああ、疲れた」
「そうね。……よかった」
その瞬間、達成感に駆られたせいか、手から力が抜けてしまいコントローラをソファへと置く。
麗さんもそれとコントローラから手を離して、僕のと重ねる。
試合中の興奮は何処へやら、二人して同じような姿勢でのんびりする。
「……終わろっか」
僕は麗さんがこくりと首を縦に振るのを見てゲームの電源を切る。
「……疲れたわ」
「だね。最後の人達と三十分くらいはぶっ続けでやってたし、無理ないよ」
「……あそこから三十分っていう事はもう十時近いのね。……まあ、楽しかったからいいけど」
麗さんがソファに体を思いっきり預けながら、言葉とは裏腹に笑みもなく呟く。……なぜか、それを見るとむしろ安心する心が込み上げてくる。
(麗さん、いつもはそんな笑う方じゃないからなあ)
別に無愛想って訳じゃないとは思う……というか、僕も親しい人と話す時でもなければ真顔になる方だから人の事を言えた義理ではない。
夕食前に不自然なまでに笑顔だったのがおかしいので、こうやって自然な笑顔を見ると安心する。……安心っていうのもなにか間違っている気するけど、いいのだ。
麗さんはそのままの仏頂面で喋る。
「そういえば、明日も学校あるのよね」
「まあ、月曜だから全然まだ……」
「……そういえばそうね、なんでか木曜日くらいの気分だったわ」
麗さんが難しそうな顔で思考している姿は、いつもと同じだな、なんて思って思わず口元を緩めながらじっと見つめてしまった。
……だが、それを麗さんに見られてしまう。
彼女はハッとしたように慌てると、顔に貼り付けたような笑みを浮かべてこちらを見る。
「あ、ありがとね! やっぱり奈月が一緒だと楽しくゲーム出来るわ!」
そして、さっきみたいに、こちらへと褒め言葉を全力で向けてきた。
僕は、それを見て嬉しい……なんて感情の前に違う考えをしてしまった。
「……無理しなくていいよ」
「な、な、何言ってるの!? わ、私は本当の事をね」
……まあ、これだけ動揺している麗さんというのも可愛いと思えるのだけれど、でも、『らしくない』と感じてしまったのだ。
僕は麗さんに何か強要してしまったのではないかと、夕方に言ったことを思い出しながら聞く。
「……ごめん、なにか変なこと言っちゃったかな? 傷つけたりとか、命令したりとか……僕、麗さんに嫌なことしちゃったかな」
僕がそういうと、麗さんは慌ててしばらく手をバタバタとさせていたが、すぐにため息を一つつくといつものように抑揚も少なく如月さんに言う。
「……奈月とちょっと外に出てくるわ」
僕の了承は取らず、ただ服を軽く引っ張るとそのまま外に出ようとして、
「後片付けはしてくださいね?」
なんて、如月さんに笑って言われて、僕たちは渋々ゲームの片付けをさせられた。
*
僕たちは部屋の外に出ると、マンションの廊下で二人麗さんと僕の部屋の間に立つようにして立ち話を始めた。
九月の夜ということもあり、少し肌寒い 。
「どうしたの? こんな外で、風邪引いちゃうよ?」
「……あんたは風邪がぶり返さないか心配しなさいよ」
言われて、そういや午前中は熱があったと思い返す。
それが直接の原因で休んだわけだけど、麗さんは昨日の事を思いつめてしまったみたいで夕方の話になったんだっけ。
……まあ、そのお陰で言いたいことが言い合えたんだとポジティブに思い返そう。
「それで……何の話?」
「……あんただって、さっきなにも思わなかった訳じゃないんでしょ。……分かってよ」
麗さんは明言せずにそう呟く。……若干、拗ねているようで、顔を逸らす。
僕はどうやって自分の感じたものを言葉にしたらいいのか迷ってしまいながらも、一つずつ言葉を繋いでいく。
「……なんか、変だとは思ったんだけど……さっきの麗さん、いつもと違ってたよね?」
「……そうね」
「すごく楽しそうにしてたと思えば、退屈そうな表情になって僕を無視したり、たまに変に褒めて来たりして」
「情緒不安定なんて思ったって?」
「いや……そこまでは思わないけどね。ただ、なんか心苦しくて……」
僕が言うと、麗さんは鼻で笑うような仕草をする。
「あんたの事だから、どうせ夕方に迷惑かけたとか、何か悪いことしちゃったとか、勝手に私の態度から想像してたのよね? ……馬鹿じゃないの? 私がどんな態度取ろうが私の勝手、あんたに縛られるなんてある訳が無いんだから」
僕の返事すら待たずに麗さんは呆れたように罵倒をしてくる。……さっきまでの満面の笑みではなく口の端を軽く上げて皮肉っぽく笑う。
でも、僕はそれを聞いてさらに疑問を持ってしまう。
「だったらなんであんな風にさ……」
僕がそう言うと、麗さんは口をへの字にして乱暴に携帯の画面を突きつけてくる。
「わ! 急に何!? ……見ろってことでいいの?」
麗さんはこちらを軽く見上げながらこくりと頷く。
僕は携帯に表示されている何かのまとめサイトを見て、そして読み上げてみる。
「……ええと、『これで、意中のあの人と急接近! 冷たく突き放してから、優しくするだけ!』……そうかな?」
そんなことは別に無いと思うんだけどなあ。……とは言っても男友達すらいない僕が何か言えたことでは無いよね。
麗さんはそんな態度の僕に軽くむくれた様子で声をかけて来た。
「そうかな……じゃ、ないわよ。わざわざ読み上げないで」
そう言って麗さんは胸の前に画面を隠すようにしてスマホを戻すと、僕から顔を背ける。
そのまま恥ずかしそうに呟いた。
「こういうの、参考にした方が男の人は嬉しいのかなって思ったの」
「なるほどねぇ……」
「なんでそんなにしみじみした言い方してくんのよ。……どうだったの?」
納得が強く出てしまい、麗さんにも突っ込まれてしまう。……にしても、どうだったの、って聞かれてもなあ。
「なんか、違和感があった気がするかな」
何を答えるべきか分からなくて、こんなふんわりとした回答しか出来ない。
だけれど麗さんはそのことに文句があるらしいのだった。
ツンデレロリ美少女になりたい




