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急に人が変わるとびっくりするよね

「……いや、仲直りできたのは良かったんだけどね。なんで、あんな事までやっちゃう事になったんだろう」


 麗さんが、情事の後……いや、この表現は違うんじゃなかろうか?

 とにかく、キスをした麗さんが風のように素早く部屋を去ってから、僕は一人でそう呟く。


「……可愛かった、ドキドキしたって言うのはあるけどね」


 実際、しばらくの間ぼーっとしてしまって、意識が飛んでいた気さえするので相当だ。


「……まあ、朝までは風邪気味だったし、きっとそれのせいだって」


 何にかは分からないけれどそうやって言い訳をすると心が落ち着く。独り言は偉大だ。


「言い訳って分かって言ってるのに落ち着くんだから大したもんだよね」


 そう言って一人で開き直って笑う。

 そうやって言い訳をしている事を自覚すると、いくらでも現実を受け入れられる気がして軽い気持ちで心の整理をしようとする。


「しちゃったものは仕方ないよ。キスだって……恋だって。……なんだ、この小っ恥ずかしい言葉? 自分で言ってて面白いな」


 上手いこと言ってやった感が妙に間抜けで、自分で言ってまた軽く吹き出してしまう。


 ……まあ、事実として、しちゃったものは戻らないから仕方ない。笑って受け入れるくらいしないとやってられないのだ。

 ……それに、麗さんが僕に好意を向けてくれた事が嬉しくないなんて、あるわけないしね。


「エリスになんて言おうかなあ……。すっごいへそを曲げられそう。……なに言われるか、想像もつかないや」


 ま、なるようになるか。……なるのかなあ?


 そう思ってから、エリスへの言い分を考えようと思考を整理し出す。


「……とりあえず、何言っても言い訳だし正直に言うしかないよね。この期に及んで嫌われるのを恐れてたら、こんな超常的で常識外れな環境でやってけない。……わがままに、振る舞おう」


 僕はどうなってもいいから、エリスも麗さんも幸せに生きられればそれでいいんだ。

 だから、それを目的にしながらも、自分らしく生きられるようにする。それがこれから僕が考えるべき事だ。……この思考、クズじゃない?


 しばらく堂々巡りの考えをして、最終的に僕が『どうにでもなあれ』の精神を心に決めた時、リビングに人が入ってくる。如月さんだ。


「奈月くん。ただいま、ですよ」

「あ、お帰りなさい」


 そういえば如月さん、買い物に行ってたな、と思い時計を見るともう、時刻は六時半を示していた。

 如月さんが出かけたのが四時ごろだから、結構時間が空いたな、なんて思う。


「麗様と何か話されました? 何か酷く焦ったように、うちに入って行ったので何か伝えたい事でもあったのかなと思ったんですが」

「あ、えっと、その、昨日は色々とトラブルがあったので二人でその事について話してました」


 嘘は言っていないけれど、どうやって話したものか考えて言葉に詰まってしまう。

 それを見て僕が何か隠しているのを悟ったのか、何やら納得したように如月さんは頷く。


「なるほど……。覗き見るのも失礼だと思ったので、見ていないのですが、その様子だと何か見られたくない事があったんですね。……撮影した動画は消しておきましょうか」

「え、何言ってるんです……?」

「まあ、些末な事ですよ。私の趣味ですから」


 何やら不穏な気配がするが本人が明言する気は無いみたいなのでそれ以上追求するのはやめておく。……まあ、別に不都合もないし大丈夫だろう。趣味らしいし、うん、きっとそうだ。


「もう時間もちょうどいいですから、そろそろご飯にしましょうか。今から準備しますね」


 そういうと如月さんは台所に入り、淡々と作業を始めながら、僕に言ってきた。


「そうそう、麗様を良ければ呼んできて下さい。先程は思い詰めていらっしゃるような表情だったので、来てくださるか不安に思ってしまうので」


 ……ついさっき結構気まずい話をしたばっかなんだけどなあ。

 なんて思いながらも、僕は言われるがままに玄関の方へと向かうのだった。


 *


 如月さんの調理は手際がいい。三十分もしないうちに焼き魚と、サラダ、あとはよくわからないおしゃれなスープがテーブルの上に並ぶ。


 いつものごとく麗さんも含めて三人でテーブルを囲みながら、僕たちは夕食を食べ始めた。


「よかったですね。一週間で友人が出来るのなら、馴染むのなんてすぐですよ」

「ま、ほとんど奈月のお陰だけど、話せる相手がいたのは気が楽よ」

「ちょっと不安だったんですよね。奈月様、今日は風邪で休む事になってしまって。麗様が何事もなく過ごせたっていうのならこれからも安心です」

「そうよ別に奈月と一緒じゃなくたって平気なの。朝はちょっと心配したんだから、連絡も返ってこないし。……風邪気味なんだったらそう言ってくれればよかったのに」


 そう言って、麗さんはこちらを横目でみながらいう。

 し、仕方ないじゃん。朝は寝てたんだから。


 に、しても今日は麗さんやたら喋るな……。

 ……さっきまであんなに元気なさげだったのに、納得いかない。


 夕食前に呼び出した時なんて『今行くわ』とだけ平坦な口調で言う以外、何も話さなかったのに……なぜここまで楽しそうに食事をしているのだろうか。

 横に座っているこちらにはほとんど目を向けて来ず、如月さんと話しながら時折今みたいに意味深に視線をよこす。


 麗さんが並外れて機嫌がいいのを見て如月さんも不思議そうにこちらを一瞥してくる。

 僕はそれに首をかしげるしかなくて、それを見た如月さんはおかしそうに笑うと、また麗さんと会話を始める。


 ……まあ、笑ってる麗さんは可愛らしいし、気にしなくていいや、なんて思いつつ僕は一人空気に置いてかれるように黙々と食事を進めていった。


 *


 食事の後、いつものように麗さんとリビングを占有するようにしてゲームをする事になる。


 ……毎日のことではあるけれど、今日は夕方の出来事もあってどうしても麗さんの事を意識してしまう。


 逆に麗さんは何も気にしてないといわんばかりに薄く笑みを浮かべている。

 けれどやはり僕とは顔を合わせようとはしないで、たまに様子をチラリと伺ってくるだけ。……どうやって振る舞えば良いんだろう?


 困った僕は口実を持って麗さんに話しかける。


「えっと、麗さん。何かしたいゲームない?」

「いつもので良いわよ」

「……え、う、うん」


 ノータイムでの返事。まさか、そんな一瞬で言葉を返されるとは思わず、気圧されてしまう。

 ……なんだろう、僕と会話する時間を短くしたいなんていう気概さえ感じさせてくる。


 とはいえ、僕は言われた通りにしようとゲームを起動する。昼にやったばかりなのでソフトがそのまま入ったままのはずだ。

 ……というか、何をトチ狂ったのか夕方麗さんの前でこのゲームやったのを思い出してしまって、それに付随する出来事が頭をよぎり顔が熱くなった。それを誤魔化そうと独り言をこぼしてみる。


「……ぷしゅ〜」

「ん、何言ってるの?」


 ……僕が熱くなった顔を誤魔化そうと、オーバーヒートしたロボットみたいな音を冗談交じりに口から出したのを麗さんに聞かれてしまう。

 さらに熱が帯びたような錯覚をしてしまって、僕は動きを一瞬止めると、すぐに気を取り直してコントローラを二つ繋いで慌てながらも麗さんに片方を渡す。

 そのまま麗さんから少し離れてソファに座り、ゲームが起動するのを待つ。


 心を落ち着かせようと、胸をものすごい勢いで叩く。……ちょっと痛い。

 落ち着いてきたなんて思った頃、麗さんの方をちらっと見る。……なぜか、座る位置を少しずつ直してこちらへと近付いてくる。


「よいしょ……」


 それだけ行って距離を詰めると、僕に何か語りかけるでもなく、ただ画面の方を見ながらゲームの起動を楽しそうに待っている。


(……なんなの!? 楽しそうにしてはいるけど、なぜか僕とほとんど話をしてくれないんだけど!?)


 いや、話しかけて欲しいって思ってるわけじゃないんだけど。……当然、思ってないわけでもないんだけど。

 でも、何の話をしないのも普段の関係からして違和感があって、僕はその寂しさというか、手持ちぶさたな現状もあって麗さんに話しかける。


「……ま、毎回思うけど起動、遅いよね! なんかこのゲーム、ダウンロード版の方がなんでか遅いみたいなんだ!」

「ふーん」


 そう、一言だけ言うと麗さんは僕から目を離す。……なんだろう、退屈なんだろうかと不安になってしまう。


 そんな時、麗さんが急に声をかけてくる。


「ねえねえ、このゲーム、オンラインでチーム戦出来るんでしょ? たまには一緒にそういうのやりましょ」

「う、うん」


 唐突な提案だったけれど、別に拒否する理由も無いので受け入れてオンラインへと潜る。……やたらと緊張する頭はオンラインに潜るって表現が正しいのか、なんてくだらない事を考え始めた。


 そんな時に、麗さんが急に独り言をこぼす。


「ふふ、奈月と一緒なんて楽しみ!」

「ばひゅ……!?」


 麗さんが壊れた!?


 口から、自分でさえどう鳴らしたか分からない音を吹かせながらそんな事を思ってしまう。


 しかし、そんな僕の反応はよそに、麗さんは態度を変えずに、にこにこと笑顔で答えてくる。


「……あの、その、麗さん」

「なによ? ほら、一緒にやりましょ?」

「……えっと、その、あの」

「ほら、ここからオンラインで二人プレイできるみたいよ」


 この人、どこかですり替わってないですか!? すっげえ笑顔なんすけど!? 誰!?


 ……そんな事を思いながら、僕が無言のままゲームが始まる。

 麗さんはいつものピンク玉、僕はそれじゃない方のピンク玉を使いゲームを始める。


 一戦目は僕が浮き足立った状態にも関わらずあっさりと勝ってしまう。……正直、負けた方が自分としては精神の安定が図れた気さえする。


「やっぱり、奈月って強いのね!」

「……い、いや、今のは別に相手が……」


 ……なんというか、麗さんらしくない。


 素直なのは麗さんらしいと言えばそうなのだけど、こんなに表情が楽しげではない気がする……。


 もちろん、僕は麗さんが笑った顔というのはある種尊いとさえ思ってはいるけど、なんというか……らしくない。少し、無茶をしている気がする。

いつも3000字近くなのに気付いたらここだけ4000字書いてた

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