私なりの仲直り
「むむむ、これは不機嫌な奈月くん……」
「何してるのよ、如月……」
私が下校して、マンションに着いた時、部屋の前では買い物帰りと思わしき如月が部屋の前で手元の何かを見ながら何事か唸っていた。
言葉を聞いた如月はすぐにこちらを向いてくる。
私の事を認識すると咳払いを一つして、いま言っていたことを無かったことにしようと仕切り直す。
「お帰りなさいませ。麗様」
如月はそうやって誤魔化す言葉を並べる。
しかし、私が怪訝に思う気持ちが顔に出ていたのだろう、如月は結局諦めたのか自分の手元にある物を見せてくる。
如月が手に持っていたのは携帯だった。しかし、そのことは重要ではなく、どちらかといえば大事な事はその画面に映るもの……というか、人物だった。
『……考えてゲームしろよ。馬鹿』
画面の中には一人、リビングでいつものゲームでオンライン対戦をしながら、そう冷たく吐き捨てる奈月の姿があった。
しかし、どうにも普段と様子が違っているのが見て取れる。
あいつはゲームをする時には基本的に呑気というか、軽い喋りを交えたりしていて、あまり勝ちにこだわっているような節はない。
相手のプレイを吟味して、それに応えるような、対話をするような楽しげなプレイをする。それがあいつのプレイスタイルだ
だから負けてもあいつとプレイするゲームは楽しくて、そして綺麗だと感じさせられる。
ところが画面の中のあいつはとてもつまらなさそうに、ただキャラの強みを押し付けて、作業的に勝つ……きっと、普段のあいつのプレイスタイルからすれば、遊びの無い、つまらないプレイングでゲームをやっていた。
「……退屈そうね。いつもと違って、楽しくなさそう」
私は画面を見て、素直に思った事を如月に伝える。
その言葉に如月も同意したのか、肯定の言葉を返してくる。
「そうなんですよ。奈月様、いつもは『ゲームはどれだけ楽しめるかが大事なんです』って言ってて笑顔でやってるんですけど、不機嫌だと、やってる時の態度が露骨に悪くなるんです」
「……詳しいわね。って言ってもいつも一緒にいるんだし分かるか……」
私は如月の見せてくる動画を見ながらそう呟く。
画面の中の奈月は、勝負に勝ったにもかかわらず、そのリザルトを見ながら退屈そうにため息をついていた。
『……相手に馬鹿なんて言える立場なのかって話だけどね。僕のやってる事って物に当たるクソガキと変わりないわけだし。……ほんと、最低』
そう言っていった奈月は再び退屈そうに画面に向き直ると、新しい対戦を始める。
その瞬間、如月が何か喋り出す。
「むむむ、なぜでしょうか……? 奈月様はまた急にこじらせてしまったのでしょう……」
「こじらせるって、変な表現するわね……」
……呑気に答えたけれど、原因は明らかだろう。
(なんで、私なんかのことであいつが悩まなきゃいけないんだろ……)
そうやって考えて、どうしたらあいつが悩むのをやめてくれるのか考えてしまう。
(……ごめんなさいって言って、それで許されるのかしら……? でも……私なら絶対納得できないし)
一方的に相手を罵倒しておいて、次の日に『許して』なんて相手を舐めているとしか思えない。
だけど、言うしかないのだとも思う。
(こんな事、普通は何も考えずに謝るべきだと思う……)
友達が少ないという事の弊害を感じる。
きっと、友達が多い人なら仲違いしても、気にせず距離を置くか、気にせずすぐに仲直りが出来るのだと思う。
……けれど、私は失う事も、近づく事も嫌だからどっちだって出来ない。
(ああ、そうか。怖いのね、私)
心の中で思うと、急に納得がいく。
(……奈月がいい奴なんてわかりきった事で、一緒にいると安心するからそばにいたい。だけど、近付いて迷惑を掛けたくもない、嫌がられたくない)
……すっごく自分勝手。自分の利益しか考えてないじゃない。
私が傷つきたくないなんて浅ましい考えでしかない。
(……ほんと、最低、だけど)
なんとなく、それを思うと自分勝手に謝れるような気がしてきた。
(私が奈月を傷付けたんだから。じゃあ、あいつにだって私を攻撃する権利があるはず。どうせお飾りの婚約者なんて立場、捨ててしまえばいいのよ)
……そっちのほうがあいつの為になる。
性格も悪くて、能力も何も無い私なんて、あいつから離れた方がいいに決まってるんだ。
そう決心した直後、如月に私から提案する。
「ねえ、如月?」
彼女は難しそうな顔をしながら考え込んでいたみたいだったのだけれど、私の声を聞くと慌てて答えてくる。
「な、なんでしょうか」
「……大した事じゃ無いんだけど」
嘘だ。手を当てなくてもそう言った自分の心臓がせわしなく動いて、今からやろうとしている事に緊張しているのがわかる
「しばらく、私と奈月、ふたりきりにしてくれないかしら?」
そう言って、私は奈月に嫌われようと一歩を踏み出した。




