後悔だけなら得意なのに
私は人と仲直りをした経験なんて、ない。
そもそも友達なんておらず、仲直りをする相手がいなかったからだ。
必要以上には喋らないし、口も悪い、何か面白い話ができるわけでもない。人の話を聞くための能力だって不足している。
さらに相手を不快と思えばそこを隠さず相手に伝えてしまう。
別に友達なんて必要ない……というよりいないことに慣れてしまっている。
だって、中学生の時までは周囲の連中がこちらの背が低いのを馬鹿にしてきたり、家のことで嫌味を散々言ってくるような連中しかいなかった。
だから別に、仲良くなる必要なんてなかった。
……ううん、そう思いたかっただけ。
一人でも寂しくないって言い聞かせるのが一番楽だっただけだ。
自分から周りに歩み寄るのが苦手なだけだ。
……もっと、人の事を考えるべきだったんでしょうね。
私はそんな風に自分を省みて、教室の席に着いたままぼんやりと考える。
となりの席を見る。
まだ、奈月の姿は見えない。
始業までは残り五分ほど、いつもなら既に登校している時間だ。
私は一人で不安になってそのまま下を向いて携帯を覗く。
奈月からの連絡は何もない。
……私のせいだ。
そう思って奈月に何かメッセージを送ろうとするけれど、文字を打ち込む手が震えてしまって結局送れない。
そして、そんな事を繰り返していると時間はいつのまにか過ぎて始業のベルが鳴り、担任の緋坂先生が入ってくる。
「ホームルームを始めるので席について下さい」
そう先生が言い、今日もいつもと同じ一日が始まった。
……奈月が隣にいない事を除いて、だけど。
*
「あれ、桜だけ? 坂川、いないんだ。風邪とか?」
時間は過ぎて昼休み。
空き教室で楓……霜切楓と二人で昼食を食べようとすると、彼女にそんな事を聞かれる。
どうでもいいけど、『桜』なんて呼ばれ方、今までされた事はないから、初めは自分の事だと気付かなかった。
「……分からないわ」
私は彼女がこちらを覗き込んで来るのに対して、視線を逸らしてそう言った。
実際、奈月から休む理由を聞いたわけではないから完全には嘘ではない。
けど……昨日の事が関係しているのは確かだろうから、それを誤魔化したかったのだと思う。
だけど、楓はそんな様子を見て私が隠し事をしているのを見抜いたみたいで。
「ふーん……何かあったんだ。……いや、桜さ、隠し事下手すぎない? 坂川に負けず劣らずなんだけど……」
「いや、別に、何も無い、って言ったじゃない」
「すっごいカタコトだよね……。いつもと態度違って面白すぎでしょ」
……これはこの子が鋭いのか、それとも、私がわかりやすいのかどっちなんだろうか……。
そんな事を思っていると、好奇心たっぷりに楓はからかうような口調で聞いてくる。
「なになに? 坂川に何かされたの? それとも麗が何か言っちゃったとか? 喧嘩して怪我させたとか?」
……ほとんど全部、当たっている。
奈月に告白されて、私が罵倒して、あいつを殴ったんだから。
でも私は、それに首を縦に振るのも何か怖くて、黙ってしまった。
しばらく、私たちの間に音が消え、隣の校舎から入ってくる生徒たちの声だけが空き教室に響き渡った。
私は喋りたく無い一心で口に物を詰め込む。
そのせいで喉に思いっきり如月の手作り弁当が詰まった。
慌てて水筒まで手を伸ばし、お茶で食べ物を流し込む。
「……大丈夫?」
その様子を見た楓が私のことを心配そうに見ながら言った。
私はそれに完全に喉の詰まりが収まってから無言でこくりと頷く。
楓はその様子を見て楽しそうに何事か笑い出す。
「ふふ、坂川とそっくりね。意地はって誤魔化そうとして、その上で隠せないって」
「……心配してるのか馬鹿にしてるのかはっきりして欲しいわ」
「いやいや、ごめんって。別に嫌味とかじゃ無いって。ただ、きっと仲良いんだろうなって思うとおかしくなって」
笑顔を浮かべたままに、楓はあっけらかんとそうやって言ってきた。
私はそれを肯定していいのか分からず、自分が思うところを伝えた。
「仲なんて良く無いわよ。ただ、婚約者だからってだけ。楓だって、あいつがいい奴なんて事分かってるでしょ。……それだけ」
「そう? 坂川って、嫌いなものは思いっきり跳ね除けてると思うけどな。昼休みの桜への態度とかとても会って一週間とは思えないけど」
「だって、婚約者って立場上優しく振る舞うなんてあたりまえでしょう。私があいつに好かれるなんてあり得ないもの」
そんな事を言っても、意に介した様子もなくあっさりした様子で続けて来る。
「ま、桜がそう思ってるならいいけどね」
「分かったらいいのよ。……これは、あいつと私の問題……ううん、私だけの問題なんだから」
そう言うと、感心したような、驚いたような声を出される。
「ふ〜ん、なるほどねぇ。……桜って素直じゃ無さすぎて、逆に分かりやすくなってるよね」
「……何言ってるのかしら? はっきり言ってちょうだい」
私の考えることとは別のことに納得するように楓が言ってくるものだから私も思わず聞き返してしまう。
楓はその言葉に対して自分の言いたい事を言ってくる。
「じゃあ、言うけどさ。桜、坂川の事、大好きでしょ?」
「は、はあ!? そんなこと、別に……」
そこまで言ってからこれ以上言うと、奈月の事を否定する事になるなんて考えてしまって、何も言えなくなってしまう。
そんな私を見て、楓はひとしきり笑ってから、忠告みたいに気取って語りかけてきた。
「好きなんだったら、自分から言わないと坂川は認識しないよ。……いくら、仲が良くたって、絶対に」
そう言って楓が話を終えた後は、何事も無かったみたいに楓は別の話を始める。
私は、楓に言い返すタイミングも失ってしまいそのまま、時間はあっという間に過ぎ去っていった。




