先輩が嫌いな先輩が好き
「ハーレムでも、逆ハーレムでもものって個人的には良いのと悪いのが極端に別れると思うんですよ。盲目的に全肯定するヒロインとか、無責任な主人公とかだと一気に冷めちゃいますから」
「惚れるのに説得力のある主人公だと読んでて楽しいというか、自分もその主人公が好きになっちゃうくらいだと良いよね」
「そうなんですよ! かっこいい主人公とか、どこか憎めない小悪党的な主人公とか、そういう描写が出来てると読みがいがありますよね!」
本屋の駐輪場で男女が二人、周りの目を忘れて夢中になってライトノベルの話をしている。
……いや、喫茶店とかゆっくり話せる場所でも寄るべきだとは思うんだけど、異様に彼女の話に熱がこもっているせいで割り込むのもなんだか悪いと思ってしまうのだ。
「それで言うんですよ。『俺はお前を守るつもりなんてねえから、自分の身は自分で守れよ』って、そんな事言いつつもヒロインを庇って思いっ切り怪我しちゃって……と、ここから先はネタバレですね。いやでも、これだけは言いたいんですけど、ヒロインが今言った主人公のセリフを奪って、『私があなたを守る事が自衛なの』なんて暴論振りかざすところ……好きです」
さっきから楽しそうな表情と、話す物語の内容に合わせてころころと変わる口調でマシンガントークを続ける彼女。
……ライトノベルに対する愛が高い事が伝わってくる。
そんな彼女もこちらを立たせたままに話を聞かせているなんて思ったのか、ハッとして申し訳なさそうな態度になって言ってくる。
「……あ、ごめんなさい先輩。私ばっかり喋ってしまって。どうしても私、喋る相手がいないから……喋れると、ついたくさん」
「いや、全然問題ないよ。僕も話す相手なんていないし、たまに喋るとそうなっちゃうよね」
他のぼっちな人がどうかは知らないけれど、僕は喋りたがりな方だと思う。
現にエリスとはよく一晩中いろんな話をしてたわけだし、警戒心が強い代わりに普段溜め込んだ物が少ない機会に全部出てしまうのだ。
なので彼女の気持ちはわからないでもない。
しかし、彼女はそんな僕の言葉に納得が行かなかったらしく……。
「……え、でも先輩。よく女の人と話してるじゃないですか。最近だと、教室でも図書室でも、転校生の小さな女の先輩とよく話してますよね? 昼休みはその人に加えて、背の高い綺麗な先輩と食べてるし……」
「まあそうなんだけど、あの子たち以外とは全然話さないからさ。話す機会が人より少ないのは確かだよ」
僕はそうやって彼女の疑問にのんびりと返答を返してから、ふと違和感を持つ。
…………昼休み? 教室?
え? なんでこの子、そんなこと知ってんの……?
この一週間、図書室以外で細野さんと話した覚えは無い。
つまり、彼女が僕の図書室以外での動向を知るはずがないと思うんだけど……。
そう僕が思っていると、彼女は僕の思考を読んだのか、笑顔で言葉を返してくる。
「あ、私購買に行く時にたまたま先輩の教室が見えちゃうんです。……だから、しょうがないですよね?」
「そ、そう、だね」
……なんて言ってくるけれど、僕達の教室は完全に端っこにあって階段も遠いから、クラスメイト以外は間違いなく近くを通ることなんてないのだけど……。
しかし、彼女の迫力に敵わず、僕は無言で首を縦に振って彼女の言葉を肯定するのみ。
……いつも図書室にいる時はすっごい大人しいのに、なんで違う場所だとこんな妙な迫力があるんだろうか?
「先輩、立たせたままだしそろそろ申し訳ないですから、そろそろ行きますね」
「あ、別に気にしなくても……」
「ううん、気にします。だって、好きな人に不快な思いをさせるなんて嫌ですもん」
「好き、なんて……」
なんでそんな気軽に言えるんだろうか。
……いや、彼女が何を思っているか決めつけるのは良く無いか。
実際には重い気持ちを抱えているかもしれないし、ただの方便かもしれない。言葉だけが真実なんて考えるのは短絡的だ。
彼女は僕に言葉の続きを話させようと促してきた。
「好きなんて……なんですか?」
「好きなんて、僕に向ける言葉じゃない」
それに対して僕は正直に思う事を返す。
……人に好かれるような人間じゃないのだ、僕は。
きっといつも以上にネガティブだとは思うけれど、自分の気持ちも満足に伝えられないくせに、勝手にどんどんいろんな人の事を好きになってしまうなんておかしい話だ。
……嫌いな人間も多いくせに、依存できると分かった人にはおんぶにだっこ。
そのくせ、自分の感謝も感情も伝えない。……嫌われるべきだろう、こんなの。
結局、僕は自分勝手の化身でしかない。
だから、僕を好きなんて言って欲しくなくて、今みたいな言葉が出てしまった。
……でも、そんな言葉に彼女は違う感想を持ったみたいだ。
「ああ尊いです。先輩のその面倒くささと、その恐がりなところ……それなのに、たまに無鉄砲なところ、凄い魅力的です」
そうやって彼女はうっとりと悦に入るようにゆったりと言ってきた。
けれど、僕からすればそんな言葉に納得できるはずもない。
ただ彼女に聞き返すだけしか出来ない。
「……それって、どういう意味なの?」
「そうですよね。先輩は自分のやった行為が全部自分のためだと思ってるんですもんね。……言葉だけを聞いたらとっても自分勝手、だけどそれは自分に課した異常に重い心の鎖」
聞いた言葉にはまるで関係なく、意味の通じない詩みたいな意味不明な言葉を目の前の後輩は返してくる。
その言葉に返そうとしたけれど……。
「……ええっと、何を言ってる、の?」
「先輩がやった事をどう思おうが関係なくて、先輩の行動に救われた後輩の女の子はいるって事ですね! じゃ、私、意味深な言葉だけ残して帰ります! ではでは!」
しかし、ここに来て彼女はさっきまでぐだぐだと喋っていたのが嘘のように、さっさと自転車に跨ると、すぐに本屋の駐輪場を出て自転車を漕ぎ出す。
……あっけらかんとした僕は負の思考も忘れてその場にしばらく立ち尽くすことになった。
更新遅れるマン




