絶望だってひとりきり
現実感がないって多分こういう事を言うんだなと僕はエリスとの会話を終えてから実感する。
さっきまで当たり前のように話していた彼女が、今この世界に存在しない。
妄想から現実に引き戻され心がぽっかりと空くような空虚感と、エリスと話せた満足感が拮抗しているみたいで不思議な感覚だ。
「……良かった、無事で」
会話を終えてまず最初に思ったのはその事だった。
異世界、それもモンスターが居て、人間以外に種族もいるらしいような世界。
彼女がそんな世界で僕と会話する余裕がある、そんな生活が送れている事に安堵する。
「……でも、考えれば細かい事全然話さなかったな。もっと話すべきだったと思うのに。なんでか言葉が出てこなかったな」
僕たちは友達こそ少ないけれど、その分喋りたいと思うことは二人で夜通し話すくらいには会話は好きだった。
いつもなら、どうでも良いようなこともずっと話すくらいなのに、なんでか急に会話が終わってしまった。
なんて僕が思っていると、頭の中に声が響くような感覚がする。
音は無いはずなのに、声が聞こえるなんて奇妙な状態。
『それはね、私があなたの思考を誘導して、能力に時間制限を設けてるからだよ』
……今日の昼、聞いた声だ。
「……なんの用?」
僕はその声の主、つまりはクソ女神に警戒心丸出しで声をかける。
『わ、敵意剥き出し。最近の若い子は怖いね〜』
「……用件と状況だけ伝えてくれないかな?」
僕はその言葉を無視して、ただ必要な事だけを喋らせようとする。
『はいはい、まず一点目。分かると思うけど、私が君を見る事、語りかける事ができるようにしておいた。ま、これが出来ないと能力をどんな風に使ってるか観察出来ないからね』
「プライバシーも何もあったもんじゃないな……」
『神様だからね。安心してよ、別に君そのものに興味なんてないから』
「で、ほかの話は?」
『うん、二つ目が、君の能力に制限が掛かってるって話だ。……実は君の能力、君に掛かる負荷が結構高くなってる。もしも死んでしまうような事があれば、あの女一人じゃ魔王退治なんて当然やりようもないから止めさせてもらったよ』
「制限が掛かってるのを後付けで言うなんて、詐欺みたいなやり口だな……」
『君の善意に付け込んだのは認めるよ』
悪びれる様子もなく、クソ女神はそうやって言ってくる。
『とにかく、君が危ないと思えばすぐに私は会話を止める。……可能な限り、君たちの意に沿った形にはした方が結果が良いからそうするけど、場合によっては無理矢理にだ』
「……まあ、僕も無駄死にしたくはないから、助かるけど」
『そうだろうね。じゃあ今日はここで、また何かあればこうして話す事になるかもしれない』
「……もう二度と話さない事を願ってるよ」
『叶わないだろうけどね。じゃ、さようなら』
そうやって女神が言うと脳内の声は止む。
「……制限があるなんて当然か。結局、会話するための能力じゃ無くて、ただ事務的にエリスを強化して欲しいってだけなんだから」
まるで都合のいいゲームのNPCみたいな扱われれ方だ。
きっと、RPGなら真っ先に先頭で盾にされるタイプの人間だろう。
「……僕がもっとまともだったら、違ったのかな」
きっとエリスは悩まず相談してくれたし、もっと僕たちに都合のいい解決策が見つかったのかもしれない。
……ありえない仮定だし、それは実現しないなんて知ってるけど、僕たちはもっとたくさん友達が居たのかもしれない。
「なんで、こうなっちゃったんだろうね」
僕は意味のない思考を繰り返すばかりの僕に自嘲してからベッドに倒れこむ。
「……なんか、眠いな」
……さっきまでは感じられなかった疲れが急に僕に押し寄せてきて、眠気に勝てなくなってしまう。
「……眠ったら、僕の都合のいい世界になってればいいのに」
エリスはこっちの世界に戻って如月さんと暮らしてて、僕は隣の部屋になぜかいて。
反対側の部屋には麗さんが居て。
三人で仲良くゲームしたり、なんなら一緒にどこか遊びに行ったりして。
学校だと三人で呑気に後先なんて考えずのんびりするんだ。
「……ほんと、僕にだけ都合がいいね」
……二人とも、素直で優しくて正直で、美人で。ちょっとあざとくて。
エリスはどんな事を話しても許してくれるゆるさがあって。
麗さんは僕の言動にいちいち全力で突っ込んでくれる律儀さがあって。
きっと二人ともが好きになってしまったのだから。
「……不純、だなあ。最低、だなあ」
自分が何かを肯定できない事が嫌だ。
自身で正しさを認められない事が嫌だ。
……だから、自分の事を認めてくれる人が好きなだけ。
結局、彼女達は僕にとってそれをしてくれるだけの都合のいい人でしかない。
そう思うと、自分の事が本当に嫌いになってしまって。
僕は布団をかぶってその考えから身を守るように丸まって、怯えた体を震えさせる。
「……なんで、エリスの運命が微笑んだのは僕なんだろう」
……もう何度目か分からない疑問と、与えられた役割のプレッシャーに負けそうになって。
僕はそのまま、勝手に恐怖を味わいながら夢の世界に逃げようとそのまま目を閉じた。




