懺悔を聴くには向かないひと
僕が話を終えると麗さんはまず真っ先に説明を求めてくる。
「……分からないから、まず何があったのか言ってもらっていいかしら?」
「……うん、分かった」
僕は気絶していた時にあった出来事を話す。
自称女神に会ったこと。
エリスがなぜ消えたかということ。
クソ女神に頼まれたこと。
……僕がエリスと話せるようになったらしいということ。
それら全てを聞いた麗さんは口元を歪めながら答えてきた。
「話が出来過ぎな気がするんだけど……」
もっともである。なんなら僕だってそう思う。
僕は彼女の言葉を聞いて頷く。
しかし、彼女はその話が本当であるかどうかの前に聞きたいことがあるみたいだった。
「まず聞きたいのは、なんであんたが私に謝る必要があるのかって事よ。……どうして、あんたがエリスと会話できて、私に悪いなんて思うのよ」
「……だって、常識的に考えて人が消えるなんてあり得ない。そんな妄想をするだけならいざ知らず、協力までさせて……」
「……でも、それは私が申し出た事じゃない」
「……うん、だけどそれってきっと小説っていう繋がりがあるからだよね。……この話は、本当に麗さんは関係ない、赤の他人を大好きだって話を聞かされてるだけ。……それってすごく不純じゃない?」
僕はそうやって言いたい事をまとめて麗さんに雪崩れ込ませるように喋る。
でも、そんな僕の言葉が彼女は気に食わなかったみたいだ。
「……不純、ね。……別に、奈月が小説の中のキャラクターに不純な気持ちであの言葉を書いたって主張するならいいんだけど」
「……っそんなわけ!」
「分かってるわよ。あんたはあれを大真面目に書いた。自分の言葉で書き殴ってあの子に伝えたかった」
「…………」
僕は黙って麗さんの言葉を聞く。
彼女は
「私、前にも言ったけど奈月の事は嫌いじゃない。……ううん、好きよ。不器用ながらに何かしようとする姿、大好き」
「……そんなに庇わなくたって」
「そういう風に、自分を守ろうとしてるのを見て、とてつもなく愛おしいって思うの」
「……別に、そんなつもりなんて」
そこまで言って急に麗さんは話を変える。
「私ね、あまのじゃくなの」
僕はその言葉を聞いて彼女が何を言いたいか理解できず固まってしまった。
そんな僕の様子を見て満足げに笑うとそのまま、喋る。
「他人の困っている様子を見ると安心する。だってそれって人らしさを象徴してるから」
「……えっと」
「安易な優しい言葉に最大限の警戒を向ける。だってそれは私に歩み寄っていない事の証明だと思うから」
「…………」
「他人に冷たくする姿に一番優しさを感じてしまう。だって私だってそうやって生きたいもの」
「……うん」
「だからね、私……きっと嬉しかったんだと思う。……あんたが、私じゃない誰かを好きであってくれた事に」
彼女の言葉が意図するところを完全に理解できたわけではない。
だけど、確かな事として一般的に見れば彼女は歪んだ考え方をしていると感じた。
「婚約者……なんて聞かされた時どうしようかと思ったの。だって、怖いじゃない。私の価値の無さを示されているみたいで。私には家以外の魅力なんて無いんだって、はっきりと示された気がして」
「……それは僕も同じだよ」
「そうね、それは運が良かったかもね」
そう言って自虐的に吐き捨てるように笑う麗さん。
僕は笑うことも出来ず、黙って麗さんの言葉を待つ。
「……きっと、覚えて無いでしょうけど……ううん、覚えて無いに決まっているけど。私、あんたと二年前に会ってるの」
「……そうだね。だって……」
「今のあんたと、過去のあんたは別存在。当然覚えてるはずがないわよね。……ま、ひょっとしたら、そうでなくても覚えてないかもしれないけど」
「……え? それはなんで……?」
「そんなのどうでも良いわよ。私の黒歴史を喋るつもりなんてないし」
そう言いながらも微笑んで胸に手を当てて、とてもではないが黒歴史に想いを馳せているとは思えない麗さん。
「……私は、坂川奈月が好きな人のために奔走出来る人間であることが好きなの。……矛盾みたいだと思うけどね」
僕は黙って麗さんの独白を聞いていた。
ただ、目の前で座って喋る彼女をじっと見つめ続け、首を縦に振る。それをするだけ。
「……長くなったけど、奈月がエリスを好きなんてわかってる。だから、私に遠慮なんてせず、エリスと話してほしいの。奈月の気持ちが不純なんて訳ない。……なんなら、私の方が」
麗さんは聞いてほしいのか聞いて欲しくないのか、最後ギリギリ聞こえるくらいの声の大きさで締めて言う。
僕はそれを聞いて何を言うべきか考える。
……なんで、こんないい子が僕の婚約者なんだろう?
麗さんは僕がなんて返すか気になるのか、じっと目を見つめてくる。
とても可愛らしく、強い人だと思う。
でもそんな彼女の言葉を聞いて僕は困っていた。
……こういう時に、僕はどうするべきなんだろうか?
……なんで僕は後先を考えない行動が出来ないんだろう。
もっと、考える前に行動出来たらエリスから、何か聞き出すことも出来たんじゃないか。
きっと、目の前の麗さんに、『ありがとう』まんてただ一言伝える事ができるはずなんだ。
……でもそんな事すら出来なくて、僕が正しく伝えるべき言葉は迷子になっていた。
「……ごめん、麗さん」
気づけば僕の口からは謝罪の言葉が出ていて、それを聞いた麗さんは思わずと言ったように息を吐き大笑いする。
「ふふ! ふふふ、はは、あはは! ああ本当に奈月って不器用でバカみたい!」
「……どうしたの、突然」
「自覚してないなんてほんとバカ。……好きよ、そういう人」
ひとしきりけらけら笑って言うと麗さんは、何かを思いついたようにこちらに言ってきた。
「いいわ、あんたがエリスと会話する出来るようになった事で私に負い目を覚えるんなら……」
そこで溜めるように間を空けて、
「あんたと、その子の会話に私も参加させなさい!」
そして、こちらを指差しながら言い放ったのだった。




