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まず人に電話なんてしないよね

 僕は麗さんの言葉の勢いに気圧されるままに、首を縦に振って、エリスと会話するとき、麗さんも混ぜる……なんて約束をしてしまった。


 僕の好きな人と僕の婚約者の会話……字面だけ見るとものすごい修羅場だね!


 ……これ麗さんが協力的じゃなかったら、色々まずい事になってんじゃ無いのかな……?


(まあ、そもそも麗さんが協力的じゃないとエリスと話せるように……なんてあり得なかっただろうけどね)


 だって、僕が神社に行く用事なんてないだろうし、あのクソ女神に会うことも、エリスが異世界転生したことも知りようがないのだ。


(ほんと、運だけで人間関係が成立してるよね、僕って)


 僕がこんな対人関係に消極的なのにそこそこまともに学校生活が送れているのは大体周りの人のおかげで。


(前まではエリスだって、霜切さんだって、司書さんだってそうだった。今は如月さんも、麗さんも、あと図書委員のロリコン、六角くんもそうだ。なんだったら妹が僕を慕ってくれてる事だって)


 僕は目の前の麗さんの事を見ながら、口元を緩める。

 麗さんはこちらのその様子を見て微笑みを向けてくる。


 そんな時、彼女が思い出したように聞いてきた。


「ねえ? そういえば、どうやったらエリスって子と話せるの? ……だって、異世界にいるんじゃないの?」


 僕はその言葉に答えようとクソ女神との会話を思い出し……


「あ」


 そしてある事に気付いて声を上げる。


「……いや、その呟き、気付いちゃいけない事に気付いたやつじゃない。まさかと思うんだけど……その会話する方法が分からないなんて話じゃないでしょうね」


 僕の感じた事を代弁するが如く、麗さんは僕に確認してくる。

 僕は図星を突かれた事にダメージを受けて軽くのけぞるように上体を反らす。さらに口からは呻き声が出た。


「……うっ」

「……まさか、本当にそうなの……?」

「うん……どうしよ、困った」

「いや、アホでしょあんた」


 返す言葉のないくらい直球に麗さんはそんな感想を返してきた、そのあとに続けて言ってくる。


「……とりあえず、思いつく限り何かしたらいいのかしら?」

「でも、どうしたらいいんだろ……想像もつかないんだけど……」

「私だってそうだけど……でも、きっとなんとかなるでしょ」


 そういって麗さんはあっけらかんと言い放つ。

 ……根拠のない自信を持つ、なんて僕はできないのでこうやって言えることがとても羨ましい。


 ちょうどそうやって僕たちの話に一段落がついた頃、玄関の扉が開いて声が聞こえてくる。


「ただいま帰りました〜。夕ご飯にしましょうか〜」


 そんな如月さんの帰宅を示す声と共に一旦僕たちの内緒話は閉じられた。


 *


「……ぬいぐるみよりこっちの選択肢の方が僕は好きなんだけど……」

「いや、常識的に考えなさいよ!? 誕生日プレゼントにダンベル渡されて喜ぶ子がいると思うの!?」

「この子大きくなりたくてトレーニングしてるって言ってたじゃん。だから、これがいいと思うんだ」

「……トレーニングのしすぎは身長が伸びなくなるわよ」

「……それ、実体験?」

「ど、どうかしらね?」


 そんな風に会話をしながら高校を舞台にしたギャルゲーを進めていく、僕と麗さん。

 ……夕食前に話していたことなんてすっかり無かったかのように、呑気に遊んでいるんだけど、考え込んでも仕方ないから……まあ、いいのかな?


 僕は後輩ヒロインを攻略しようとして、それに後ろから見た麗さんが色々と突っ込む感じだ。


「……ねえ、この女。体型はものすごくロリロリしいのに、なんで胸だけこんなに大きいのかしら?」

「……男の欲望のいいとこ取りしたからじゃない?」


 実際、このヒロインは童顔で小さな背丈なのに、アンバランスなほどに胸が大きい。


「ふーん、そうなの。奈月はこういう子が好きなんだ、へえ〜」

「その嫌味たっぷりなトーンはやめよ!? 違うって、この子ともう一人しか攻略してないキャラがいないからってだけ!」

「……本当のところはどうなのかしらね?」

「僕は六角くんとは違うんだ! 冤罪だ!」

「……あんたにそう言われるなんてあの男の評価、酷いわね」


 そんな事を言いながら、ぽちぽちと選択肢を選び、後輩ヒロインの誕生日を迎える。


『わぁ〜。お兄ちゃん先輩! 私がトレーニングしてるの、覚えててくれたんですね! とっても嬉しいです〜!』


 ゲーム画面ではダンベルをプレゼントした事により特殊イベントが発生して、主人公の腕に後輩ヒロインが胸を押し付け抱きしめるような一枚絵が表示される。


「あざといわね、この女」

「なんか魅力無いよね」

「……ゲームしてると結構辛辣よね、あんた」

「そうかな? いつもと一緒じゃない?」

「……いつもはもっと卑屈というか遠慮して発言するじゃない……」

「……まじ?」

「まじよ。……というか、言葉が結構乱雑というか乱暴というか、直接的になってるのよね」


 ……確かに、いつもは言葉に気を使って喋ろうとしているけど、ゲームしてると意識がそっちに向いちゃうのかな……?


 さてゲームの方では、主人公とヒロインの間で電話番号を交換するという話になっていた。


 このゲームのヒロインは一定以上の好感度で連絡先を教えてくれるので、大幅に好感度が上がった今のタイミングでイベントが発生したのだろう。


 そんなイベントを見ながら僕達は思う事を呟いた。


「……あ、ここで初めて電話番号なんだ。……今更過ぎない? このタイミングってさ」

「誕生日プレゼント渡すような間柄なのに、なんで連絡先交換してないのかしら……?」


 そう言った後に麗さんは何か思ったのか、少しの間があってからこちらの肩をつんつんと指で突いてきた。


「……ねえ、私たちだって人の事言えないじゃない」

「え……ああ、そうか。そうだよね」

「連絡先、交換しましょ」


 そう、僕はゲームの中の展開に文句を言える立場ではなかった。

 ……麗さんの連絡先を僕は知らないからだ。


 仕方ないじゃん! 連絡先を交換する文化は僕にないんだ! ……なんか、聞くのも恥ずかしいし。


 そうやって自意識過剰な思考をしながら僕はスマホのアプリを立ち上げ連絡先を登録しようとする。


 ……どっから登録すんだっけ?


 なんて、僕がかすかな記憶を頼りに友達登録、という名の連絡先交換のやり方を模索していた時の話である。


「……え、あった。なん……で」

「どうしたのよ、もうID交換してあったかしら私たち」


 僕は麗さんの言葉に首を横に振ると、自分の携帯に起きた異変を彼女に報告する。


「あったんだ。エリスの連絡先。消えてたはず、だったのに……」


 僕はそう言って麗さんに自分のスマホの画面を向けた。

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