協力者だけど婚約者
「……で、何か収穫はあったの?」
「え、な、なんの話……?」
如月さんは夕方近くなると買い物へ行ってしまった。
付いて行こうとか思ったら、
『いえいえ、後は若い二人に任せて、うふふ。……そう、若い二人に、はあ……』
なんて盛大に自爆しながら一人で出かけてしまったので今は麗さんと僕、ふたりきりである。
「まあ、特にあそこで何かしたわけじゃないしね。……神社なんて行って何かあるなんて流石に有り得ないか」
そう言ってため息を吐く麗さん。
僕はそこで彼女が何を言っているか気づき、どこからどこまで話したものか考える。
……というか、神社で気絶したら神に会ったなんて、普通は信じられるはずがないのだ。
なんなら僕も未だ半信半疑だ。
だって、会ったことを示す証拠は何一つ得られていないんだ。
(……エリスと会話できる能力、かあ)
勿論出来れば嬉しいし、それはエリスの生きる異世界と僕の生きる場所を繋ぐ方法が存在する事の証明だ。
それってすごいロマンチックというか、並行世界みたいなSFちっくな要素があって、物語がすきな僕としてはすごいわくわくしてしまう。
(だけど、今の僕がエリスと話して……何が言えるんだろう?)
感情的になってしまい、何も言わず消えた彼女を責めるかもしれない。
婚約者がいるなんて言ったら、エリスに浮気者……なんて言われるかもしれない。……そんな事、エリスはしないと信じてはいるけど。
何を言うでもなく、僕も麗さんも黙り込んでしまう。……気まずい沈黙がリビングを支配する。
(……麗さんの事、嫌いじゃない……というよりは好きだよね。少なくとも、人間性は)
……僕にエリス以外に友達なんていない。
その事は現在も思っている。
僕の持つ全ての繋がりは受動的な物で、きっとそこに含まれるのは同情や利害関係。
……好きなんて思われる要素、僕は持ってはいなくて。ただ、周りの人の優しさに甘えているだけ。
だから、友達なんていないって思ってるんだ。
(僕が麗さんに持つ感情が好意的な物でも、彼女にとっては迷惑かもしれないなんて当然で、近付き過ぎるのが怖い……なんて、最低だなこの考え方)
僕は卑怯で自分勝手だから人に好きなんて伝える度胸も、嫌われる勇気もない。
なんてゴミみたいな性格してんだろ。
(エリスがなんで僕に何にも言わずに消えちゃったのか。……それを考えてすらいないなんて)
きっと、エリスは僕が遠慮して本音を言えない事を知ってたから、だから、彼女自身も隠してしまったんじゃないか。
……過ぎた事に後悔しても仕方ないなんてわかっている。
けれど、エリスに何かしてあげられたんじゃないかという、仮定の話をどうしても想像してしまう。
(昔から思った事は喋る時全部出ちゃう。だから極力喋らない事で本音を守る。……なんというか、生きづらそうだなあ僕。……いや、実際たまに困ってるから生きづら『そう』じゃねえんだけど)
なんて、ぼっちの特殊能力、自分を客観視する能力を発揮させる。
(……で、結局このまま黙っておくのか? でもさ、嫌でしょ? あったことを麗さんに隠し通すなんて。……なんで、隠す必要があるなんて謎だけどね)
麗さんはエリスを探すのに協力してくれる貴重な協力者だ。
隠す必要なんて無いのかもしれない。
……けれど、隠さないのも僕は嫌だ。
そのことが原因で、麗さんと距離を開けることになるんじゃないかなんて思ってしまうんだ。
……だって、彼女は立場上……婚約者なのだから。
……僕がエリスに想いを寄せる事が、彼女に迷惑をかける事になるかもしれない。
(なんでエリスがいなくなってから、友達みたいに思える人ができちゃうんだろうね)
きっとこんな考えを回す必要もなく、普通に麗さんに神社であった事を直接伝えるのが当たり前。
無駄に思考だけでマイナスに考えることが意味ないなんて分かってる。
(……そっか、言えばいいのか)
自分の中で完結した思考をまとめ上げて僕はそう結論づける
(……別にいいんだ。どうせ、元々知り合うはずのなかった人だ。……それに、さっさと失望して見放された方がいい。きっとその方が楽だから)
……今から伝える事は婚約者という立場でわざわざ引っ越しまでしてきた彼女への侮辱にも等しいのかもしれない。
だけど……。
「……うん、決めた」
「何、急に。夕飯に食べたいものなら如月に連絡しなさいよ」
僕がちょっとした決意を固めるのに対し、麗さんは呑気にそんな事を言ってくる。
僕はその言葉の返答に困り頰を掻いてから敢えてその話を無視するようにして言った。
「……神社でさ、神様に会ったんだ」
「え!? ど、どういう事よ?」
「……あのさ、ごめん。きっとこれは、わざわざ引っ越ししてまでここに来てくれた麗さんへの裏切りで、最低の行為だと思う」
「……なによ、どうしたの?」
そうやって優しげな口調でこちらを不安そうに覗き込む麗さん。
……ほんと、心配になるほどいい人だと思うよ。
「……きっと、 断ってもよかったんだ。だけど、僕は断らなかった。それが、麗さんへの最低の裏切り、婚約者としての間違った振る舞い」
「……なんの話よ?」
「……僕は、神様に誑かされて、鹿宮エリスと話す事が出来るようになったんだ」
僕がそういうとただただ、麗さんは口をぽかんと開けて驚きを露わにしたのだった。




