彼だけが出来ること
目の前の神、……いやクソ女神って表現が一番しっくりくるか。
そいつの提案したことに僕は驚いた。
まさか、こちらに助力を申し出るような事があるなんて考えなかったから。
僕は聞いた言葉に間違いがないか、確認を込めてそう言った。
「……魔王を倒す手助けってどういう事?」
「そうか、急に言っても分からないか。じゃ、これも順を追って話そう」
そう言ってからクソ女神はじっと考え込む。
……喋っていなければただの美人でしかなくて、聖堂の壁画にでも描かれてそうな絵面だと思った。
「……うん、お金ってあるだろう? 君だって人間社会の一員だ、その仕組みくらい理解してるはずだよね」
「……急に、なんだよ」
「おやおや、言葉が汚いよ? 最初の敬語はどこに行ったたのかな?」
「……いい、説明を続けろ」
「おお、怖いね。ま、これ以上君を怒らせて協力を勝ち取れなかったら困るのは私だし、じゃあ続けようか」
こいつは僕の感情に興味なんてなくて、ただただ自己の利益を求めているのだろう。
……しかし、僕はこいつの言うことに耳を貸さない訳には行かなかった。
だって、その話にエリスが関与していないはずが無いのだから。
まだクソ女神の話は続いて、話を続けてくる。
「我々、神……正確には、人間にそう呼ばれる存在で呼称はないのだけれど、一旦置いておこうか。私たちは君たち人間の魂を、通貨のように扱っているんだ」
「……人間の魂がお金代わり?」
なんともスケールの大きな話だ。
倫理観が普通なら恐ろしいとか、気持ち悪いとか思うべきなのだろう。
だけど僕は、まず疑問があった。
「魂って、どうやって利用するんだよ?」
お金の様にっていうのなら、魂を回収する事だけが仕事では無いはずだ。お金だって溜め込むことは目標でなく、手段である。
だから、通貨のようにという表現をするのであれば、使う事を前提に話しているはずだ……と思う。
「ああ、本当に話が早いね君。怒っても感情論で物を言ってこない。楽だ」
僕の返しに微笑んで言ってくるクソ女神。
……人の見た目の良し悪しは分からないけれど、多分この顔で笑いかけられたら大抵の男は一発で落ちるか、壺を買わされる事を警戒するだろう。
ちなみに僕は迷わず後者の人間だと断言出来る。
クソ女神は僕の疑問を解消しようと、説明を続けてくる。
「そうだね。基本的に神とはいえ仕事の対価に、契約した人間から魂をもらう。寿命と言ってもいいね。私は恋愛の神だから、基本的にはこの神社に来た恋愛相談を神パワー……なんて曖昧なものではなくて、現実に何かしら干渉を起こす事で解決させる」
例えば、君とあの愚鈍な女を出会わせたのもそうだね。なんて、こいつは言う。
「ただ、それは君達で言う給料とか、製作したモノに対する対価だ。それだけじゃ、他の神とやってる事が同じなんだよ。私の上司からの評価には繋がらない。差別化できないんだ」
クソ女神は急に真面目ぶって表情を固くしてそう言った。
そして、すぐに飄々としたつかみ所のない笑顔に戻るとこちらに語りかける。
「さてさて、ここまでの流れで、私があの女の寿命を管理している事は想像がつくだろう?」
そうやって言ってきたクソ女神。
……なんとなく、理解できた。ここまでの話だけじゃなくて、エリスがなぜ異世界に行く事になったのか。
クソ女神は僕が無言で首を縦に振り、肯定をした事を確認すると再び喋り出す。
「そう、私はあの女の魂と、溜め込んだいくらかの魂を用いて、異世界を救ってあげようとした……したんだ! それなのに!」
ここで初めて激昂した様に叫ぶクソ女神。
……なんとなく、言いたい事は分かった。僕はその原因に心当たりがあったから。
「あの女、異世界に行く時に望む事に何を抜かしてきたと思う? 君の記憶を残す事と、君に応援されたら無敵になる能力だってさ。笑っちゃうよね。なんの意味も無いじゃん」
「……え?」
「驚きを隠せないって顔だね! 流石に賢い君ならこの行為の愚かさがわかるだろ!? だって、そんな事をしても意味がない、感情だけでアホな選択をする、その事の愚かさが!」
……さっきからずっと喋るな、こいつ。
とはいえ、僕は実際驚きを隠せずにいた。
……エリスが異世界転生していた事に、では無い。今更、驚くまでもなく状況から推理してそれが一番妥当だからだ。
そうではなく、このクソ女神がなぜ今更、エリスが異世界転生した事を懇切丁寧に説明して来たかだ。
……僕がその事を知っていないという前提で話すのならば、麗さんの書いたあの小説はなぜ生まれたのだろうか。
しかし、その疑問は解消される事なく話は続く。マシンガントークってきっとこういう事だろう。
「失敗すれば、私の評価はガタ落ちだ。そんな風になる前に異世界で死ぬはずの、万を超える魂を救わなければいけない。そのために魔王を殺す。……君の力が必要なんだ」
そうやってすがるようにこちらを向いて言ってくるクソ女神。……正直、こいつの頼みを聞き入れたくは無い。
「……つまり僕にエリスを応援しろって事?」
「そうだ。……どうにも、無敵になるなんて曖昧な表現だけれど、成立すればあらゆる分野で全ての物に勝る力が宿る……なんてあのアホ女には過ぎた能力だ」
「でも、方法は?」
「大丈夫。まだ私には魂の資産がある。これで君に『あの女と話せる』能力を授ければきっと上手く行く」
そう言って最後、慌てて話をまとめるように早口でまくしたてる。
「とにかく、君はノーリスクでその力を得て、あの女とまた話が出来る。私は、魔王を倒す事ができる。お得な話じゃ無いかい?」
「……随分と利己的だな」
「利己的で結構。どうせ君はこの話を断れない。こんな風に話していても、私が困っている事が分かって心が揺れ動いているのがわかるよ。……つくづくお人好しだね?」
また、見透かしたかのように言ってくる。
……ああ、腹が立つ。
自分で何か出来るのを見過ごせないのが嫌だ。
能力が低いから、頼られる事なんてなくて、自分にしかできない物事なんて一切ないから特別何かを成す事も出来ないのが嫌だ。
「……ほんと、最低だね、神様」
「最上級の褒め言葉だ。人間に好かれるなんて御免だからね。……じゃあ、答えを聞こうか?」
そう言って何度目か分からない微笑みをこちらに向けてくる。
妙に威圧的で、恐怖が感じられてしまう。
僕はなんとか毅然とした態度をイメージして堂々と喋ろうと意識する。
さっきまでの怒りを忘れ、落ち着いた喋り方を意識する。
「やるよ、だってエリスのためだ」
僕がそう言うとクソ女神が喜んですぐに何か杖を虚空から取り出す。
「……分かってたよ。ありがとう、愚かな彼女に負けない、哀れな彼氏さん」
そのまま何事か唱え出し、そして杖を真っ白な床に強く突き立てる。
「……あんたみたいな愚神に言われるなら、きっと最高の褒め言葉だよ」
そうやって僕が独り言を呟くと同時に世界が白い光に包まれ……僕は意識を失った。
サブタイトルのセンスが皆無




