神社での一幕
神社なんて混むような場所では無い。
僕はそんな事を考えていたが、実際には結構な盛況だった。
お守りやお札を買う人で社務所に行列が出来るなんて、僕は見た経験がないので驚きだ。
押し合いへし合いまでとは行かないが、人のいる場所なんて滅多に行く機会がない僕からすれば十分な数だ。
「……何も行事のない時に来て良かった」
ぽつりと口から安堵の声が出る。
初詣や祭事のようなイベントがある日に来れば間違いなく嫌気がさしていたはずだ。
まだ常識的な人の数だと思うので僕としてはありがたい。
「にしても、なんか見たことある気がするんだよなあ。デジャブってやつだと思うけど」
僕は社の方を見て言った。どうにも、見たことがあるような気がするのだ。
……まあ、違いがわかるほど神社に行かないから、区別が付かないだけかもしれないけど。
独り言を漏らしたつもりだったが、案外大きな声だったらしく、横を歩く麗さんがこちらを見上げながら質問をしてくる。
「親に連れられて来たことがあるんじゃないの?」
「うーん、それだと覚えてる……かな、多分」
親に連れられるにしても、神社にお参りにくるのなんて初詣くらいだ。
僕は単純な記憶力に関しては人に劣っていると思うくらいだが、ことエピソードに関していえば細かいことまで覚えている……と自分では思う。
学校の授業での先生の発言、過去にやってしまった細かい失態、ゲームで良い試合をした時の内容……そんなどうでもいいような事もはっきりと思い返せる。
特に神社なんて普段来ない場所……さらに、近くのさびれた神社でなく、こんな山の中となれば覚えていないはずがない。
「……なるほど、デジャブってこう言う事なんだな」
僕は初めて実感としてデジャブの感覚を持てた事に感動して言う。
どんな事でも初めての体験は感動が伴うので、とても好きだ。
そんな風に一人で感動に嬉しさを露わにしていると、麗さんは気持ち悪いという気持ちを前面に押し出すかのように引き気味に語る。
「……いや、あんたのそういうとこちょっとキモいわよ? 一人で急に笑い出すんだもの……」
「ひ、ひどい……」
僕はいっそわざとらしいくらいにしょんぼりした態度を取ってそう言う。
だが実際には特に酷いとも、辛いとも思っていない。
……自分でもなんとなく自覚しているから今更そんな事を言われたところで傷つく事なんてないからだ。
だから僕は続けて、本当に伝えたい事を彼女に言う。
「……いつのまにか、癖になっちゃったんだ。一人で笑うのも、喋るのも」
「まあ、私も友達が少ないから独り言をよく言うのはわかるんだけど、流石に人前で一人で笑う……なんて、やばい奴認定されるわよ?」
なんて麗さんは珍しく周りを気にするような発言をする。
……いつもは彼女の方が周りの受け取り方を意識しない発言してる気がするんだけどな。
とはいえ、僕が周りの目を意識していないのも事実。
そんなわけで僕は反省して、彼女へとその意を伝える。
「まあ、久しぶりの外だし気をつけるよ。人もいっぱいいるしね」
発言の通り、僕は意識して一人で考え込むのをやめようとする。
麗さんの顔を見て彼女と会話をする意思を前面に出しながら言う。
彼女はその言葉に対し顔をそらして言う。
「……まあ、せっかく二人きりになったしね。まずは本殿の方に行ってお参りをしてきましょ。ここの神様と、あんたの想い人様に何か繋がりがあるかもしれないわけだしね」
そう、如月さんは今、恋愛成就のお守りを先に一人で買いに行っている。
社務所の前の行列を見れば如月さんの姿が確認できる。……あ、目が合った。
彼女はにっこりと笑ってこちらに向けて手を振ってくる。僕はそれに対し、なぜか軽く頭を下げて答える。……声を掛けるのが苦手だから、きっとその代わりだろう、なんて自身で行動に考察をする。
どうも、彼女はお守りを買いに行くいう目的もそうだが、僕と麗さんが二人になるように仕向けたような気がする。
正直、神社に行く理由になった、エリスが消えたヒントを探るという目的からすれば、二人になれたのはありがたい。
けれど、なんというか私服の麗さんと一緒というのが新鮮で戸惑いを隠せない。
彼女は白いワンピースのような服装で、僕の目から見るととても清純というか、彼女の飾りげの無い心を表しているように見えてとても美しいなんて思った。
僕は服もそんな持っていないので、休日に近くの本屋にでも行くくらいのラフな格好。
いつも履いているデニムのズボンに、着なれた薄手のパーカーなんていう工夫も何もあったもんじゃ無いスタイルだ。
なんというか、隣を歩いていて彼女の可愛らしさに圧倒されるんじゃ無いかと思う。
エリスにしてもそうだったが、綺麗すぎてなんとなく隣を歩くのが不安になってしまう。
僕はそんな気持ちを伝えるべく彼女に素直な気持ちを伝える。
「麗さんのその格好、なんというか、天使みたいだよね」
ほぼ白一色で、アクセントに水色が入るくらいの服。
僕はそれになんとなく天使を連想してしまって、そんな感想が出てきてしまった。
「…………は、はあ!? ななななな、なによ突然」
僕はその麗さんの反応を見て、失敗したな。なんて思ってしまう。
また、怒らせてしまったみたいだ。
顔を逸らして、しかし横から見える顔は少し赤い事が分かる。
……なんというか人のことは言えないけど、麗さんも見れば、怒ってるなんていう風に感情が分かるなと思ってしまう。
僕はちゃんと彼女に謝らないとなんて、言葉を捻り出す。
「あ、ごめんね。変な意味じゃ無いんだよ、ただ、僕その格好すっごい好きだなって思って」
そうやっていうと彼女は更に怒ったのか、少し歩くのが速くなる。
僕もそれに置いていかれないようにと足を速める。
「……こいつ、分かって言ってたり、からかって言ってないからタチが悪いのよ……!」
何事か一人で言いながら麗さんが前を歩き続ける。
と、その時。麗さんの前に石段があることに気づく、彼女はそれに気づいて無いみたいで、ずんずんと先へ進む。
「あ、麗さん、危ないよ!」
僕はそうやってすぐ後ろから声をかけるも、彼女は聞いてくれず、そのまま前へ前へと歩を進めていく。
そこまでは早歩きで歩いていた僕も、彼女を引き止めようと走り出す。
そして彼女に触るのは申し訳ないからと、彼女の前に立って引き止めようとした……のが、きっと間違いだった。
僕は、そのまま石段から足を踏み外し、そして、転がり落ちたのだった。




