ぼっちにデリカシーを期待するのが間違い
麗さんとの会話を終えて、朝食も食べてしまった。
そして、そのまますぐに僕たちは車で移動をしていた。
麗さんが提案してきた、神社に行くという目的を果たすためだ。
如月さんの運転する車に僕と麗さんが後部座席に並んで座る。
……しかし、朝に二人で会話していた時にあったのんびりした雰囲気はなく、僕達の間に会話はなかった。
麗さんは僕から目を離すようにして、窓の外を見ている。そんな彼女を見て、僕はなんて言ったもんかと言葉を探す。
さっきから……というか、朝食前に話してから最低限の受け答え以外を麗さんはしていない。
僕は麗さんが喋らなくなる原因となった言葉を思い返して反省をする。
(いくら嘘つくのが下手だからって言っても、思ったこと全部言っちゃダメだよね……)
まさか『私があんたを人と触れ合えるようにしてあげる』なんて表現に、性的な要素を感じた事を相手に直接話す人間がいるのか?
……誰だろうなー、デリカシーがないなー。
(違うんだよ! 『やる』とか『ナニ』とかを曲解するくだらない遊びが好きなだけなんだよ!)
僕はライトノベルが好きだ。
とりわけ、何も考えずに読めるくらいに、アホらしく、自分らしくキャラクターが我を前面に押し出してくるような作品が好きだ。
そして、そういう作品に出てくる、話を曲解するような表現が好きなのだ。
……まあ、つまり。
その事を直接彼女に話したら、機嫌を損ねてしまったって事なんだけど。
僕は麗さんに尋ねられたのだ、『なんで急に笑いだしたの』なんて。
それに対して、『いやなんかえっちだよねって思って、さっきの言葉』……と返した僕は、麗さんに腕をつねられた。
そのまま彼女に『……変態』なんて言われ、口を閉ざされてしまったのだ。
(いや、そりゃそうだって……エリスは僕と好きな物がほぼ一緒だったけど、麗さんがそうかなんてわかんないじゃん……)
僕とエリスはたまに下ネタを言って、その下らなさに笑いあったりする仲だった。
……付き合うとか彼女彼氏とか、生々しい話が出ると露骨に二人で黙っちゃってたけど。
言ってしまえば現実感のない下ネタなら、軽いユーモアくらいの気持ちで言い合える関係性だった。
だけどそんな話、麗さんには関係なくて。
(気を許し始めてるからって、何を言ってもいいってわけじゃ無いのにね)
当然、人には嫌いな物があってしかるべきだろう。
ましてや下ネタなんて軽いものであっても忌避する人はいるだろうし、本人に向けたものであればさらに嫌なはずだ。
(でも、どうしよ……。謝るのは、当然だけど……その事でますます不快にさせちゃったら、申し訳ないもん)
そんな事ばかりを朝食の時から考えて、結局出かけてからも全然言葉が出てこない。
そんな風に僕たち二人が黙り込んでいると、運転中の如月さんがこちらに話しかけてくる。
「楽しみですね、奈月くん。大きな神社なんていつぶりでしょう。奈月くんは四、五年以上行ってない気がします」
彼女はそうやって話題を提供する。
僕は思考の世界から意識を戻されてハッとして答える。
「……あ、そうですね。初詣は近くの神社に行くくらいで、大きな所にはいかないですもんね」
「そうなんですよ〜。どうしても近くにある町内の神社に行っちゃう事になって」
「今から行く所、結構人気の場所らしいですね。調べたらパワースポット一覧って言うのに乗ってましたよ」
「そうです、そうです。私もそういうニュースを見て行ってみたいなって思ったから提案したんです」
そうやって喋りながらも如月さんは車を器用に運転する。
先程までは平坦な道を行っていたが、目的地に向けて山の中をどんどんと僕たちの乗った車が進んで行く。
木に日光が遮られ、あたりが陰に覆われていく。
如月さんも山道の運転で気を使うからか、口数が少しずつ少なくなる。
結局、すぐに言葉は続かなくなって再び沈黙が車内を包む。
僕は、こんな空気を作った責任を感じてしまって麗さんに謝ろうと話しかける。
「……あの、麗さん」
「……なに?」
窓の外を向いたまま彼女は僕の言葉に返事する。
「ごめんね、さっき変な事……というか不快になるような事言って」
「……だったら、最初から言わなければいいじゃない」
痛い所を突かれる。
そりゃ、いくら嘘がつけないって言っても、隠す努力くらいしろよって話はあるよね……。
僕がそんな事を思っていると、
「……というか、そんな事、気にする必要もないじゃない。……まあ、あんたの普段の性格からは考えられない発言だったし、ムッツリスケベなんて思ったのは事実だけれど」
そうやって彼女はあっけらかんと言ってきた。
……そんな、清楚清廉みたいな性格してないと思うんだけどな。
しかし、じゃあなぜ麗さんはさっきからずっと窓の外を見て会話してくれなかったのか……。
そうやってその言葉を彼女にぶつけると、麗さんはこう返してきた。
「……なんとなく、あんたの言葉で、あんたに触った自分にやましい部分があったんじゃないかって思ったから」
だから、恥ずかしくて黙ってた。……なんて、彼女は言う。
変わらず窓の外を麗さんは見ているが、横から見える彼女の顔は赤みがかって見えた。
自分の思いに対する羞恥からだろうか。
僕はそんな麗さんに対してちょっと驚いた。
彼女は普段思ったことをあっさりと伝えてくる。転校初日だってそうだった。
だから少しの間とはいえこうやって秘めて、それに加えて、自分の気持ちを恥ずかしそうに伝えてくるなんて珍しいと思ったからだ。
……やましい部分って言うのはどういうことだろう? なんて疑問も生まれてしまったが、僕は彼女が傷ついたりしていないようでホッとして胸を撫で下ろす。
「よかった。ごめん、変なこと思わせちゃって」
「いいわよ、気にしなくて。……まあ、あんたの発言にデリカシーが無かったのも事実だとは思うけれど、こんな空気にしたのは私のせいだから」
そうやって麗さんは言うと如月さんに話しかける。
「ねえ如月? あとどれくらいの時間で着くの?」
彼女がそう尋ねると、如月さんは嬉しそうに答えてくる。
「もう、着きますよ。 見てください、あの建物! そうあれが目的地、天風神社です!」
そうやって高いテンションの如月さんが示した先には大きな鳥居のある神社が見えたのだった。
現実での男女の話を聞く方が、小説の男女の話を読むより現実感がない




