デート当日朝のおはなし
「ねむい……」
「どうしたのよ、珍しい」
「……珍しいってほど、一緒に過ごしたっけ僕たち」
「だって、月曜日こそ寝坊してたけど、あんた基本早寝早起きじゃない?」
朝、目をこすりながらのっそりと起き出してきた僕に対して麗さんがそんな事を言う。
まだ麗さんと会って一週間しか経っていない。なのに珍しいなんて言われ方をされるのはおかしな話だ。
……朝は如月さんの作る朝食を食べに毎日来てるから僕の生態も把握されてしまっているのだろう。
ちなみに僕たちはリビングで如月さんが料理をしているのをソファで二人並んで座りながら、ほとんど待っているだけという状態だ。
……手伝いたいけど、如月さんの手際が良すぎて何もすることがないのだ。
さて僕は麗さんの質問に考えてから、自分の正直な言葉を伝える。
「いや、そんな規則正しい生活送ってないって。ただ、次の日が平日だからそうしてるだけ」
その僕の言葉に麗さんは息を吐いて、納得するように顎に手を当ててうんと頷くような動作をする。
「なんというか……あんたらしいわね。変なとこ真面目で、ルールを決めるとこ」
「当たり前じゃ無い? 自己管理するなんて」
「ま……まあ? そうよね」
なぜか麗さんは言い淀みながらなんとか口にだすように喋る。
……この前、ゲームを漁った時にもそうだったが、彼女は管理というのが苦手なタイプなのかもしれないな、なんて勝手に推測してみる。
僕はそんな麗さんが一人で何をしているのか気になってその疑問をぶつけていく。
「ちなみに、麗さんっていつもこっちの部屋から帰った後に何してるの? やっぱりゲーム? それとも別の事?」
その驚きを彼女に疑問としてぶつける。
少しだけだが地面を向き黙っていた彼女は、思い出したかのように喋り出す。……なぜかちょっと怒っているようだった。
「…………何も! 実家でもこっちでもゲームしてるだけあとは適当に風呂入って、時間になれば布団に入って寝るくらいよ!」
「あ、似たようなもんだね。僕も、そこに学校に間に合うように早く寝るって考えがあるくらいだよ」
そうやって呑気に返すと彼女はなぜかますます赤くなって言う。
「うっさい! 私が何してようが関係ないでしょ!」
激昂した様子で僕に思いっきりダメ出しをしてくる彼女。理不尽では?
そうやって怒ったかと思えば急に一人で落ち着いた様子で何か呟き出す。
「…………奈月の事を思って一人でぼんやりしてる……なんて言えるはずないでしょ」
彼女がこちらに聞かせる気がないみたいに小さい声で言うもんだから、当然聞こえない。
「でも、麗さんも気をつけてね? 一人暮らしだと風邪みたいな軽い病気でもかかると面倒だよ。気持ちも不安になってきちゃうから、そういう意味でも大変」
僕は一人暮らしをしていて一度風邪を引いた時、物凄く困った事を思い出す。
外に出ようにも、人に迷惑を掛けるなんて思いが先行して面倒なのだ。……と、考えるのは僕の思い過ごしかもしれないけれど、まず自分一人で全部の事をやらないといけないのが辛かった。
そんな思考のもと麗さんにおせっかいなアドバイスを送ったわけだが、しかし麗さんはそれに疑問を向けてくる。
「その感じだと奈月は元々一人暮らしだったのかしら?」
「そうだよ? ……言ってなかったっけ?」
「聞いてないわよ。エリスって子と如月が同居してたのは知ってるけど、あんたが何処にいたか、とは言ってなかったでしょ」
後半は如月さんに聞こえないようにという配慮からか小さな声だ。
確かに僕は如月さんにはエリスの説明はしていない。
……霜切さんにそのことが言えたのは元々の彼女の性格を知っていて、その上で言うタイミングが出来たから。
麗さんに言えたのは彼女が書いた小説があったからだ。
如月さんと僕は、そもそもそれほど関係性が深かった訳ではない。……今は闇が深すぎる関係な気がするけど。
それに、年だって如月さんは少し上だ。
だから、どうしても彼女の性格を知らない面もあって、気持ち悪いと思われたり、幻滅されたらどうしようみたいな事を思ってしまって……未だに言い出せない
だから、その僕の気持ちを汲んで如月さんに聞こえないようにと、気を使ってくれているのだろう。
ほんと、ちょっとしたところに優しさが感じられる。
エリスだって、霜切さんだってそうだったけどこういう優しさに僕は弱くて、依存してしまいそうになってしまう。
そんなダメな思考を首を振って、その行為と共に依存心を振り払おうとする。
……僕が彼女達に甘えるのは負担でしかない。
弱音も、嫉妬も、怒りも、負の感情は全て自分で解決すべきで、むしろ僕が好きな人達のために行動をしないといけない。
今日も、麗さんは僕のために行動を起こしてくれて神社に行くって話を持ちかけてくれたんだ。
「……まーた、ひとりで考え込んじゃって」
気づいたら、そうやってとなりに座っていた麗さんが僕の右腕にデコピンみたいにして人差し指を弾いて当ててくる。
僕は驚いて腕を体の方に引く。
「わっ! びっくりした!」
「……こんなしょうもない行為にそう驚かないで欲しいわ」
「し、仕方ないじゃん! 触られることなんて早々ないんだから」
「よく、あんた女の子とキスするところまで行けたわね……」
そうやって麗さんは呆れたのか額に手を当てて、ため息を吐く。
……確かに、そう言われればそうである。
対人恐怖症ってわけじゃないけど、人との距離の取り方が極端だからコミュニケーションが苦手なのかもしれないな。
そうやってまた顎に手を当ててうんうん頷き思考の世界に入って行く僕。
そんな姿を見て麗さんは呆れるを通り越したのか苦笑しながら言ってくる。
「ま、いいわよ。奈月とエリスとの話に決着が着くまでに私があんたを人と触れ合えるようにしてあげる」
そうやって純粋な善意からだろう、彼女は言ってきた
僕は嬉しいなんてごくごく当然で暖かい気持ちを覚えた。
……と、同時に今のセリフなんかえっちだななんてくだらない事を思って一人で笑い、麗さんに怪訝な目で見られるのであった。




