彼女の独り言無双
*
私は異世界に来てからほぼ毎日記録を付けている。
「……どの辺に埋めてたかしら」
しかし、この世界での紙は少し高度な文明らしく、少なくともこのエルフの村においては自分たちで土の文字盤を作るのが一般的なようだった。
地面に土魔法を掛けて薄い四角形に削り取る。そうやってできる、言うなれば土のノートだ。
その後水魔法を使って、氷で土の表面に文字を書く。……というよりも水蒸気を無理矢理に魔法で氷に変えているというのが正しいみたい。
なんにせよ土で手が汚れる事と、自分の魔力を使う事以外にそれほどデメリットはない方法だと思う。
大量の枚数が確保できない事以外でこの方法に不便は感じていないので重宝させてもらっている。
……初めはこんな事が出来てしまうのに少し戸惑ったが二回目以降は慣れたものだ。
「なんで人に対して以外だとこれだけ新しいものに対して順応が早いのかしら」
魔法が一ヶ月のうちにして日常の一部になる。
そんな風に柔軟に考えを回せるくせに人と上手くやるなんて能力が私に欠如しているのはなかなかに意味不明な事だろう。
「……人嫌いは治らないし、この村でも仕事と食事以外で会話なんてしないものね」
結局、私は奈月くん以外に友達なんて出来なかった。
最後に彼が言っていた、友達がなんで出来ないのかな? なんて質問の答えは簡単だ。
『私のプライドが高いから』きっとただそれだけ。
奈月くんは不思議な人だった。
自分の能力を正しく認識しているはずなのに、でも他人と比べると常に劣っている、なんて考えを持っていた。
『この難易度のテストだったら多分百点だよね』……なーんて言いながら実際に百点取って。
そのくせ、こんな事やろうとすれば誰でも出来るって、冗談でも謙遜でもなく……それを本気で言ってた。
「自己評価は正しいけど、人の評価は驚くほど甘々なのよね」
そう言って吹き出して笑う。奈月くんの難儀な様子は正直周りから見ていて……可愛らしかった。
奈月くんはそんな考え方だから、性格はすっごい良かった。
大抵の出来事は笑って受け流すか、親身になって一緒に考える。それが当たり前の事として出来る人間だった。
そんな彼もたまに物凄い口が悪くはなる。だけどその時に出る言葉が何かを守るためだったり、彼が認められない物と戦うための手段なんだって思えた。
私はそんな彼の真摯さというか、不器用さがとても羨ましくて、だからこそ彼の事を好きになれた。
私には、沢山の人間の凄さを受け入れるなんて出来ない。
だから、彼はプライドを一定の地点で持ちつつ、人の能力を認められるある種の度量を素敵だと思った。
「だから異世界まで、奈月くんへの想いを引きずっているんだけど。……よいしょ」
私はそうやってぼんやり思考をしながら、土のノートを掘り出し、今日の出来事を彼に向けて書き始めるが
「ええと……『ここ最近はずっと村周りの木の管理をしています。増え過ぎると日光が差さなくなり、少なくなり過ぎるとマナが足りないなんて話だそうで、周りの人……というかエルフに頼りきりです』」
なんてそんな今日の出来事をまとめて出来事を日記にまとめていく。
……奈月くんに読んで欲しいからなんてわがままな願いを込めて彼に語るような口調で、そして私以外がこの想いを知らないよう、裏庭にこっそりと埋めて保管をしている。
……そもそも、日本語だから私以外には読めないんだけど、気分の問題だ。
なんとかして書き終わった私はちょっとだけ添削をする。
……その作業をすると自分の中で寂しい気持ちが溢れ出してきて、いつもこの添削の瞬間に書いた事を少し後悔する。
「こんなことしても誰が読むでもないわけだものね……」
そうやって思うととても虚しい自己満足だとはっきりと感じられてしまって、どうしても彼にもう一度会いたい、なんて女々しい想いが胸をよぎってしまうからだ。
「私は女なんだから、いくらでも女々しいって思って大丈夫。……なんて、奈月くんなら笑って言うでしょうね。その後に、僕も美少女だったら女々しく生きられたのに……なんてしょうもない発言をしてくるの。ふふ、なんてそれらしい会話」
一人でそうやって彼との会話を妄想する、虚しさは加速するが、むしろ空しければ虚しいほどいほど自分の滑稽さに面白さが感じられる。
「……矛盾の塊みたいな考え方ね。……奈月くんに『死んだ方がましだよ?』みたいに言われちゃうわね」
そんな風に彼の口癖の一つを思い出しながらも書く手は止めず日記をひたすらに書く。
「『だから私はあなたに会えない事以外、ここで暮らす事に満足できています』……っと。キザと言うか調子に乗った感じがするわね」
締めの一文まで添削を終えたところで私は満足して思わず息を漏らす。
「あとは、これをいつもの場所に埋めるだけ」
そう言って借りている家の裏庭にこっそり保管してある日記のまとめ場所を開く。とは言っても大したことはなく、ただ地面に直方体を切り抜いて、そこの穴に入れているだけ。
カギみたいなセキュリティもなく、ただその空洞に蓋を被せて保管している。
「タイムカプセルみたいなしまい方よね」
その隠し方の例えが頭の中をよぎり、その出来の良さに自分で笑ってしまう。
その瞬間にふと我に返って呟く
「……悪癖ね、一人で笑うの。周りから見ればさぞかし気持ち悪いでしょうし、奈月くんみたいに同調して笑ってくれる人がいるわけでも無い。寂しい人間ね」
私に勝手に体の中に入られたアリアも可哀想だと思う。
「こんな悲しい精神性を持った人間、私なら絶対近づかないもの」
なんて、誰よりも私に近い立場にいるはずの私自身が拒絶したくなってしまうくらいだ。
普通に考えて興味を示してくれる人がいるはずもなく、実際に今この村でも村長とその娘さん以外には話しかけられるなんてほとんどない。
「……まあ、女性しかいないことと、私の見た目が万人受けするタイプのものじゃ無いって言うのはあるから楽なんだけど」
前世では、酷い時にはジロジロとこちらを舐めまわすように平然と胸や足を凝視する変態がいた。
それに比べて今のこのロリっぽいというか幼い容姿は興味を持たれにくく楽でいい。
……余談だが、唯一見て欲しい奈月くんは私の容姿に興味がないのか、それともコミュニケーションが苦手だからなのか、たまにぼーっとした時以外には視線をもらった覚えがない。
私は掘り返す場所を見つけてそこの蓋を魔法で切り取って外しながらそんな事を考える。
「多分、両方とも会ってるわよ、ね……よいしょ」
私は思わずそんな掛け声を上げながら土のノートの山が入っているはずの穴を開く。
実際、大量の日記がそこにあるのはパッと見て分かった……が、そんな事よりも私の目に付くものがそこにあった。
「……紙?」
そこには、なぜか分からないけれど入れた覚えのない紙が入っていた。
「私以外の誰かって事よね……だけど、元々アリアが持っていた物の他に紙なんて見なかったけれど……?」
気になって手に取ってみると文字がびっしりと書かれていた。
なぜか、日本語で。
すぐに私は読み進めて、そしてタイトルらしいところを見て驚愕し、
「『坂川奈月の告白』って……! 何、これ……!? 奈月くん、いるの!?」
そして、裏庭に私の声が響いた。
毎日投稿頑張って俺




