何か始めようとして躊躇するやつ
「神社……ですか。またいきなりですね」
僕は帰って来て、開口一番如月さんにこの近くに神社が無いかなんて聞いてみた。
「近くだと、町内に小さな神社がありますけど……麗様と一緒に行くんですか?」
「はい。図書室で話してたら行ってみたいなんて話になって」
そうやって確信部分を隠しながら言う。
……麗さんにはエリスの話をしたものの、如月さんにはどうにも未だに相談出来ずにいる。情けない話だ。
「そうですねえ……近場に遊びに行っても面白く無いですし……。そうだ、前から行きたい神社があったんです。その場所じゃダメですか?」
如月さんはそんな提案をしてくる。
僕としては如月さんが自己主張をしてくるのが珍しく、少し驚いてしまう。
この一週間でも、基本的にこちらの意思を尊重するような姿が多かったからだ。
とはいえ、如月さんにはいつもお世話になっている。その彼女の発言を無下にするのは最低の行為だろう。
どうせ、エリスがどこで願い事をしたかなんて分からないのだ。
だったら、元々は彼女と近しい場所に居た如月さんの言葉に従うのは一つの手だろう。
「いいですよ。話からすると少し遠い場所にある感じなんですか?」
「ここから実家と同じくらいですね」
「ちょっとだけ遠いんですね。でも、せっかくだから行きましょう。僕も楽しみですし」
そうやって僕が言うと如月さんは口元を隠して笑ってから言う。
「うふふ。そこ、恋愛成就の神社なんですよ。……奈月くんと私の縁がいつまでも途切れませんように……!」
……よくこの人と二年近く暮らして無事に過ごせたなと、喜ぶ彼女の姿を見ながら僕はそう思ったのだった。
*
「天風神社? そこに行くって話なのかしら?」
夕食の後、僕は麗さんと一緒にゲームしながら明日の話をしていた。
……麗さん、いつもこっちの部屋にいるから隣の部屋が寝る場所にしかなってないな。
僕達はこの前と同じゲームを二人でしながらゆるゆると喋っている。
今日は一対一での真剣勝負というより、アイテムやステージギミックなどなどなんでもありのゆるい対戦をしていた。
「そう。如月さんがせっかくだから行ってみたいって。調べたらそこそこに有名な神社らしいよ。……あ、それ反確で死ぬからやめたほうがいいよ」
そういって麗さんが相変わらず使っている最弱キャラを吹き飛ばす。
その瞬間に試合が終わり、それとほぼ同時に麗さんが喋り出す。
「……まともなタイマンじゃないのにそういうとこはシビアに反撃取ってくるのね」
「ゲーム内容が全然違う訳じゃないから手癖でやっちゃうんだ」
「こんな滅茶苦茶なルールでさえ勝てないなんて……」
そういって麗さんは悔しそうにしてから、明日行く神社について話し出す。
「……まあ、悔しいけど今度はきっと勝つわ。……で、さっきの話だけど、如月の提案なのよね?」
僕はこくりと頷いて彼女の言葉を肯定する。
彼女はそんな僕の様子を見て言葉を返してくる。
「エリスって子はそんな神頼みするタイプじゃ無いわよね? 私の書いた文章がその子に似ているっていうならだけど」
「そうだね、神頼みはエリスは好きじゃなかった。……はず。断言は出来ないけどね」
「だったら、神社に一人で行くなんて考えづらい。例えば、元々はその子の近くにいた如月と一緒に行った可能性もある。その神社が関係あるかもしれないわね」
「そんな事あるのかなあ……」
僕はここまで計画しておきながら、この行為に意味があるのか不安になってきた。
「ま、行ったからって何かがある訳でも無いかも知れないわ。けど、行くだけであんたも心の整理が付くかもしれないし、行ってみましょう」
麗さんはバッサリと自分の仮説を無視して、割り切った様子でそう言う。
確かに行く理由をはっきりと求める必要もない。
どうせ滅多に外に出ないのだし、たまの外出くらいの気持ちで行けばいいか。
「じゃあ、ゲームも今日はこれくらいにしておくわ。あんたにアレの続き書いてもらわないといけないしね」
そういって立ち上がると座る僕を見下ろすようにして、微笑みながら可愛らしくウィンクする。
……自分が可愛いって自覚してないとやれないよね、こんな事。
僕はそんな麗さんを見て自分に自信が持てるなんて羨ましい……なんてどこかズレたような感想を持ったのだった。
*
僕はあの後自室にこもって机の上で閉じたノートと向き合っていた。
麗さんの書いた小説の続きを読むためである。
今日の放課後の以外にも彼女は執筆を行っていたようで、目印としてノートに貼られた付箋の位置で結構な文量があることが想像できた。
「……恐いなあ」
僕はそれを開くのを躊躇ってしまっていた。
「もし、エリスがエリスじゃ無くなってたら、きっと耐えられないもんね……」
結局、文章中のエリスと僕は関わり合いがあるはずが無い。
小説中の彼女が僕の知っている彼女では無いと確信できてしまったら、きっと絶望するしかない。
エリスがいた証拠はもうどこにもないのだと、実感させられる事になるから。
「だから、読みたくない……なんて気持ちはある」
そうやって思いながらも、けれど別のことも考えていた。
「……もしも、もしも、この物語がハッピーエンドになったのなら」
そうすれば、再び彼女に会えるかもしれない。
「……都合が良すぎるって話だよね」
そんな妄想を頭の片隅に抱えた事に自嘲して、でも僕はその甘い甘い甘美な響きに勝てなくてノートに手を伸ばす。
「……にしても、自分にすらチョロすぎないか僕……」
ちょっと嬉しい事を考えるだけで何かをする勇気が出るなんて楽な性分だなお前、なんて自分自身に対して思う。
その思考の下らなさに吹き出して一人で笑ってしまう。
そして、僕はそのまま笑ってノートをめくり始めるのだった。




