コミュ障は接待プレイが出来ない
委員会の仕事だったり、二人で帰ったというのもあって僕たちが家に着いたのはいつもより三十分ほど遅くなってしまった。
家に着いてすぐ、如月さんと一緒に料理を作り、僕は如月さんと麗さんと三人で食卓を囲む。
いただきますという挨拶から始まり、僕たちは会話をしながらご飯を食べる。
「それで、学校はどうでしたか、麗様?」
「まあ、悪くないと思うわ。そこそこに平和だし。隣の席に奈月もいるしね」
その言葉を聞いた如月さんは驚いたように目を見開いて、こちらをじいっと見つめて来る。……うん、何が言いたいかは想像がつくけど、触れる必要は無いだろう。
どうせ麗さんが僕の事を名前で呼んでいるなんて事だ。
僕は如月さんのその態度を知らないふりと言った態度で受け流して麗さんの言葉に同調する。
「転校初日だったけど、あんまり問題も無かったもんね」
「あんたって言う知り合いが居るんだから楽よ。……ただ、朝の女どもは嫌いだけど」
「そういえば、そんな事あったね。気をつけてね? 女子の体育とか僕も干渉できないから、露骨にはぶられたりしたら、色々面倒だよ」
「嫌よ、私ああいうタイプの女に迎合するの嫌いだもの」
やはり麗さんは強情で、自分の考え方を曲げて相手に合わせる、なんて考え方は納得できないらしい。
そんな風に言う麗さんに僕は何か言葉をかけるのをためらってしまう。
麗さんの強情さは損だとも思うが、正しさを貫こうとする姿勢が間違っているとも思えないからだ。
そうやって、僕が黙り込むようにしていると如月さんが話題を変えるよう会話に入り込んで来る。
「麗様、ゲームが趣味と言ってませんでしたか? 食事が終わったら奈月様と一緒にゲームしてはいかがでしょう?」
そう話題を急激に転換する。
僕としては何か変なことを口にして空気を悪くしてしまうのも嫌だったからこういう助け船はありがたい。
麗さんも如月さんの話に釣られて、そちらに意識を向ける。
「そうね、ふふん。奈月は友達がいないって話だから人と遊ぶ、なんて滅多に無いでしょう? 仕方ないから遊んであげる」
そうやって不敵に笑いながら話す麗さん。
……すっごい楽しそうにしている。
麗さんも僕と遊ぶのを楽しみにしてくれているのかな、なんて自分に都合の良い解釈をする。
僕もエリス以外とゲームするなんてそうそうないから一緒に遊ぶのを楽しみに、食事を進めるのだった。
*
食事が終わり片付けを如月さんと協力しながら終わらせる。
麗さんと僕で家にあるゲームを漁る。ちなみに如月さんはそんな僕らの様子を少し離れた場所で座って見ている。
「あんた、そんなにソフトは持ってないのね。一応ハードは一通り揃ってるから私の家から持ってこれば出来るのはいいけど」
「……いや、まあ漁っていいとは言ったわけなんだけど、流石にくつろぎ過ぎじゃない?」
リビングの床には彼女が僕の部屋や、棚から出して散乱させたゲームでいっぱいである。
片付けが面倒そうで少し気が重くなってしまう。
「麗さんの部屋がどうなってるか気になるよ……」
自分も元々大概部屋が汚い方である。
だが、今は如月さんが掃除してくれる事と、過去の僕が如月さんに迷惑をかけまいと部屋を綺麗に使うことを意識していた。
そのためかそれほど物は散乱していない。
まあその事を免罪符にしても僕のいい加減な物の管理が許されるとは思わないが、それにしても麗さんは相当にがさつな性質だった。
「なによ失礼ね。物の場所が分かるなら部屋なんて十分綺麗って言えるでしょう?」
「それ掃除しない人が言い訳するための典型的なセリフだよ……」
そうして物を無くして困るまでがテンプレだ。ソースは僕。
こんな風に掃除の話をしていると、麗さんが急に話を変えてくる。
「そんなことはどうでもいいから、ゲームしましょ。得意なの、このゲーム」
急に方向転換してゲームの話をしてくるので神経の図太さにちょっと呆れてしまう。
「どうでもいい事にしちゃうんだ……。一人で暮らすなら汚しすぎないよう気をつけてね……」
実体験を基にそう言ってから「ゲームするなら付き合うけどさ」とだけ簡潔に返す。
僕自身はそこまでこのゲームに自信はないが、麗さんが乗り気なのを断るのも悪いと感じたのだ。
「そう、じゃあすぐ準備するわね」
そう言って彼女はすぐにゲームを始める準備をする。非常に楽しそうに手を動かしているのが分かる。
テレビとハードの電源を入れ画面が明るくなるのを待つ……僕自身、考え事がありすぎて少しの間ゲームには全く触れていなかったので楽しみである
僕たち二人とも先の楽しみに心がざわついて、ゲームの起動時間だけお互い無言になる。
そんな状態だから、麗さんがコントローラでただカーソルをぽちぽちと操作する電子音だけが室内に響く。
少しだけ緊張感があって心地いいなんて思えてしまう。
しばらくしてゲームが起動し、タイトルロゴが映る。
「お、出来たわね。ほら自分のコントローラ準備しなさい」
「はいはい」
さっきから麗さんがその辺を荒らし回ったのに加え、エリスがここに暮らしていた時からゲーム関連は物の配置が大きく変わってはいない。
だから、コントローラの準備はすぐに済む。
……しかし、なんで僕一人しか使わないはずなのにコントローラ二つあるんだろ……?
また新しい疑問が一つ生まれながらもゲームを進める。
当然のように麗さんは対戦ゲームを引っ張り出して来たのでまずはキャラ選択から始める。
「私この子が本キャラなの」
そうやって彼女が選んだのはこのゲームで一、二を争うほどの弱さを誇る、ピンクで丸のキャラクターであった。
ちなみにそのキャラと最弱を争っているキャラもまた同じようにピンクで丸のキャラである。
とはいえこのゲーム、キャラが五十近くいる中でどのキャラも試合をひっくり返す性能が強い……つまりワンチャンがあるというのが特徴で、別に麗さんが使っているキャラが弱いといっても舐めて掛かれる訳ではない。
「どれにしよっかな?とりあえずこのキャラ結構好きだからこいつ」
僕はとりあえず、たまに触る程度の中の上くらいの超能力少年のキャラを使う。
最初だしお手並み拝見くらいの気持ちでやろうと決める。
「へえ、何そのキャラ。簡単に場外出せちゃうじゃない」
そう言って強気になる麗さん。
二人ということもあり、麗さんはゲーム設定をタイマン用に整えていく。
「それじゃ始めましょうか……まあ、私の勝ちだと思うけど?」
そうやって僕たちは試合を始めたのだった。
*
「なんでこんな勝てないのよ!?」
僕が十三連勝した頃だろうか、麗さんが立ち上がりながら激昂する。
「……うん、なんでも何もまあ、麗さん……突っ込み過ぎだよね……多分、CPU戦しかしてないよね……」
結論から言うと、麗さんは弱かった。
僕が使い慣れていない弱キャラを使ってやっとゲームになるほどである。
「なによ、あんたこのゲームそんなやってたの?」
「うーん、時間だけ言えばそこそこだけど、別にそんな強い訳じゃないよ?」
「私、最高難度のCPUにも3回に2回は勝てるのよ!?」
「……まあ、このゲームのCPU反応速度をめちゃくちゃ早くしただけで、ぶっちゃけ他の技術ガバガバだから正直弱いんだよね」
僕はそう言ってから、実際に麗さんの代わりに最高難度のCPUを出して、そのCPUとタイマンをしてみる。
そして、適当にCPUの行動ルーチンに則って、特定の行動を釣ってそれを狩り続ける。
「ほらこの通り簡単に勝てる。逆に自分から攻めようとすると、超反応ジャストガードから反撃されるよ?」
喋りながらCPUを倒しきると麗さんが文句を言ってくる。
「……なによ、嫌味ったらしく。私、友達いなかったし、自宅のネットも自由に使えなかったから対人戦なんてしたことないのよ」
そして彼女は悔しそうに呟く。
対戦ゲームなんて勝てて初めて嬉しい物だと思うから、やっぱり負け続けが応えるのだろう。
「……よかったら、またうちで対戦してよ。僕も、今はそういうことができる友達いないし、うちならネット環境も整ってるはずだしさ……麗さんが悔しいの、わかるから」
そうやって言い切ると麗さんはそっぽを向いて言ってくる。
「ふん、分かったように言わないでよ」
その後、少し顔を下げて続けてくる。
「……まあ、奈月が、寂しくて、私と、どうしても、遊びたいっていうなら? 考えてあげなくもない……けど」
言葉を一言一句区切りながら呟いてくる。最後は語調が少し弱くなってしまっていた。
よっぽど悔しかったのだろうか?
顔も心なしか赤くなっているような気がする。
僕は、これ以上麗さんを傷つけてはいけないと宥めようとする。
「もちろん大歓迎だよ。僕もゲーム一緒にできる友達とかいないからさ、また明日も来てよ。このゲームに関してだったらアドバイスもできると思うし」
「別にアドバイスなんていらないわよ……今日は悔しかったわ。だけど、今度は勝つからね」
「うん、勝ってみせてよ」
そうやって僕は笑って言う。
そんな僕に対して、顔の赤いままで体育座りをしながら麗さんはぼんやりとキャラ選択画面を見ながら呟く。
「ねえ、あんたって、あの子……エリスとゲームはしてたの?」
唐突にそんな質問が飛んでくる。
僕は別に何を思うでも無く答えた。
「うん、ここに来れば毎回。……多分、僕よりエリスの方が強かったかな? 僕、不器用だしせっかちだし、練習も嫌いだから操作が下手なんだ」
「……そう」
麗さんは簡潔に二文字で僕の言葉に返す。
ゲームのBGMだけがやたら大きく響いている気がする。
麗さんは体育座りをし口元を引き締めたかと思えば小さめの声で、
「……負けない、絶対に」
なんて僕に聞いてほしいなんて風でも無く、一人で言っていた。
こんな言葉が出てくるなんて、麗さんは負けず嫌いなんだなって思う。
僕はそんな彼女に向けて微笑んで「また、遊ぼうよ」なんて言ったのだった。
手加減すると馬鹿にしてる気がしない……?




