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麗さんは嘘がつけない

「転校生の桜ノ宮 麗です。よろしくお願いします」


 朝のホームルーム、麗さんが転校の挨拶を簡潔に終える。


 理数科に転入してきた麗さんは当然、唯一の理数クラスであるD組に配属される。つまりは僕と同じクラスになったわけだ。


 クラスメイトは夏休みが終わってしばらくなんて言う中途半端な時期に転校生が来たのもあって露骨にざわめき始める。


「こんな時期に転校なんて珍しいな」

「あたし、クラスに転校生が来るなんて初めて!」

「うおお、本物の合法ロリだ!」

「……いや、まだ年齢的に違法だろ」

「……サイテーね、あんた達」

「俺は突っ込んだだけなんだけど!?」


 突っ込み方が悪いよ、それは……。


 なんて、クラスメイト達が騒ぎ出すのを横目に僕は一人無言で麗さんの方を見つめていた。


(堂々としたもんだなあ……)


 転校なんて高校生である僕らには大イベントで緊張してしまいそうなものだが、麗さんは無感情と思えるほどに淡々と挨拶をこなしていた。


 麗さんの挨拶が終われば、あとは席を決めるだけになるのだが、そこはすぐに決まった。


「じゃあ、空いてる席が廊下側の後ろにあるのでそこに座って下さい」


 そう言って先生は僕の隣を指し示す。

 なぜか、半年近くずっと空席であったらしいその机を麗さんの席にするようだ。


 ……僕からすれば金曜までそこにはエリスがいたはずなんだって叫びたいが。


 僕は麗さんが席に着くのを見て、席が空いていた昨日よりも、もっと強くエリスがいないことを実感する。

 もしかしたら彼女が戻ってくるかも、なんて淡い期待が僕の中にあったんだろうか?


 しかし、現実で隣に座るのは麗さんであり、そこに僕の大好きな人はいない。


(僕はどうしたいんだろう?)


 消えてしまったエリスの事を思い続けても、結局何も前には進まなくて。

 僕自身が理想とする『わがままな生き方』を実行するためにはどうするべきなんだろう?


(まずは麗さんの書く小説を読み込むのがいいのかな……? 明らかにあれ、僕の知ってるエリスだし)


 そんなことをしても、周りから見ればただ妄想に自慰行為をする変態でしかないのは確かだ。

 けれど、その通り僕は空想に溺れるのが大好きな頭のおかしいキモオタだと開き直る。


 そうでもしないともう一度彼女に会える気はしないから。


(けど、なんで麗さんがエリスの事を文章に書けたのかって事も分かってないし。……さすがに何かしら超常現象が起こってる気はするけどね)


 もしも、麗さんの書く小説の出来事がエリスの身に起きたことであれば、僕以外がエリスの事を覚えてるのはおかしい筈だ。

 ……つまりそれって彼女が好きなのは僕なんだと断言するのと等しい訳で、想像だけで恥ずかしくなってしまう。


 それはともかく麗さんはエリスと知り合いでも無かっただろうし、そもそも彼女の事を知るはずがないのだ。

 彼女がエリスについて書ける事が、まずもっておかしい。


(まあ、そこに納得のいく理由があったところで、エリスに会える訳じゃないから良いけどさ)


 大事なのは再びエリスに会うことだ。

 そこの理由を追求するのは後でいい。どうにも、細かい事に気が回っちゃうのは悪い癖だな。


 とりあえずは麗さんと良好な関係を作って、エリスに繋がる情報を手に入れる。

 それが、当面の目標だ。


(……婚約者に黙って浮気する満々のクソ野郎だな、この思考)


 そんな事を一人でぼんやりと考えているとホームルームが終わる。


 当然、こんな時期外れの転校生に注目が集まらないはずもなく、隣の席には人が大量に集まっていく。


(大変だな、注目されるのって)


 僕は完全に人ごとみたいにして、授業に向けての準備をする。


「ねえねえ! 麗ちゃん! どこから引っ越してきたの?」


 これはクラスの明るい女子。ちなみに、無意識に相手を攻撃するので嫌いなタイプだ。


「転入の試験って大変じゃなかった?」


 これは喋ったことのない女子。ちなみに休み時間に笑いながら友人とつるんで机を叩くのが趣味なので嫌いなタイプだ。


「分かんない事あったら聞いて!」


 これはお節介系女子。ちなみに実際に頼っても何も頼りにならないので嫌いなタイプだ。


「じゃあまず、年齢を教えてくれるかな?」


 これはロリコン。ファッションロリコンではなくガチロリコンなのでいっそ清々しくてむしろ好感を持てる。

 ……いや待て、その質問は色々な意味でクラスメイトに飛ばすもんじゃないだろ! ……あっ、友人に連行されてる。いいぞ、ロリコンの友人A。


 にしても、大変そうだ。麗さんはどうするのかななーんて思って見てたけど、どうにも何も答えていない。


 そりゃ、聖徳太子じゃあるまいし、立て続けに話されて全部聞き取れる訳もなし。

 そんなこと御構い無しにクラスメイトは話しかけ続けるのでなかなかに面倒そうだ。


 僕は普段そんな事全然しないのだけど、麗さんは顔見知りに当たる訳だし、助けた方がいいかなと声をかける。


「あの……せめて、授業の準備してからにしてあげようよ」


 僕がそう声をかけると休み時間に机でドラミングする女が露骨に顔をしかめながら言ってくる。


「いいじゃない、私達の勝手でしょ」


 いや勝手ではないだろう。

 もしかして天才なのか? 論理が二転三転してるせいで僕みたいな凡人には理解できないのか?

 それともやっぱりドラミングが得意なゴリラなのか? 言語が通じないのか?


 ……いやまあ、ただ単に僕とは違う論理体系に生きてるから、こっちが理解できないってだけだろうけど。


 とはいえ、ここで押し負けては麗さんがただただ迷惑を被るだけ。だから何か言い返そうとしたその時。


 麗さんが机をガタッと言わせながら立ち上がる。

 そしてそのまま、きっぱりと言い放つ。


「そいつの言う通りよ、せめて、こちらの迷惑くらい考えてちょうだい」


 ……空気が凍った。


 周りの人達は黙りこんでしまい、ただただ静寂がその場を支配する。

 喋るのは空気を読まないロリコンだけ。


「うほぉ、リアルロリ美少女の毒舌。我輩も直接浴びたいですぞ」


 ……なんだその口調。あっ、ロリコンが口を塞がれた。いいぞロリコン友人A。


 とはいえ、そんなロリコンの言葉に喋るという行為を思い出したのか、お節介系女子が話しかける。


「桜ノ宮さん、それは酷いんじゃない? 私達も、あなたのために話しかけてるのに」


 ちなみに個人的な意見としては、僕は気を使うならこの女は話しかけないのが最大の気遣いだと思う。それくらい、自分の為にしか他人の手伝いをしない。


「黙ってなさい。その理論を振りかざした時点で、もうそれは自分の為よ」


 どうにも、麗さんも僕と同じ意見であるようだ。


 しかし、さすがにこれ以上言うと問題しか産まないと思った僕は話に口を挟む。


「桜ノ宮さん、みんなが気を使ってくれてるから無下にしちゃだめだよ」


 ……自分でも半分くらい心にも無い事を言っているのは分かるけれど、この場を収めるにはこれが一番いいと思ったのだ。


 しかし、麗さんはそれに文句が言いたいのか言い返してくる。


「なによ。私の婚約者なのに、あんたそういう事言うんだ」


 その言葉を聞いた明るい女子は、「え? 今なんて言ったの?」なんて聞き返す。

 ……まずい、非常に嫌な予感がする。


「そいつと私、結婚することになってるって言ってるの!」


 そうやって激昂したように言い放つ。


 クラス全員の視線がこちらを向く。


 麗さんの転入一日目にして僕たちが婚約の関係にあるとバレた瞬間だった。

奈月くんの他人に対する思考は案外バイオレンス

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