人の好意を受け入れるなんてぼっちには難しいんだ
昨日の次の日、つまりは今日である。……いや何言ってんのか分かんないなこれ。
とにかく、今日は火曜日。麗さんが僕と同じ学校に通い始める日である。
「随分中途半端な時期に来る事になったなあ……。夏休み後すぐだったら、色々手間もなかったと思うんだけど」
しかし、行動としては急なのに隣の部屋がすぐに使えるようになっていたり、転校の手続きも特に問題なく終わっているのが謎ではある。
「麗さんは一人で暮らすっていうのもちょっと気になる部分ではあるよね」
どうにも麗さんは身の回りの世話をしてくれる付き人というか世話役がいないらしい。
「いや、まさか僕にどうにかしろって事じゃないよね……」
実際、そのために家が隣にあると言われれば納得するしかないし、まさか如月さんの負担を増やすわけにも行かない。
……今日の朝食はなぜか三人で食べたので、その時点で一つ負担は増えてるけど。
まあ、麗さんだって立派な高校生だ、特に困ることがあれば親にでも相談を持ちかけるだろう。
「問題は学校だよなあ……。どうにも、昨日一日過ごした感じだと、僕の実家がお金持ちな事に関して触れられるなんて事は、霜切さん以外には無かったし」
……そもそも、人と話さないって何回も確認してるだろ! 何回この思考をすればいいのか。
とはいえ、僕自身が家のことを喧伝して回るタイプではないし、周りの人は僕の事なんて知らないだろう。
「……まさか、麗さんが『こいつ、私の婚約者』なんて台詞……吐いたりしないよね?」
なぜか、婚約者だったり、趣味が一緒だったり、なんなら共同で小説書くことになったりと距離が遠い訳ではないんだけれど……僕は彼女の事を全然知らない。
なんとなく、口は悪いし言葉は直球だけど、性格はそれほど捻じ曲がっていない事はわかる。
如月さんも、僕と仲良くできるんなら悪い人のはずないなんて太鼓判を押していた。
だけど、それと周りがどう思うかは別で。
「まあ……はっきりとした物言いって嫌われやすいよね。僕も中学校の時にお世辞なんて言えないタイプだったから部活辞めた訳だし」
結局、他人がどう思うかで評価なんて決まるから、麗さんがいい人なんて僕が思う事に意味なんてないのだ。
だから、僕は麗さんが楽しめる学校生活を送れるように努力しようと決意する。
「とりあえず、関係を怪しまれない程度には仲良くしないとね」
「……誰と、誰が、仲良くですって?」
そうやって僕が一人でリビングで座って決意を呟いていると後ろから声がかかる。麗さんのものだ。
完全に一人の世界でぼんやりしていた僕は驚いて距離を置く。
「うをぉ! ……脅かさないで欲しいよ!?」
「凄い声出たわね!? ……あんた、ひょっとして相当にビビりなのね?」
「そそそ、そうだよ!? いや、苦手なんだって急に驚かされたりとか!」
「ただ声をかけただけなのに!?」
僕はその言葉にこくこくと首を縦に振る。
「はぁ……どんどんあんたが婚約者である事に不安が出て来るわ……」
「僕も麗さんの立場だったらそう思うよ、絶対」
「自覚のあるポンコツって悲しいわね……」
同情をされてしまう僕。
僕自身も自身の悲しいサガにしょっちゅう同情してるのでその気持ちは分かる。……自身に同情をしている僕の立ち位置はどこにあるのだろうか……?
僕はこんな羞恥を味わう会話、続けたくは無いので彼女にさっさと学校に行くように提案する。
「と、とりあえず準備できたんなら行こうよ!」
「……まあ、これ以上あんた突っついても私が面白いだけよね。仕方ないからその言葉に誤魔化されてあげる」
そんな風にやり取りして僕たちは二人して学校に向かい始める。
*
通学路を二人で歩くこと数分、僕たちの間に会話はあまり無く、たまに散発的な会話が混ざるだけ。
そんなだから、僕はどうしようかと彼女の方をちらちらと見たりして、なんとか会話内容を探そうとする。
彼女は当然と言ってしまえばそうだが制服を着ていた。
そして、昨日や一昨日はボブだった髪型を変えて、黒髪をポニーテールみたいにまとめて、しかし横から流しているような髪型をしている。……なんて髪型だっけこれ?
僕にとって通学路で隣に歩く女の子はエリスだけだったから、小さな黒髪の女の子が隣に歩いているって言うだけで違和感がある。
とはいえ、髪がちょこんと横から飛び出るような様は、背が低い彼女の容姿と合わさって元気そうなんて印象があって僕は凄い好きだ。
ロリコンでは無い。……いや、好きって思ってる時点で言い訳でしか無いけど。
そう思っていると黙っていた麗さんが険のある声でこちらに話しかけてくる。
「……なんで、そんなジロジロ見てるのよ」
警戒心を露わに、横目でこちらを見てくる。
心なしか物理的に距離も取られた気がする。
「ご、ごめんなさい。昨日と髪型違うなーって思ってたら、見つめこんじゃって。すごい似合ってて好きだったから、つい……」
「お世辞ならいらないわ。……こんな髪型、子供っぽいなんて自分でも分かってるもの」
だったらなぜその髪型に……などと思うも、それ以上触れてしまうのも問題がある気がして、僕は彼女に謝る。
「そっか、ごめんね……」
僕は肩を落として、そのまま彼女を見ているのも申し訳無いから、下を向き気味にしょんぼり歩く。
そんな僕の様子を見かねたのか、麗さんがさっきより語調を強めて言ってくる。
「別に、あんたがどう思うかはなんてあんた次第だから、私は……嬉しくなんてないけれど、何言ってもいいわよ! 全然、私がかわいいなんてあるはずないけど、あんたがそう思うなら勝手だわ!」
とても顔が赤くなっている、僕の様子を見かねて呆れて怒ってしまっているのだろう。
麗さんは不器用ながらに他人を心配できる人なのかななんて思えて、僕は彼女の優しさに甘えるのも申し訳無いなんて考えて彼女に正直な気持ちを伝える。
「麗さん、きっととってもいい人だよね。多分、僕なんかと結婚するのが申し訳無いくらい」
僕はそうやって自分の思うことを伝えて、そのまま彼女に正直な気持ちを畳み掛けるように伝える。
きっと、こういう場面で伝えられないと素直に麗さんは受け入れてくれないから。
「麗さんを見てると、人に自分の気持ちを伝える手段が正直に伝える以外には無いのが僕と一緒でとっても親近感が湧いちゃう。一緒に居てすっごく気楽だよ。だって、言ってる事に嘘が無いんだもの」
そうやって僕はけらけらと笑いながらあっけらかんと伝えようと努力する。
そんな僕の言葉に麗さんは馬鹿にされたと判断したのかすっごく顔を真っ赤にして言う。
「だ、だから……あんたに褒められても何も嬉しくなんて無いもん! 私、先に学校行くからね!」
麗さんはそう言って走って先に学校へ向かってしまう。
僕は学校に着いたら隙を見て麗さんに謝らないといけないな、なんて思いながら、彼女の気持ちを汲んでゆっくりと歩き出すのであった。




