あなたのご趣味はなんですか?
一度会話が止まってしまうと会話を再度始めるのは難しい。
僕と麗さんの間でも当然そうなってしまい、少しの間彼女と僕、二人とも黙りこんでしまう。
ただ先程喋った様子で麗さんがどんな人なのかという事が気になってしまった。
実家に来る前に「婚約者はわがまま」という情報を如月さんに教えてもらっていた訳だけど、実際に見ると周りの様子を見るという行動が出来る人間であると分かった。
わがままであるならば、周りを気にせず自分の主張を通すという事、自分の悪い評価を受け入れるなんて到底出来ないという事。
自分の感覚でしかないから当てにならないかもしれないが、こういう事から麗さんがわがままなんて、とても思う事が出来なかった。
僕は人が正当な評価を受けられない事が嫌だ。
自分の能力が低いからというのが理由なのだが、大抵の人間、何かしら僕より凄い部分がある。
麗さんがわがままなんていう評価もきっと何かの誤解で、きっと正しい扱いじゃないんだろうと思いたいし、確信したかった。
だから僕は、再び話をしたくてなんとか話題を捻り出す。
「……好きなことって何かありますか?」
「何よ急に?」
「いや、あの、これから付き合っていく間に知らないと困るなーと思って」
「付き合ってって……いや、まあ、そうよね。結婚するんだものね……」
麗さんは完全には納得してなさそうなものの、理解できる部分もあったのか気乗りはしなさそうに話し出す。
「……まあ、そうね。私は家だとよくゲームしてるかしら。あとは、アニメとか漫画も見てるわね」
「インドアなんですね。僕もそうなんですけど」
「外に出る習慣が無いのよ。ほんとは外出たいんだけど、家で勉強してなさいみたいな扱いを受けるから。外に出る事は陸上の部活くらいだったわね。高校ではやめちゃったけど」
「陸上やってたんですね」
「中学まではね……成績が悪くて、高校だと辞めさせられちゃったわ」
成績というと、部活の方だろうか?
「陸上の成績ですか?」
「いえ勉強の方。反発して勉強しなかったら家庭教師を呼ぶ事になって、それも嫌だったの。だから、それにも反対したら、勉強するのが嫌なら早く籍でも入れろって言われちゃった」
ああ、なるほど。だから結婚なんて話になったのか。
「あんたは? 趣味とかあるの?」
今度は逆に麗さんがこちらに尋ねてくる。
「そうだね……麗さんと同じでゲームくらいかな? あとは……ライトノベルを読むくらい」
……初対面の人間に言う趣味では無い気がするが、麗さんも近い趣味だったし隠しておく必要も無いと考え、正直に伝える。
ところが麗さんはそことは関係のない部分を指摘してくる。
「……名前で呼ぶのね」
「え?何がです?」
「私のこと、名前で」
「ああ、はい。桜ノ宮さんって言っちゃうと両親と区別が付かないって思ったので、それで、名前を」
そうやって言ったが麗さんは興味を示すこともなく、ぷいっと軽く横を向いて呟く。
「……まあ、別に、どうでも、いいんだけど。……名前で呼ばれたからって、嬉しいなんて、あるわけないんだし」
なぜか、言葉を区切るように言ってくる麗さん。何か思うところがあるのだろうか?
「……呼び方、別の方がいいですか?」
「いや、気にしなくていいわよ。……嫌なわけじゃ無いもの」
不安になったので確認してみるけれど、麗さんは別に否定するでもない。
横を向いた顔が少し赤くなっている。怒ってしまったのだろうか。
うーん、だけど本人が良いって言うんだし、このままでいいのかなあ……?
婚約者の呼び方について迷う事になるなんて考えもしてなかったなとかぼんやり思う。
そうやって考えていると、麗さんは今度、僕の趣味に対して言及してくる。
「にしても、あんたもオタクの鑑みたいな趣味してんのね。見た目通りすぎないかしら?」
そんな風に、辛口に麗さんは言ってくる。
僕は『的確に事実だなぁ……』とか思いながらも、それを認めるのもなんとなく恥ずかしいので、誤魔化すようにして答える。
「酷くないですかね……?いや、確かに周りから見たらそうだから、否定のしようもないんですけど……」
ここまで話して思ったが、麗さんはなんというか、正直な感想を相手に直接言ってくる人だ。
こういう物言いを他の人にもしているとなると、「わがまま」という認識をされているのもなんとなく理解できてしまう。
そう思っていると、僕の言葉には特になんの反応も返さずに、麗さんは何事か呟き出した。
「……こいつも同類だったら、いっそこいつに頼んだっていいんじゃないかしら?」
声量からして完全に独り言であり、別にこっちに聞こえる必要なんてないんだろうという事だけは分かる。ただ、声は間違いなく漏れ聞こえてくる程度の声量だ。
……なんというか、親近感が湧くね。僕も、独り言大好きだし。
そんな風にシンパシーを麗さんに感じていると、彼女は再びこちらに向けて喋り出す。
「ねえ、私の書いた小説読んでくれない?」
……僕は向けられた言葉の意味を理解する事が出来ず、固まる事になるのだった。
奈月君の処理能力はガバガバ




