4話 前
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「『ハイド』って何者なんですか!? 」
詩織さんの家に向かう途中、僕はどうしてもそれが気になっていた。
「あいつは・・・・詩織の妹だよ」
「え、でも・・・・」
「そう、死んでいる。死んでしまったはずなんだ。そのはずなんだ。自ら命を絶って。」
自ら命を絶った。
それなのに、『ハイド』は存在する。
「詩織の妹、志姫ちゃんはね、すごくおとなしい娘だった。虫も殺せない様な心優しい女の子だったよ。でもね、彼女の異能『ハイド』は、悪虐の限りを愉しむ。確かな理由は無い。でも『そうゆうものだから』悪を為す。それが『ハイド』なんだよ。」
「・・・・悪役級」
悪役級として生まれた人間は、大半が自分の異能をコンプレックスに感じる。
それもそうだ、自分の異能が悪用するしか能が無いだなんて、人に言える様なものでは無い。
それを、彼女は抱えていた。
自分なら、絶対に耐えられないと思う。
「同情してる暇なんて無いよ。」
かいちょーが真剣な声で気付く。
何かが僕達の前に立ち塞がる。
「詩織・・・・」
そこには詩織さんがいつもの彼女らしさを失い恐ろしい形相をして立っていた。
よく見ると、口をパクパクと開いている。
「詩織、わたしだよ。桃花だ。なぁ、『ハイド』がいた。お前の家に来ていないか? 」
「・・・・ない」
「え? 」
「・・・・・・さない。許さない。許さないッ!! 」
「うわっ!? 」
突然、詩織さんの背中から翼が生え、飛び上がると僕達に襲いかかる。
「お前の所為だ! お前の所為だ! お前達の所為だ!! お前が悪いんだ! お前が悪いんだ! お前達が悪いんだ!! 」
「詩織!? どうしちゃったんだよ!? 」
「詩織さん! 落ち着いてくださいッ!! 」
「うるさいっ! お前達が、お前達と、お前達と関わったから妹が死んだッ!! 許せない!! 許さない!! 許す訳にはいかないッ!! 」
詩織さんが羽を投げ付けてくると、まるで地面がとろけたチーズの様にジュワァっと溶け始める。
「くそ、なんなんだ、その能力は!! 」
彼女は本来異能が使えない。
だと言うのに、先程から起きているこの現象は何なのだ。
彼女が自分の異能を偽っていた?
それは考え辛い。
彼女は自分の欲望に素直な人間だ。
それはつまり、自分に嘘を吐けない人間でもある。
彼女の吐く嘘はすぐに表情に出てしまい、すごくわかりやすい。
では、この能力は何だ?
それに、なぜ暴走している?
まるで、誰かが乗り移っているかの様な・・・・
「栞・・・・? 」
【キシシ♪】
上を見上げると、『ハイド』がニタァッと微笑んでいた。
【正解だよ、陽きゅん♡】
「『ハイド』・・・・」
【はぁい↑ よくわかったねぇ、それじゃあ解答をあげよう。ボクはねぇ、彼女の脳に2つの『栞』を挟んだ。『鶴(鶴の恩返し出典)』と『炎(マッチ売りの少女)』だね。二枚挟んだからねぇ、今頃押し寄せる感情の波で爆発寸前なんじゃないかな? 】
「お前が、やったのか・・・・?」
僕の質問に、『ハイド』はむぅっと頬を膨らませ、ぴょんっと、降りてきた。
【なぁに言ってるのさ〜、全部君の所為だろ? ↑】
「僕の、所為? 」
【そうさ、君がシキちゃんを振ったから。君がシキちゃんに優しくしたから。君がシキちゃんに関わったから。全部、君の所為だよ。】
振った?
優しくした?
関わった?
何を言ってるんだ??
【キシシ♪ やっぱ覚えてないよねぇ? 君は、たくさんの人の心を救ってきた。それなのに、君はたくさんの人の心を見殺しにしたんだぜ? ひでぇ事するよなぁ? 救いの手を差し伸べて、最後にはパッと手を離すんだ。記憶を無くす前のお前はそんな人間だったんだよ。キシシ♪ がっかりしたか? 幻滅したか?? 絶望したか?? そうだよなぁ? お姉タマを見てみな? すぅっかり心が壊れちまった。お前の所為でな。今あいつは戦ってる。葛藤している。このままだと、あいつ、内側から弾け飛ぶぜ? そんな事させたくねぇよなぁ? 大事な大事な先輩だもんなぁ?? 栞を引き抜く方法はただ1つだ。目的を達成する事だよ。なぁ、陽きゅんさぁ、あいつの為を思って、あいつに花を手向けると思ってさ、いっぺん・・・・殺されてみてくれない? キシシ♪】
僕の所為?
記憶にない
だからこそ、心に深く突き刺さる
死にたく無い。
でも、殺されるだけの理由があるのかもしれない。
恨まれているのかもしれない。
悲しまれているのかもしれない。
僕は、ここで死ぬべきなのかもしれない。
「ぼ、僕ーーーー」
「いい加減な事言うなよ。」
ピシッと会長が口を挟む。
見上げると塀の上にボロボロになりながら詩織さんの腕を掴む会長が立っていた。
「君さぁ、さっきから肝心な事言ってないよねぇ?」
【・・・・何の事かな?↓ 】
「えっとね、ワンコくんが志姫ちゃんを振った理由、時期、しーちゃんがワンコくんを狙う理由。全部中途半端な説明で誤魔化してる。それってさぁ、ワンコくんを追い詰めようとしてんの? 」
【どうかな? でも、きっかけを与えたのはこいつだぜ? 】
「違うでしょ? 死んだのは志姫ちゃんの意志。あんたさぁ、いい加減にしなよ? 自分で勝手に好きになって、自分で勝手に振られて、自分が死んだら全部他人の所為。随分身勝手な人間だったんだねぇ、志姫ちゃんは。そりゃ振られて当然だよ。死ぬだけの理由が志姫ちゃんにはあったのかもしれない。彼がきっかけになる様な事を言ってしまったのかもしれない。でもさぁ、自分で覚悟して起こした結果だろ? 自分で勝手に死んだ。それだけじゃないか。なんで彼が責任を感じる必要があるのさ。おかしいよねぇ? そんなんで一々責任を取れるほど、君は立派な人間じゃないよ。良いか、ワンコくん。君は何も悪くない。私が保証する。君は、他人の手を掴んだら絶対に離さない。離せない程に愚かだ。だから、救いの手を差し伸べて手放したのは君じゃない。相手が勝手に諦めたんだ。相手が勝手に諦めたんだ。君に救われた人だって、ちゃんといる。だからさぁ、君が背負うべきは他人の命じゃないーーーー」
【ごちゃごちゃうるせぇなぁ?# 】
会長の言葉を遮り、『ハイド』が攻撃を仕掛けてくる。
【良いんだよ、こいつが悪いんだ。こいつが全部悪いんだ。『責任』? ばぁか、そんなもんただの建前だよ。ボクはこいつが気に食わない。だから殺す。難しい事はわからない。だから殺す。特に深い理由なんかない。だから殺す。人間の殺人動機なんてそれで充分なんだよ。『あいつ』はもっと回りくどい事言うけどな、それが全てだ。それが人間なんだ。いいから黙って殺されてくれやッ!! 】
頭に血が上っているのか、先程までの鼻につく喋り方が崩れている。
それにしても理不尽過ぎる。
僕はこんな奴の言葉に心を動かされかけていたのか・・・・
「全く、下品な妹だねぇ? 」
会長がやれやれと言った顔でいつの間にか手にしていた紙を破く。
「なぁ、そう思うだろ? しーちゃん」
詩織さんに生えていた翼が消え始め、ゆっくりと地上に降りてくる。
「え、えぇ、我が妹ながら恥ずかしいわ」
【お、お前、どうやって・・・・ッ!? 】
詩織さんの意識が戻った事で『ハイド』がたじろぐ。
「簡単だよ。首元に栞が挿し込まれていたからね、ちょっと外してあげたんだ。」
【あ、ありえない! だって、そんな事!! 】
「いいか、『ハイド』。私はね、イタズラするのが大好きなんだ。」
あぁ、人の本に挿してある栞を引き抜くイタズラね。
僕もよくやってたな〜。
今度風香ちゃんにやってみよ。
「さすがかいちょー! 手癖が悪いですね!! 」
「えっへん、もっと褒めてくれよ、ワンコくん」
「よーしよしよしよし」
「ふにゃ〜ん♪ 」
「ふにゃ〜ん♪」だって、頭撫でたら猫みたいな声出した。
顎撫でたら「ゴロゴロ」って言うかな?
「遊んでる暇は無いよ、陽くん」
恐らく、この中で一番消耗しているであろう詩織さんが呟く。
【テメェらが、テメェらなんか、絶対許さねェッ!! 】
「あらあら、『ハイド』ちゃん。口が悪いわ? これはーーーー」
「うん、そうだね、しーちゃん。これはーーーー」
会長と詩織さんがぎゅっと手を握る。
すると、二人の手から真っ白な光を放ち始める。
「「お仕置きの時間だッ!! 」」
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